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「肺炎で死ぬ」ということ
2016年11月29日(火)
月刊公論12月号の連載は、「肺炎で死ぬということ」で書いた。→こちら
老衰と似て非なるものである肺炎は古くて新しい病気だとつくずく思う。
高齢社会になり死因の第三位になったが、まだまだ知られていない。
老衰と似て非なるものである肺炎は古くて新しい病気だとつくずく思う。
高齢社会になり死因の第三位になったが、まだまだ知られていない。
公論12月号 老衰とがんと肺炎の間
古くて新しい“肺炎で死ぬ”ということ
死亡原因の第三位に
肺炎が脳梗塞を抜いて日本人の死因の第三位になり、全死者の約10パーセント弱を占めている。しかし、がんや心筋梗塞であっても死因を「肺炎」として公表されるケースは少なくない。新聞の片隅には、毎日のように著名人の死亡記事が載るが、生前に伝えられていた病名と記事として報道されている死因が異なることがある。たとえば永六輔さんは長らくパーキンソン病を患っておられたが死因は「肺炎」だったし、その後を追うようにして旅立たれた大橋巨泉さんは咽頭がんと闘っていたが死因は「急性呼吸不全」だった。お二人やご家族にはもしかしたらパーキンソン病やがんという病名を残したくないとう意図もあったのかもしれない。このように死因とは、純粋に医学的なものというより多分に社会的な側面がある。
医師が書く死亡診断書には死因を書く欄がある。死因とは死亡の原因のことで、原死因とも言われる。原死因とは世界保健機構(WHO)によれば「直接死亡を引き起こした一連の事象、起因した疾病・損傷」と定義される。つまり末期がんの人が最終的に肺炎を起こしても原死因は、「がん」と記載されるべきである。人口動態調査や死亡統計は死亡診断書に書かれた病名を基に作成されている。
では、死亡診断書に書かれる原死因は医師によって変わるのか? あくまで私見だが、「変わる」と思う。その理由として3つ挙げてみたい。第一に医師による見解の相違だ。末期がんに併発した肺炎を治せればもう少し生きられた、と考える医師はがんではなく肺炎を原死因とする場合があり得る。第二に社会的影響を考える場合だ。たとえばがんという病名を公表されて欲しくないと家族から要望される場合があり得る。理由はいろいろだが、がん家系や遺伝性のがんの場合、それは遺族にとっては世間にあまり知られたくない個人情報であるという考え方もある。そういえば最近の新聞の死亡欄には病名が詳しく書かれていない場合がある。
肺炎か老衰か
そして3番目の理由として、たとえば在宅看取りの際には、肺炎と書くか、老衰と書くべきか迷う場合が少なくない。もし「肺炎」と書くと遠くの親戚から「なんだ、肺炎も治せなかったのか、入院すれば治せたのではないか」と言われて後味が悪くなることを懸念する場合がある。その場合は多少の「肺炎」があっても「老衰」と書く場合もある。だから迷う場合は家族とよく相談してから病名を書くようにしている。
なかには「老衰」としか言えないケースがある。しかし最後の1日だけ熱が出て少しゼコゼコしていたのでおそらく軽い肺炎を併発したのだろう。そんなことは決して稀ではなく純粋な老衰はあまり多くない。若い医師は純粋な老衰であっても「老衰」とは書きたがらない。昔、「老衰なんて書くな!」という指導をしていた上級医師がいたことを思い出している。
一方、20年以上町医者をしている私は積極的に(?)「老衰」と書くようにしている。家族にも「生き切りましたね。老衰での大往生、平穏死です」などと説明している。つまり病院と在宅では「老衰」に対する認識にかなりのズレがあるように感じる。しかしまだ平均年齢に達していない人に「老衰」を書く時には迷うので家族とよく相談する。家族も「老衰」という言葉を嫌がる家族と、反対に喜ぶ家族がいる。「大往生」や「平穏死」という言葉で在宅療養を支えてこられた家族の労をねぎらうには「老衰」という言葉のほうが相応しい場合が多い。
日本人の死因第三位が、「肺炎」である理由を、死亡診断書の観点から考察してみた。末期がんや老衰で亡くなった人でも、死亡診断書には「肺炎」と記載する場合もあると。さて私たちは空気と一緒にさまざまなウイルスや細菌などの病原微生物を吸い込んでいる。健康な状態であれば、体内の免疫が防御機能が作動して病原微生物の増殖を阻止するので病気には至らない。しかし、風邪が長びいたりストレスで体力や免疫力が低下すると、自力では病原微生物を排除しきれなくなり肺炎に至ってしまう。これから寒い季節になるとインフルエンザが流行するが、その二次感染として細菌性の肺炎に至ってしまうケースもある。
高齢者肺炎の9割が誤嚥性肺炎
さて高齢者に圧倒的に多いのが誤嚥性肺炎である。高齢者の肺炎の9割以上は誤嚥性肺炎と言われている。年をとって、飲み込む力(嚥下機能)が衰えてくると、食べ物や唾液が食道ではなく誤って気管のほうに入ってしまい、喀痰として排出しきれないと肺に炎症がひき起こされる。しかし老化に伴い誤嚥が増えるのは当たり前のことだ。解剖学的に人間は声を出して「話す」という能力を獲得した代償として「誤嚥もする」ことになった。しかし介護施設や病院では誤嚥性肺炎を過度に怖れている。訴訟になれば負ける可能性があるからだ。だから食事中にムセやすくなった人に対して、「これ以上食べたら誤嚥性肺炎で死ぬかも。だから胃ろうを造りなさい!」と、経口摂取の中止と胃ろう造設を勧めるところがある。しかし食事中のムセが直接的な原因で誤嚥性肺炎にはならない。誤嚥した食べ物は喀痰として上手く排出するので肺炎には至らない。呼吸機能や免疫能の低下で、喀痰として上手く処理や排出ができないので肺炎に至る。
では胃ろうを造れば誤嚥性肺炎にならないかといえば、それも違う。実は、高齢者の誤嚥性肺炎は食事中ではなくて、夜間睡眠中に口腔内の唾液や胃から逆流したものが気管内に垂れ込んで起こることが分かっている。むしろ口から食べない人のほうが口腔内に嫌気性菌が増えるため、肺炎のリスクが増加する。いずれにせよ日々の口腔ケアや肺炎球菌ワクチン接種による肺炎予防と最期まで食べることための工夫や嚥下リハビリなどの「食支援」こそが超高齢多死社会医療の大きな課題となってくる。
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この記事へのコメント
昔の人は、死因 という名前に拘っていただろうか。
私が知る過去の、故人の時代には、生きることを懸命に過ごし、
働くために生まれてきた、と当然として語る方が多くありました。
働き者が たくさん身近かに居ました。
入院して死ぬ、とかは想定外な時代だったのかも知れません。
実際に、心臓が悪いという80歳代であっても、自ら動き、
働き、健康的な日常を過ごし、「医者なんて..」と豪語し
「心臓が悪くたって、動けるょ。」とか言ってましたっけ。
もしも、「死因は何にしますか?」なんて聞いてみたなら、
「なんだっていいょ。」と言われてしまいそうです。
Posted by もも at 2016年11月29日 07:43 | 返信
難しいですね…
高齢である以上、誤嚥はつきもの…
飲み込みが悪くなるのも、老いるということ…
うちの旦那のばあーちゃんは、96歳…
飲み込みは悪く、きっと誤嚥してるでしょう〜
でも…口から、食べるということ…
やめる必要はないです…
だって、食べることが、楽しみなんですもの…
昨年の夏に、余命数日か???でした…
しかし、1年以上、経っちゃいました✨
ボケちゃってるんですが…お元気です。
私(孫嫁)のことを、おばさん、おばさん…
実息子(私から見て…義父)のことも、おじさん、おじさん…
ひ孫をみては、旦那(孫)の名前を呼びます。
病名は→老衰…でっす。
Posted by 訪問看護師池ちゃん at 2016年11月29日 09:42 | 返信
100歳を超える利用者さまが 、おうちで穏やかに過ごしています
まだまだ ご家族も 亡くなるなんて思っていません
それでも 命が尽きる時は必ずきます
老衰っていう病名がつくんでしょうか…
大往生っていう病名がいいなぁ〜と思っちゃいました
Posted by 訪問看護師 宮ちゃん at 2016年11月30日 12:19 | 返信
私の父は、若い頃は水泳で鍛えていました。中学校か高校時代に三保の松原で水泳大会があって、中曽根康博前総理大臣に負けたと言っていました。中年時代は、友達にテニスをする人がいたので、平成7年の阪神大震災があるまではテニスをしていました。阪神大震災で仮設住宅がテニスコートに建てられたのでそれを機会にやめました。それなのに、宝塚に60歳近くで引っ越した途端風邪をこじらせて、肺炎になりました。それ以来風邪ひきや肺炎を怖がっていました。
それでも動いているうちはあんまり風邪もひかず肺炎にもなりませんでした。
86歳を過ぎた頃から、上行結腸癌、耳下腺腫瘍になり手術をした後尻もち転倒をして寝たきりになって、一年足らずでインフルエンザワクチンの予防接種をしていたのにインフルエンザに罹り、あっという間に肺炎になり、主治医がスキーに行ってしまったので、救急病院似入院して院内感染MRSAに罹患して苦しんで死にました。
丈夫だった父がこのように簡単にMRSAで死んだのは、死ぬまでタバコを吸っていたからです。
タバコを吸っていると肺炎になりやすいし、院内感染MRSAに罹患し易いと後になって知りました。
病院で死亡診断書を貰ったら「肺炎で死んだ」と書いて有るので「MRSAで死んだと書いてほしい」と言うと「死亡診断書を書いてもらいたいのなら文句を言うな!」と言われました。
ですから新聞の死亡広告欄に、夏なのに「肺炎で死亡」と書いてあるのは、99%院内感染ではないかと思っています。
Posted by 匿名 at 2016年11月30日 04:07 | 返信
ほんとに…
現在 入院中の患者さんのご家族から相談です
救急病院入院→リハ病院→救急病院→と何度か繰り返しています
今度は
おうちに帰りたいと希望を出したら
死ぬよ!…
…と言われたようです
病院にいたって 死ぬでしょ!って言ってやりたいんですが…
自分の人生…
最期の大事な時間をどう過ごすか…ですよね
Posted by 訪問看護師宮ちゃん at 2016年12月01日 01:07 | 返信
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