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高カロリー栄養から脱却して在宅へ

2016年12月23日(金)

きらめきプラスの連載の12月号には、いい質問を頂いた。
「高カロリー輸液を脱却して、家に帰る方法」である。→こちら
このような質問はよくあるので、参考になるのでは。
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きらめき12月

千葉在住のお父さんと二人暮らしの女性(55歳)からの相談です。

【質問】
1年前に母が亡くなり、現在父(87歳)と二人暮らしですその父が肺炎で入院し、食事もできなくなり、中心静脈栄養になりました。入院して2ヶ月が経過しましたが、意識もはっきりしていて呼吸もかなり楽な感じになってきました。入院してからは全く動けなくなった父を看護師さんが2時間おきに体位変換やおむつ交換をしてくれ、また痰の吸引も一日に3回位しているみたいです。病院の方たちも良く面倒を見てくれていますが、父は「もうそんなに生きなくていいから自宅に帰りたい」というので先生に相談したところ、「この状態で自宅で一人で介護するのは難しいと思うので、ある程度落ち着いたら、療養病棟に移してみてはどうですか」という話をしてくれました。できれば最後の父の願いをかなえてあげたいと思っていますが、デイケアやヘルパーさん達に助けてもらいながら15年間母を自宅で介護してきて、正直私も疲れています。父を自宅に戻してあげたいという気持ちと、今の状態で在宅介護をするのは自信が無いという気持ちでやりきれません。ご助言のほど、よろしくお願いいたします。
 
【回答】
まずは高カロリー輸液からの離脱を
 
肺炎から回復できてよかったですね。というのも現在、日本人の死因の第三位は肺炎です。高齢者の肺炎は侮れません。永六輔さんの死因は「肺炎」だったし、その後を追うようにして旅立たれた大橋巨泉さんは咽頭がんと闘っていましたが死因は「急性呼吸不全」でした。高齢者は肺炎になり易くその9割以上は誤嚥性肺炎と言われています。年とともに飲み込む力(嚥下機能)が衰えてくると、食べ物や唾液が食道ではなく誤って気管のほうに入ってしまいがちです。しかし老化に伴い誤嚥しやすくなるのは当然のこと。しかし誤嚥と誤嚥性肺炎は別物です。誤嚥性肺炎の本当の原因は夜間睡眠中に口腔内に貯まったものが気管内に垂れこむことです。

もしお父様の在宅療養を考えるのであれば一番にするべきことは高カロリー輸液からの脱却だと思います。一般的に介護施設や病院では誤嚥性肺炎を怖れるあまり食事でムセやすくなった人に対して、「食べたら誤嚥性肺炎で死ぬかも。だから胃ろうを造りなさい!」と、経口摂取の中止と胃ろう造設を勧めがちです。あるいは療養病床では診療報酬がより高い高カロリー輸液を勧めるところもあります。では胃ろうや高カロリー輸液ならば誤嚥性肺炎にならないかといえばそれは違うと思います。実は、高齢者の誤嚥性肺炎は食事中ではなくて、夜間睡眠中に口腔内の唾液や胃から逆流したものが気管内に垂れ込んで起こるからです。むしろ口から食べない人のほうが口腔内の嫌気性菌が増えるため、肺炎のリスクが増加します。だから口腔ケアや嚥下リハビリなどによる「食支援」こそが、今のお父様に必要なことでしょう。少しぐらい誤嚥した食べ物は喀痰として上手く排出するので簡単には肺炎には至りません。呼吸機能や免疫能の低下で、喀痰として上手く処理や排出ができなくなると肺炎に至ることがあるのです。いずれにせよ、嚥下評価をしたうえで口から少しでも食べて高カロリー輸液からの撤退希望を主治医に伝えて下さい。せめて胃ろう栄養に変更しないと在宅での栄養管理は大変です。ちなみに私はお父さんのようなケースでの高カロリー輸液中の患者さんの在宅は受けていません。病院で胃ろうに変えるか、自宅に戻ってから胃ろうに変えます。特筆すべきは自宅に帰って高カロリー輸液を中止したら口から食べられるようになった人が何人もいたことです。
 

地域包括ケア病棟の活用
 最近は在宅復帰の患者さんのための病棟として「地域包括ケア病棟」という病棟が政策誘導の影響もあり全国的に急増しています。そこでは在宅療養を応援する病棟なので積極的に嚥下リハもやってくれるはずです。誤嚥性肺炎は何度も繰り返すのが特徴ですから、一旦在宅復帰されて次回、もし入院するのであれば「地域包括ケア病棟」というものが有力な選択肢になることを知っておいてください。

 さて、年老いた親の在宅療養はいくら介護保険サービスが使えるからといっても家族に相当な負担がかかるのが現実です。お母さんの介護で経験済みなのですよね。政府は「介護離職ゼロ」なんて言っていますが、現実は厳しいことは町医者の私も日々感じていることです。一方、たとえば気管切開+胃ろうという医療依存度の高い親御さんを、フルタイムの仕事を持つ娘さんや奥さんが年単位にわたり介護しているような例は私だけで何例かあります。就労と親の在宅介護を見事に両立させているのです。しかしそうなるとどうしてもストレスが貯まることが懸念されます。だから常に介護者の顔色のほうをよく観察し、以下のような様々なアドバイスをしています。あるいは定期的にケア会議を開いてもらいケアスタッフと介護負担軽減の知恵を練っています。
 

半分在宅で半分ショート
老衰の在宅療養を続けるコツは、デイサービスとショートステイの活用です。特にショートステイを2~4週間も長く続けるショートステイのロング利用も悪くありません。月の半分が自宅で半分がショートという人がいれば1割自宅で9割ショートという人までおられます。介護保険は限度枠を超えたサービスは自費で構いません。医療の世界では混合診療は厳しく禁じられていますが、介護の世界はなぜか混合介護ウエルカムなのです。

あるいは「小規模多機能」という選択枝もあります。これは自宅と施設を行ったり来たりを簡単にできることが特徴で、数年前から国のイチ押しです。主治医も訪問看護も訪問介護も変わらずに継続的に看ることができることが最大の特徴です。ただしケアマネさんは自由に選べず必ず小規模多機能に所属するケアマネさんにお願いしなければなりません。

最近は、「小規模多機能」と「訪問看護ステーション」が合体した「カンタキ」なるものが少しずつ増えており依頼することがあります。介護施設には昼間しか看護師さんが居ませんがカンタキさんには夜間もそこの看護師さんが対応するので医療依存度の高い人でも安心です。さらに、「お泊りデイ」というものもあります。ショートステイが満員だったり何らかの理由で使えない時に自由度の高い「お泊りデイ」にすごく助けてもらっています。

お父さまの在宅療養は長期戦になるでしょうから、無理は禁物です。しかし自分ができる範囲で父親の希望と貴方の現実を両立することは、以上述べたような工夫次第で充分可能だと思います。つまり家か施設かの2者択一ではなくて折衷案でも構わない、と割り切ることが大切です。そしてそうした希望を気楽に相談できるケアマネさんを探してください。もしみつからなければ、勇気を出して地元の信頼できる在宅医やNPO法人などに聞いてみましよう。その在宅主治医の探し方に関してもコツがあります。私は「かかりつけ医選び」、あるいは「在宅医選び」の本を何冊か書いているので是非参考にしてください。在宅医は患者さんや家族との相性も大切なので、単純化できません。だからこそ口コミを含めた地域の在宅療養を支える社会資源の情報収集が極めて大切なのです。

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この記事へのコメント

数十年前を思えば、苦肉の策かもしれないけれど、組み合わせを用いた手法を執る
選択肢が増えて、以前とは変わってきたなァとは思います。

>ショートステイを2~4週間も長く続けるショートステイのロング利用
>月の半分が自宅で半分がショートステイ
>1割自宅で9割ショートステイ
>小規模多機能:これは自宅と施設を行ったり来たりを簡単にできることが特徴
>「小規模多機能」と「訪問看護ステーション」が合体した「カンタキ」
>自由度の高い「お泊りデイ」

発想としては、good idea! と思いますが、実際にこのスケジュールを組み、その
流れを乗りこなすには、相当なバイタリティーを要するでしょうと想像します。
家族は、自分のスケジュールを持たない、介護専従者になりきる覚悟が必要かも知れません。
準備し送り出す、その一連も何かと苦労が生じます。言うは易し行うは難しな側面もあると
思います。(実際に、そのような計画をこなしていらっしゃる方も、おられるとは思いますが..)

Posted by もも at 2016年12月24日 12:55 | 返信

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