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肺MAC症とどう向き合う

2017年02月23日(木)

肺MAC症って、知っていますか?
肺結核より増えているんですよ!
産経新聞の連載にこのことを書いた。
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産経新聞呼吸器シリーズ第6話  他人にうつらない
                肺MAC症とどう向き合う
 
 
 肺MAC症(非結核性抗酸菌症)という病気が徐々に増えています。これはMAC菌によって起こる慢性の感染症です。結核の親戚のような病気ですが、「非結核性」という名のごとく人から人にはうつらないことが結核との一番の違いです。頻度は人口10万人あたり8~9人と推定され、急性虫垂炎や急性膵炎と同程度です。町医者の私でも数人のMAC症患者さんを診ているので決して稀な病気ではありません。理由はよく分かっていませんが生真面目でやせ型の中高年の女性がMAC菌に感染しやすいことが分かっています。検診の胸部レントゲン検査で偶然ひっかかる人と咳や痰や微熱などの症状があり医療機関を受診して判明する人がいます。「血痰が出た!」と訴える人が来られた時、肺がんや肺結核と並んで必ず肺MAC症を念頭におきながら検査を進めます。

 MAC症を疑えば、まずは痰に含まれる菌の検査を行います。MAC菌の遺伝子検査や培養検査で2回以上陽性であればMAC症と診断されます。しかし痰の採取ができずに診断に苦慮することもあります。胸部CTを撮ると気管支が拡張するタイプと空洞をつくるタイプの2種類に分類されます。従来気管支拡張症と言われていた人をよく調べてみたら肺MAC症だったという例もありました。MAC菌は結核菌と比較して病原性が弱いので肺の炎症は長年かけてじわじわと進行します。よほど重い症状が無い限り入院することはありません。しかし最終的には肺の機能が低下して呼吸困難に至ります。毎年約1千人がMAC症で亡くなられていて、近い将来、結核の死亡者を上回ると予想されています。

 治療の基本は抗菌薬です。結核は原則6ケ月間薬を飲めば完治しますが、MAC症は3種類の薬を4~5年間も飲み続けます。様々な感染症に使うクラリスロマイシンと結核に使うリファピシンとエタンブトールの合計3種類の抗菌薬を併用しますが、重症者には注射薬を上乗せする場合もあります。こうした治療で病気の進行が抑えられ症状が改善しますが、3割は再発・再燃を繰り返します。病変が1ケ所に固まっていて薬が届きにくい空洞型に対しては外科手術が行われる場合もあります。私が診ている患者さんでも外科手術で治った人がいます。一方、無症状の人や軽症者や超高齢者においては抗菌薬を投与せずに経過観察をする場合もあります。あくまで抗菌薬の恩恵と副作用を天秤にかけて個別に考えるので諸事情でお薬をやめる場合もあります。私は軽症者や疑い例には対症療法として安価なエリスロマイシンや免疫能を上げる補中益気湯などの漢方薬も使っています。

 MAC菌は人が生活する環境、なかでも土や水の中に広く生息する細菌です。特に風呂場や土をいじる環境における感染が知られ、浴槽やお湯の注ぎ口やぬめりや湯あかからの検出が報告されています。だから風呂場の清掃をする時はマスク着用と十分な換気を心がけてください。以上をまとめると、肺MAC症は他人に感染しないので入院・隔離や保健所への届け出は不要。家庭や職場における日常生活にも特に制限はありません。完治には至らなくても進行がとても緩やかで長い経過をたどる病気です。だから聞いたことが無い病名だと不用に恐れることなく、落ち着いて向き合って下さい。
 
 
キーワード  MAC菌
Mycobacterium avium complexの頭文字をとり「MAC」と呼ばれる。結核菌は1種類しかないがMACのよう結核菌の親戚は世界では約150種、日本では約20種類が知られ、その中で一番かかる人が多い菌。

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この記事へのコメント

MAC症は・・抗菌薬を3種類、4~5年・・・ って耐性菌できてヤバいですよね。
書かれていますように長尾先生なら、
「無症状の人や軽症者や超高齢者においては抗菌薬を投与せずに経過観察をする場合もあります。あくまで抗菌薬の恩恵と副作用を天秤にかけて個別に考えるので諸事情でお薬をやめる場合もあります」でしょうが、
投薬依存症の大半の「お医者様」は、このビョウキにもどんどん抗菌薬処方するんだろうな・・・
おクスリ大好きなお医者様方、感染しないのだからちょっとは考えてね☀☼☀☼☀
賢明な長尾ブログ読者は、このビョウキで抗菌薬処方されそうになったら「あのー栄養つけて体力回復しますぅー・・・あと、補中益気湯が良いってハナシなので、センセイ、だしてもらえませんかぁ? 様子見たいんですけど・・・って言ってみよう!!! おっとり、控え目に言うべし・・・

Posted by 匿名 at 2017年02月23日 03:12 | 返信

家内がMAC症になりました。
それでも下手なパソコンを検索して情報を集め、大病院の呼吸器科にかかりましたら
三種の抗生物質を数年飲む治療を始めて見ますか? と勧められましたので現在先延ばし
しましたが、結果半数の人位が再燃するらしいなどと聞けばおまかせする腰が引けます。
先生にEMの少量投与で様子をみていただけないでしょうか? と言いましたら
そこのところはこちらもプロですから とおこられました><;
貴方の言う通りおつとり控えめ にが肝心でした。

Posted by なな at 2017年07月08日 07:11 | 返信

「産経新聞呼吸器シリーズ第6話」の中に、・・・・・「しかし最終的には肺の機能が低下して呼吸困難に至ります。」・・・・とありますが、換言すと、癌と同じで、早いか遅いかの違いはあるものの、何れは、死に至ると言う意味でしょうか?それとも、完全治癒は望めないとしても、3薬主体の投薬治療を行えば、「呼吸困難」は回避でき、延命も可能と理解して宜しいのでしょうか?

Posted by FS at 2017年08月17日 04:08 | 返信

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