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尊厳死はなぜ違法なのか?

2017年02月27日(月)

月刊公論3月の連載には、尊厳死について書いた。→こちら
安楽死ブームに水を差す内容であるが、敢えて書いた。
10km泳ぎたいというならば、まずは10mを泳ごうと。

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日本は尊厳死が認められていない。
グレーゾーンなのだ。

日本尊厳死協会は一貫して安楽死に反対している。
そんな基本的なことからお伝えしたいのだ。

今週、筒井康隆さんと対談する。
おそらくそんな内容になるんじゃないかな。

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公論3月号  10km泳ぐなら、まず10mを泳ごう
       尊厳死はなぜ違法なのか?
 
橋田寿賀子さんの安楽死宣言
 
 月刊文藝春秋2016年12月号に脚本家の橋田寿賀子さんによる「私は安楽死で逝きたい」という手記が掲載された。「もし認知症になったら、スイスの安楽死組織デイグニタスに行き安楽死したい」という内容であった。この手記は多くの国民に大きな共感を呼び昨年最も多くの読者が支持した第78回文藝春秋読者賞を受賞された。さらに週刊新潮2017年1月19日号にも同氏による同様の趣旨の文章が発表され多くの市民が賛意を表した。ちなみに2015年の週刊文春の調査によるとなんと7割の日本人が安楽死に賛成しているという。一方、2016年12月19日に放映されたTBSテレビの「坂上忍の好きか嫌いか言う時間」では一般市民たちにより安楽死について熱い議論が繰り広げられた。このように昨年末からメデイアにおいて安楽死の話題がにわかに盛り上がっている。

 しかし私は「ちょっと待って!」と言いたい。尊厳死の議論を抜きにして安楽死の議論をするのは、10mも泳げない人がどうやって10km泳ごうかという話と同じである。約200人の超党派の国会議員から成る「人生の最終段階の医療における患者意思の尊重を考える議員連盟」は12年前から人生の最終段階の医療の核心であるリビングイルの法的担保について議論を重ねてきた。しかしこの2~3年は議論が停滞している。その最大の理由は、リビングイルの法的担保に反対する団体が多いからだ。つまり日本医師会も法曹界も宗教界も団体もこぞって反対してきた。それどころか後述する公益認定委員会の意見書(2016年12月8日)は「尊厳死が殺人罪に問われる可能性」を示している。たとえリビングウイルがあっても尊厳死(平穏死)は殺人罪の可能性があるというのが現政府の公式見解なのだ。「尊厳死が殺人罪だって?」。多くの国民は首をかしげるだろう。また私のような在宅医は年間100人の在宅看取りに立ち会うが、殺人罪に問われる疑いがある行為を生業にしていることになる。国は在宅看取りを謳う一方、それは犯罪行為であるかもと脅かすという極めて矛盾した態度を続けている。いや、縦割り行政のために矛盾に気がついていないのだろうか。まさに現場や市民感覚からまったく遊離した論理である。

 リビングウイルに基づいた尊厳死が殺人罪疑いという根拠とはなんと明治時代の刑法である。しかしその時代にはもちろん胃ろうも人工呼吸器も無い。日本における人生の最終段階の医療はまだ明治時代に作られた刑法に囚われている。私はまず「リビングウイルの法的担保がなぜ日本だけできないのか」という議論から始めるべきだと思う。日本は世界レベルから見ればまだ10m、いや1mも泳げないのだ。ならばそこから議論を始めないと混乱するだけでは、と強く危惧する。
 
 
 
リビングウイル啓発の公益性

 11万人余の会員が加入する世界最大のリビングウイル管理団体である一般財団法人・日本尊厳死協会は昨年、創立40年を迎えた。同協会は一昨年、内閣府に公益認定申請を提出するも却下された。その理由とは定款のひとつにリビングイルの法的担保という文言がありいまだに国会承認されていない事項を掲げる団体に公益性を認めない、という判断であった。しかしリビングウイルの普及啓発は多くの国民の利益に寄与すると考え、昨年、再度公益認定を求めるたが2度目も却下された。その理由とは「延命措置の中止が刑事上等の責任を問われる」であった。しかしこれではリビングウイルを尊重して尊厳死した場合、殺人罪に問われる可能性があると言わんばかりである。それどころか厚労省や日本医師会や各医学会が出している終末期ガイドラインとも相反する内容である。そもそも現在我が国で議論されている「尊厳死」とは本人が文書で「延命処置を拒否する」というリビングイルを表明している場合の終末期医療を指している。本人意思が不明な場合の議論には及んでいない。また日本尊厳死協会は安楽死に反対していることも強調しておきたい。

 蛇足ながら英国では意思決定能力が低下したり不明な場合における意思決定支援のために家族や周囲の人が代理や推定した本人利益(Best Interest)の法的担保を2005年に終え、来るべき大認知症時代に備えている(Mental Capacity Act意思決定能力法)。一方、日本の後見人制度は財産面の後見に限定され、医療やリビングウイルの後見や代理に関する法的整備の動きはない。それどころか本人が署名・押印したリビングウイルすら法的に認められていない先進国中で唯一の国で完全にガラパゴス化している。アジアにおいても2000年には台湾でそして昨年は韓国におけるリビングウイルの法的担保がなされた事はほとんど報道されない。亡くなった後の財産処分の関する本人意思(=遺言状)は法的に有効であるのに、生きている間に自分が受ける医療に関する文書は有効ではないのだ。

 ユネスコの生命倫理宣言には「本人意思の尊重が最優先」と謳われている。日本以外の国ではその大原則を重んじた法律整備が進んでいる。しかし世界中で日本のみが明治時代の刑法を理由に本人意思の尊重に関する活動に公益性を認めない。日本はユネスコの生命倫理の基本理念と真反対を向いたままである。いずれにせよ、日本はリビングイルそのものやリビングウイルを有する人の尊厳死さえも法的には認められていない国であるという現実を飛び越して、橋田氏をはじめ種々のメデイアが安楽死を報じていることを指摘しておきたい。つまり「10km泳ぎたいなら、その前に10mを泳ごう」と問いたい。安楽死議論の前に「リビングイルがあっても尊厳死(平穏死)がなぜ違法なのか?」を市民レベルで議論を重ねたい。市民は賛成でも各種団体は反対だ。ならば各種団体は多くの市井の声に真摯に耳を傾けるべきだ。
 

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この記事へのコメント

以前の長尾ブログで紹介された、日本尊厳死協会の鈴木副理事長と対談された日本ALS協会理事の川口有美子さんのyomiDr.の記事「さよならを言う前に~~」を読みました。
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20170217-OYTET50020/
以下抜粋。
「無理して助けなくてもよくなる」
「家族に迷惑をかけたくない」とか、「死ぬまで待てない」と言っている人は、人生の底にいるような状態。そこに分け入って引っ張り出し、何とか生きられる療養環境を作ることを、私たちは日々の支援業務として行っているのですが、すごく擦り減るんです。だから、- - - もし安楽死が制度化され、- - - 本人が「死にたい」というのなら、関係者の多くは止めないんじゃないかな。みんなが一度に楽になりますし、本人の言うとおりにしてあげるのが、「寄り添う」ってことだとも言われていますしね。
だから、- - - 死ぬための法律 - - は、生存を支援する側の構えを変えてしまう恐れがあります。たとえば高齢や難病や障害で働けない人のために、介護を工夫したり、たくさんの税金を投入したりしなくなるかもしれません。まあ、はっきり言えば、支える側の諦めが早くなる。」
抜粋ここまで。

この抜粋の文章の- - -で挟んだ「安楽死」「死ぬための法律」をそのまま「尊厳死」に読み替えて考えている人が多いのだと思います。
欧米諸国では、口から食べれなくなると、日本の介護業務のかなりのウェイトを占めている「食事介助」を一切行わないで「さっさと鎮静、さっさと脱水」というハナシも聞きました。
私を含めて父、亡き母ともに日本尊厳死協会会員ですので、日本尊厳死協会の主旨は理解しているつもりです。が、同時に、「早く死なせる会なのだ」と誤解する方々が多い理由も、理解できます。
ほんとに、ムズカシイ。
橋田さんなどの発言を機会に、協会として議論の場を広げていっていただきたいです。

Posted by 匿名 at 2017年03月01日 01:36 | 返信

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