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介護訴訟の医療への影響

2017年06月05日(月)

医療タイムス6月号は「介護訴訟の医療への影響」で書いた。→こちら
今、現場がどれだけたいへんなことになっているのか、国は全く知らない。
看取りを拒否する施設、サ高住、在宅医だらけになり完全に逆行している。

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医療タイムス6月号   介護訴訟の医療への影響  長尾和宏
 
 介護施設における訴訟が増加している。肺炎診断の遅れ、がん診断の遅れ、施設内の転倒・骨折などにおいて介護施設が訴えられた結果、敗訴するケースが増えている。

 最近の報道では、鹿児島県の介護老人保健施設「沖永良部寿恵苑」で2012年に入所男性(当時61歳)が死亡したのは、肺炎を発症したのに適切な病院に転院させなかったためとして、兵庫県尼崎市に住む妻が2750万円の損害賠償を求めていた。5月17日、鹿児島地裁は施設側に1870万円の支払いを命じたという。2012年9月14日、発熱など肺炎を疑わせる症状を発症し、併設の病院で抗生物質の投与を受けたが、4日後に肺炎で死亡した。裁判長は「発熱などの症状が出た時点で肺炎を疑い、エックス線など必要な検査をして適切な病院へ転院させるべきだった」と指摘し、施設側の過失を認めた。

 脳梗塞を起こした要介護者が肺炎を起こした場合、多くは誤嚥性肺炎である。誤嚥性肺炎は治療しても再発を繰り返すことが特徴である。そのため最近は「誤嚥性肺炎を呼吸器疾患としては扱わない呼吸器科」が増えている。また「誤嚥性肺炎は治療より緩和ケアの方が選択肢になる」という考え方が広がりつつある。寝たきり患者の肺炎診断は胸部単純レントゲンだけでは意外に難しいことがあり、胸部CTではじめて診断されることも稀ではない。この判決はきわめて重大な意味を持つと考える。というのも「発熱があれば肺炎を疑って全例胸部CTを撮影しないと訴えられた場合に2000万円程の賠償金を払わない」となりやしないか危惧している。健常者ならいざ知らず、介護施設入所者の発熱に対して本当にそこまで厳重な対応が求められるのであろうか。地域医療に60年間奉職してきた鹿児島県の老健の管理医師(92歳)は敗訴の知らせにがっくり肩を落としているという。さすがにこれは控訴し争うべき判例と考える医師が多いだろうが、訴えられた方が90歳代になると数年間の裁判時間はあまりにも長く、もはや控訴する気力は残っていないだろう。私は生涯を地域医療に捧げた素晴らしい医師の人生の最期を汚されたように感じた。

 肺炎裁判は他の介護施設でも起きている。煩わしい裁判を避けて和解するケースもある。あるいは、転倒・骨折による裁判例も散見する。施設内で転倒・骨折するとたとえ手術で回復しても「管理不足」で訴えられることがある。この調子でいくと在宅医療における転倒・骨折も「管理不足」として訴えられる時代が来るのかもしれない。介護施設での肺炎診断の遅れで敗訴する時代の到来だ。また名古屋における認知症の人のJR事故裁判のように今後、認知症がらみの訴えが増えることは必至だろう。経済的には保険がカバーしてくれるのかもしれないが、訴訟は大きなストレスであり負の影響があまりにも大きい。

 医療者からみれば理不尽な医療訴訟の増加が医療崩壊を招いたように、介護施設における診断・治療の遅れが介護崩壊を招くことを懸念する。老健や特養には最低限の医療しか無いが、それが平穏死のためには長所であると認識していた。しかし最近の動向を見ていると介護訴訟の医療への影響を憂いている。医療界が主催してオープンな議論を司法にも理解を求めるべきだろう。また医療事故調の対象が介護施設内での急変にも広がるのだろう。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@


冒頭の医師とは何度かお話したが、高齢であり、控訴を諦められた。
代われるものなら代わってあげたいが、何年もの裁判で疲れていた。

それにしても、この判決の影響は極めて大きい!!!!

今まで看取りをしていたグループホームもサ高住も、続々と拒否に転じた。

有料老人ホームや高級ホームは、もともと「やるやる」詐欺であるが。

病院系の在宅も軒並み、施設での看取り拒否に転じている。

国やマスコミはそんな現実を知らずに、相変わらず美談に酔いしれている。

それを観た市民から「こんなはずじゃなかった」という声が相次いでいる。
医療・介護の現場は、完全に萎縮しているのだ。


私自身は、追い出す施設と病院信仰の遠くの長男長女に日々翻弄されている。
本人の意思を尊重して真面目に対応しているが、もうアホらしくなってきた。


本人意思の尊重なんて、美談も美談。
現実は、本人の意思と真反対ばかり。

国やマスコミは現場の事情を知らなさすぎて、残念だ。
権威や専門家しか信用しないので、情報が偏っている。

今日も、様々な相談に日づけが変わるまで寄りそっていた。
しかしこんなことをしていては命がもたないような気がする。

日々、続々と輩出されている「看取り難民」。

それを造っているのは、現場を知らない司法と役所か。

こんな大切な問題をこのまま放置でいいのか?


誰のための医療・介護?

弁護士? 家族? 施設? 国?

本人不在だと感じるのは私だけか。




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この記事へのコメント

福祉の根幹は "奉仕の心" であると、福祉に携わった者であれば
誰もが肝に銘じて携わる分野と実感しています。
身内の介護であっても、同じことかも知れません。
労力を提供し、親身に携わっていたとしても、報われないのが
真実なのかも知れません。けれど時に、何か、フイな場面で頂戴できる
お相手の "気持ち=心" は格別です。
通常の人間関係であっても、意思疎通や意気投合に喜びを感じて、
交流を重ねるのが、それが生き甲斐になるのだと思います。
福祉に携わる人が持つ、ささやかな楽しみは、意思疎通に困難が
生じる相手であったとしても、時に確実に気持ち・心を受け取る
ことができる、そんな場面にコアな喜びを感じることができるの
のだと思います。
その部分を理解して下さる相手も多いですが、時に自分側しか
見えないという残念な、相手家族が割合と多くあるという現実で
しょうか。是非、多くの人に、介護・福祉の現場を見学して頂き
たいと思うものです。

Posted by もも at 2017年06月06日 12:52 | 返信

私の90歳の父は、「看取ります」施設に引っ越して1年以上が経過しました。
施設の種類は特定施設入居者生活介護付きのサ高住というハナシだったけど有料老人ホームです、と言ってる職員もいて、まあ、どっちでもいいかも。
入居して半年ほど経過したころ、
「希望する医療」と「希望しない医療」について文字化して
本人の署名と日本尊厳死協会会員証を添えて
施設宛てと在宅訪問医師宛てに提出しました。
急変時には救急車を呼ばずに、まず最初に主治医に連絡すること、も、書いてあります。
施設側も主治医も、私宅の希望を理解し、施設で看取ります、と、明言しています。
ですが、
今回の長尾ブログのような風潮が強まってくると、
施設の直接の担当者は私宅の意向を尊重しようとしても、
(一棟だけの施設ではなく各所で施設経営をしている企業ですので)
上層部から「危なくなったら救急搬送せよ」という「企業命令」が出るかもしれませんね。

現在の私宅の状況は、
主治医は若いけれども肝が据わっているように思います。
ですが、施設側は・・・どうかな?

上層部からの命令によって、施設で看取れない、と言い出す可能性はある。
そのような場合でも、とにかく救急車を呼ぶ前に主治医に連絡して「さえ」くれれば、
主治医は「私宅の意思に沿って看取れるベッド」へ運ぶだろうと思います。

私は今の主治医と親しいわけではないのですが、
1年以上のかかわりの中で、
「この人たちは大丈夫」と感じています。
なぜなのか、自分でもよくわかりません。
(もしかしたら、私の買い被りかも知れないけれど。)

看取りはやはり、医者側の問題だと思います。

Posted by 匿名 at 2017年06月06日 01:58 | 返信

誰にも迷惑なんてかけたくない。
お世話になってる医療関係者にも迷惑を掛けたくない。
残る家族の名誉も守りたい。
山に入って倒れ伏し、行方不明で死ぬのが一番か。
そうなると、山を大切にしている地元の人に申し訳ない。
幸い自宅だ。法的には迷惑は最小か。
自宅で静かに死んでいくか。
早めに発見して貰う工夫をして。
そして、マスコミは騒ぐだろう。「孤独死。」とね。
アメリカの訴訟社会がアメリカの医療崩壊の遠因になったように、
訴訟社会を望む、正義感溢れる日本の司法が、医療崩壊の引き金を引いていくのか。
誰が 笑っているのやら。

Posted by 樫の木 at 2017年06月06日 01:39 | 返信

長尾先生がお書きになった訴訟の件、世間知らずの小生には衝撃的でした。あまりにも衝撃的でしたので、勤務先施設(特養)の施設長とフロア責任者に印刷して渡しました。

「医療的介入を望まない」と希望する家族がいる中、「持病を含むすべての治療なのか、持病以外の予期せず発症した傷病の治療も含むのか?」 これが曖昧になっており、どうしたらいいのかという意見がありました。


さて、人手不足がいよいよ深刻化して、掃除専門のパートさんさえも雇用できず、代わりに介護職員が約2時間ほど掃除をするようになりました。
元々そういう時間さえ介護職員にはなかったのですから、水分補給の時間を全面廃止(午前・午後に各1回あった)。オムツ交換の時間も同様、午前と午後の各1回を廃止。


これから暑くなる時期、こまめな水分補給を全面廃止した先にあるもの・・・ 脱水症 → 熱中症 くらいは素人にも分かること。こういう介護で、もし、脱水症から熱中症へ、あるいは血液ドロドロ状態から脳梗塞へ、そして死亡。


こういう現状から、「脳梗塞になったのは、水分補給をこまめにやっていない施設の責任!」として、家族が訴訟を起こす日が現実にならないか・・・?!
戦々恐々とするのです。誤嚥性肺炎で死亡、そして訴訟。決してひとごとではないです。

Posted by YOSHIKI at 2017年06月07日 09:57 | 返信

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