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介護施設での発熱・転倒時の対応

2017年06月12日(月)

グループホーム経営者の雑誌「ゆったり」に連載しているが、
今月は、「介護施設での発熱・転倒時の対応」について書いた。→こちら
介護訴訟の増加にともない、介護施設の負担も年々増えている。
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ゆったり5・6月号   発熱、転倒、骨折時の対応?
 
Q グループホーム入所者が発熱した時、あるいは転倒して骨折の疑いがある時に、スタッフはどのような心構えで対応すればいいのか教えてください。


 
A 私の携帯電話が鳴る半数はグループホームなどの介護施設のスタッフからで発熱と転倒に関するものが大半です。大阪といえば吉本新喜劇が有名ですが、かつてこんな漫才がありました。「先輩、熱があるんですが」「そらあるやろ、熱無かったら死んどるがな!」。スタッフとの会話でも似たような内容になることがあります。「先生、37.2度も発熱していますが大丈夫でしょうか?」「見た目の様子に変化無ければ氷で冷やして少し様子をみてください」「でも本当に大丈夫でしょうか?」「大丈夫、って?」「このまま死にませんか?」「え?・・・」。発熱そのものが原因で亡くなった高齢者を私自身は知りません。

発熱=急変、と認識しているスタッフがいますがそう単純ではありません。平熱はその人により異なり体温は一日の中でも微妙に変化しています。その人の平熱よりどれくらい高いのかで判断します。平熱から1度以上高ければ発熱と捉え原因を考えます。多くは風邪や気管支炎などですが、時には肺炎やインフルエンザ、稀に急性胆のう炎や急性腎盂腎炎などのこともあります。37.2度という体温は一般的には微熱の領域です。しかし平熱が35度台の人にとっては明らかな発熱でしょう。呼吸や顔色や食欲に変化がなければとりあえず経過観察を指示します。37.5度までは多くの場合、同様の指示です。37.5~38.5度の発熱は気になるので医師か看護師が診に行きます。39~40度以上であれば肺炎などを疑い検尿、腹部エコー、胸部レントゲン、インフルの簡易検査などの検査、時には入院の是非を考えます。苦い経験を一例あげるなら便秘から腸に穴が開いて腹膜炎による発熱だったのですが、その診断まで時間がかかり入院・手術のタイミングを逸して命を落とした人がいました。高齢者では明らかな肺炎があっても微熱程度のこともあるので注意が必要です。ですから介護スタッフには発熱を見れば呼吸数や脈拍数など他のバイタルサイン、そして顔色や食欲に関する情報も教えて頂ければ助かります。要は「見た目」がどうなのか、「いつもと様子が違うかどうか」を医師は一番知りたいのです。

次に解熱剤使用の是非についてです。解熱剤で無理やり熱を下げると患者さんに悪影響を及ぼすことがあることは知っておいて下さい。私自身は38.5度以上にならないと解熱剤は使用ぜずに氷沈のみで様子を見ることが多い。体温を上げることでウイルス等と闘っているのに解熱剤が水を差して免疫能を下げてしまいます。しかし39~40度であれば熱によるせん妄や痙攣が起こり得るので解熱剤の使用も考えます。ボルタレン座薬やロキソニンなどのNSAIDsを使う場合が多いかもしれませんが、副作用が少ないカロナールというアセトアミノフェンを使いたいものです。安価なものなので介護施設には常備しています。
 
一方、転倒に関する電話もよくあります。驚いて反射的に電話するスタッフが多いのですが打撲した部位が明確であれば、局所をよく観察してください。体表から血が流れていても傷が浅ければタオルやガーゼによる圧迫処置だけで縫合しなくて済む場合も多くあります。下半身を打撲して歩行不能になった場合には大腿骨頸部骨や腰椎圧迫骨折や骨盤骨折などを疑います。上半身の打撲では肋骨や腕や手の骨折を疑います。頭部を打撲するとたんこぶ(皮下血腫)ができるのは当たり前のことで打撲した部位を氷で冷やして下さい。レントゲン検査の是非やタイミングに関しては一刻を争うことは極めて少なく、深夜の場合は朝一番の往診で決定しています。深夜に救急車を呼んでも整形外科医が当直している病院は稀で、かなり遠方に運ばれてしまい後で困る場合があります。たとえ骨折していても多くは緊急性がないのでくれぐれも落ち着いて連絡をして対応してください。手術を要しない場合は入院せずに自然治癒する場合も施設では時々経験します。
 最近の介護訴訟の増加に伴い、頭部打撲に対しては全例、即頭部CT検査を事前指示している施設があります。しかしすべての検査は医師の指示において行われるものです。何度も転倒しては何度もCT検査を強要されるのですが、放射線被ばくの観点からも問題があります。頭部打撲直後に頭蓋内出血することは稀で、なにかが起きるとすれば慢性硬膜下血腫です。これは打撲後1~2ケ月後に起こることもあり経過観察が大切です。転倒即検査、転倒即救急車ではなく、主治医に連絡し指示を仰いでください。

 発熱も転倒も施設では必発で100%防ぐことは不可能でしょう。そうであれば平時に発熱・転倒シミレーション会議を開き、対応に関してスタッフ間で確認しあって下さい。慌てずに落ち着いて観察してから連絡して下さい。
 

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この記事へのコメント

介護施設での訴訟を防ぐには
入居時に、入居者本人と家族と施設側と主治医が、
施設生活での医療行為について話し合って合意を文書化するのが良策だと思います。
たとえば、
転倒して頭部打撲してもすぐには救急搬送しません、まず主治医に連絡して状況説明して指示を待ちます
など、一般的な対応を示して、このような方針ですが同意いただけますか? あるいは他にどのような対応を希望しますか? 等々、話し合って、
家族側がたとえば、転倒したらそのたびにすぐに救急搬送してほしい、と言うのなら、そのデメリットを説明して、それでもなお、家族の意向が変わらなければ家族の希望通りにするしか無いと思います。あるいは、その入居者に他の施設を探してもらう。

老親の介護施設生活も8年が過ぎて何軒かの介護施設にお世話になりましたが、思うに、介護施設の説明に足りない最重要事項は、医療対応についてです。こういう症状の場合はまず最初に誰がどこへ連絡するのか、夜中ならどうするのか、医師はどのような方針なのか、家族はどのように対応してほしいのか、こういった肝心かなめの話し合いなしに、入居を決めているので後になって問題が起こる。(私宅の場合は、私の方からこの話を持ち出してきました。)
介護施設と病院は何がどのように異なるのかを詳しく説明してあげないと理解していない日本人が多いです。「施設も病院も同じようなもんだ」という発言を、私は何度も聞いてきました。

Posted by 匿名 at 2017年06月13日 02:34 | 返信

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