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小林麻央さんの死に思う

2017年08月27日(日)

日本医事新報8月号には「小林麻央さんの死に思う」で書いた。→こちら
日々いろんなニュースが飛び通い麻央さんのことなど忘れ去られたかの様。
しかし今こそ冷静に、彼女が遺したメッセージを噛みしめるときだと思う。

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日本医事新報8月号  小林麻央さんの死に思う     長尾和宏

 
若年性乳がん対策
 
 小林麻央さんが6月22日に乳がんのため34歳で亡くなった。早すぎる旅立ちを国内外の人が悼んだ。今回、麻央さんの死に思ったことを述べたい。麻央さんは2014年2月の人間ドックで乳房のしこりを指摘されたという。乳がんが疑われるも確定には至らなかった。果たしてその8ケ月後には脇の下に転移を認めるかなり進行した乳がんと診断されている。診断された時にはすでに厳しい状態であった。血性の分泌物があるも授乳中であったことや、医師でない人の助言を信じたなど伝えられている。いずれにせよ診断の遅れが助かる可能性を奪った。

 乳がんは全ステージの10年生存率が80%の、おとなしいがんである。一般的には早期発見し適切な治療を受ければ治る可能性が高い。日本人女性に最も多いがんで、40歳台後半から50歳後半に好発するので他のがんとは年齢層が明らかに異なる。多くの自治体は40歳以上の女性に2年に1回のマンモグラフィー検診を推奨している。麻央さんの報道を受けて、乳がん検診を希望する20、30代が増加しているという。40歳以上の検診は科学的根拠があるが若年者にはない。一方マンモグラフィー検査は50歳以下の高濃度乳房にできるがんを見逃す可能性がある。そこで最近は乳房エコーとの併用が推奨されている。将来的にはより負担が少ないレントゲンと超音波検査を組み合わせた検診法に変わるのであろう。

 乳がんの5~10%は遺伝性であり40歳未満で乳がんを発症した血縁者がいる人は遺伝性が疑われる。BRCA1/2遺伝子の検査は20万円ほどで可能であるが遺伝カウンセリングが前提となる。もしBRCA1/2陽性の場合は25歳から定期的に乳がんと卵巣がんの検診を受けることになるという。しかし若年性乳がん対策はいまだ充分ではない。いすれにせよ、麻央さんの報道で早期発見・早期治療という言葉をあらためて噛みしめた。一方、過剰医療や無用な不安を避けるために正しい医療情報の啓発が急がれる。乳がんは唯一自分で触って発見できるがんである。自己検診の啓発は非専門医でも行えるので、一般医を対象とした乳がん医療の教育を強化すべきだ。

 
民間療法には監視と規制を

 麻央さんは標準治療よりも民間療法に頼ったと伝えられている。現代医療を全否定する一般書が書店の店頭に並ぶなか、私の周囲でも標準治療を拒否するがん患者さんを散見する。その人がもし後期高齢者であればその選択に賛成するだろうが、若い人であれば専門医を受診し精査のうえ標準治療を受けるべきである。たしかに現代のがん医療には反省すべき点が多々あるだろう。しかしだからといって放置したりいきなり民間医療に命を預けるという選択はあまりにも危険で看過してはいけない。がんは2人に1人が患う国民病であるが、巷には医療否定本ブームに乗じた似非医療が横行している。なかには人の弱みや不安につけこむ詐欺に近いようなものもある。しかしそれらに対する規制はない。メデイアや行政はこうした明らかに有害な民間療法を監視・規制すべきだと思う。

 多くの市民の疑問は、なぜ麻央さんの命が奪われたかにある。ネット上では様々な情報が交錯している。医療情報の壁があるので詳細な検証は難しいかもしれない。しかし「私も麻央さんのようにならないか」と怯える若い女性のためにも、麻央さんが死に至ったおおまかな経過とそこから得られる教訓を学会レベルで検証し公表すべきではないか。町医者のもとにも「麻央さんのようにならないか」という若い女性が相談に来る。そのまま専門医に紹介すればいいのだろうが、乳腺外来がパンクしないか心配である。

 
在宅療養の様子をブログで公表

 夫の海老蔵さんが彼女が「かなり深刻な乳がんである」と記者会見したのは2016年6月であった。麻央さんは同年9月にブログ「KOKORO」を開設した。ブログを始めた理由は「がんの陰に隠れている そんな自分とお別れしようと決めました」と綴られた。たった1カ月でブログの読者数は200万人を超え、ブログ更新はそのひとつひとつが社会現象となっていった。同じようにがんと闘っている人やその家族がこのブログに励まされ、考えさせられた。麻央さんはSNSという手段を使い自分自身の魂を鼓舞すると同時に、期せずして多くのがん患者さんの心のケアをする立場となった。

 それにしても死の3日前まで、自身の病状や感情をここまで素直に詳らかにブログで綴った有名人がこれまでいただろうか。若くて美しい芸能人ほど、がんになった自分の姿を隠したがるものだろう。抗がん剤治療で髪が抜ける様子や、肌艶を失って痩せ細っていく姿、鼻にチューブが入っている姿を、誰が好き好んで衆人に晒すだろうか。しかし麻央さんはパジャマでの闘病をありのままに堂々と写真を公開した。そしてBBCは、「今年の女性100人」の一人に選び彼女の勇気を評価した。少なくともブログを開設した時点で、私はキューブラーロスがいう死の5段階の「死の受容」の域に達し死を覚悟しているように感じた。

 麻央さんは若い芸能人には珍しく在宅での尊厳死であった。最期の場に在宅を選びその自己決定を家族は最期まで支えた。病院から退院した5月29日のブログには、「やはり我が家は 最高の場所です。今日から、自宅でお世話になります!!」と綴られている。6月11日には「昨日は一日、痛みで七転八倒していました。ですが、夕方最終的に、在宅医療の先生に相談し、忘れていた座薬を試したら、ようやく落ちつくことができました。眠る前も予防で座薬を使い、今朝は、ほんの少しの痛みで起き上がることができました!」と。6月17日には「今朝も在宅医療の先生がいらして、症状に合わせ、お薬や点滴の量を調整して下さいました。心強いです」とある。当初は在宅療養に不安があったが、徐々に信頼に変わる様子がうかがえる。在宅でも医療用麻薬が適切に使えることが書かれている。
 
 
麻央さんの勇気を活かすべき

 そして6月20日には、「ここ数日、絞ったオレンジジュースを毎朝飲んでいます。今、口内炎の痛さより、オレンジの甘酸っぱさが勝る最高な美味しさ!朝から 笑顔になれます。皆様にも、今日 笑顔になれることがありますように」と。しかしこれが、最後のメッセージになった。在宅療養、そして尊厳死では最期まで何かしら食べていることを広く知らしめた。

 麻央さんは亡くなる瞬間に海老蔵さんに「愛して(る)」と言って旅立った」という。しかしこの発言に対してある医療系サイトでは「そんなことあるわけない」という趣旨の発言が相次いだ。しかし私は違麻央さんと同様に小さな子供がいる30代の乳がん女性を看取った経験が2例ある。死の直前まで訪問看護師や私と話していたので私は事実であると思う。亡くなる前日まで食べたり直前まで会話できることを知らない医師は、「尊厳死」を見たことがないのかなと思った。興味のある人は拙書「犯人は私だった」を読んで欲しい。

 海老蔵さんは「自宅で送ってあげられたことは良かったと思う。お母様もお父様も、私もお姉さんの麻耶さんも、子どもたちもずっとそばにいられた。父(市川団十郎)を病院で亡くしている。病院の時とは違う、家族の中で、本当にかけがえのない時間を過ごせた」と述べた。在宅療養という選択に満足していた。在宅医の役割とは、人生最期の貴重な時間を人間の尊厳を大切にして家族と普通に生活することを支えることだ。麻央さんはがん医療の最初から最期までを実に多くのメッセージを遺して逝ってしまった。しかしその勇気を無駄にせず少しでも活かしたい。


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この記事へのコメント

一部のお医者さんも、一部の患者さんも、マスコミ記事も、「極端」という気がします。
民間療法、免疫療法、先進医療、食養生、何から何まで、全てひっくるめて、ブルドーザーで粉砕
というように見えます。医師の中には、患者は愚かの塊の様に見えている人もいるのかもしれません。
数十年前、癌で亡くなった家族は、自宅で(残念ですが、自宅尊厳死はできず、家族ではなく、親族の
意向で平温死も出来ず、意思の疎通が出来なくなって一週間入院した後の死です。病院の対応は、
良かったです。)外来通院していましたし、座薬も貰っていました。ほぼ、横になっていましたが、
ジュースや、アミノ酸栄養素等が入ったもの(怪しいものではなく、病院の栄養士さん推薦のもの)
を溶いた物も飲んでいました。手洗いにも行っていました。家族とも話していました。
身体に付けたチューブもありませんでした。終わりの時間を、予兆されるものは、夜、突然やってき
たのです。隣り町の、個人病院(家族の知人)のお医者さんが往診してくれました。
今の時代、夜の往診に答えてくれるお医者さんは、疲労困憊状況では、なかろうかと思います。
患者の選択を叩いている、一部の癌治療のお医者さんが、最後の時まで付き合ってくれるのなら、
危ない橋を渡ろうとする患者さんも、減るような気がします。
長尾先生がある対談司会の感想で書いてらした「中庸」を目指してもらえないものかなあと思います。

Posted by 樫の木 at 2017年08月28日 04:12 | 返信

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