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日本慢性期医療学会に参加して

2017年11月22日(水)

日本医事新報11月号の連載は「日本慢性期医療学会に参加して」で書いた。→こちら
慢性期医療協会に入会している療養病床は従来の老人病院のイメージと違う。
地域包括ケア病棟とあいまって地域包括ケアの中核を担っている地域もある。
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日本医事新報11月号   日本慢性期医療学会に参加して  長尾和宏
 
 
日本慢性期医療学会
 
去る10月19、20日仙台で開催された第25回日本慢性期医療学会に参加した。これは療養病床を中心となった慢性期医療協会(日慢協)が母体となり延べ4000人が参加する大きな学会であった。日慢協の役員を拝命しているが、開業医の立場で参加したのはおそらく私だけだろう。今回、学会を拝聴した感想を述べたい。

町医者がこの学会に参加してもいろんな学びがあった。慢性期病院で提供されている医療の現状や病院側から見た在宅医療など、別の視点から自分自身の立ち位置を眺めることができる貴重な機会である。いつも慢性期医療の内容が興味深い。在宅で提供している医療と同協会のそれではどれくらいの違いがあるのか。療養病床が扱う病態といえば老衰など姥捨て山のイメージがあるかもしれないが日慢協に加盟している病院は様相がかなり違うようだ。人工呼吸器、胃ろうや高カロリー栄養、24時間リハビリなど医療依存度が高い患者さんが年々増えている。その多くが高度急性期病院から移ってくる。急性期病院と遜色ない高度医療を提供している割にはずっと低い診療報酬で頑張っておられる。毎年懇親会でその苦労話を聞いているが頭が下がる。

一方、終末期医療に関して両者の「文化の差」はどれくらいあるのだろう。キュア志向の病院医療とケア志向の在宅医療の距離感はいかほどなのか。両者の意識の差は年々縮まっているように感じた。もはや日慢協にとってもはや在宅医療や在宅看取りや平穏死は当たり前になっていた。ここが急性期病院との大きな違いだ。むしろ日慢協と急性期病院との距離の方が拡大しているようにも感じた。繰り返しになるが日慢協の多くの病院は平穏死できる場である。しかし「治さない肺炎」を巡る医学会と日慢協の見解の相違は興味深い。今回の学会で誤嚥性肺炎の大半は治療可能というエビデンスが示された。脱水や栄養や電解質異常への介入である。このテーマは深いのでそれぞれの立場からの喧々諤々の議論を期待している。
 

 
地域包括ケア病棟と在宅医療

平成26年に新設された地域包括ケア病棟は、平成29年4月時点で1894病院、6万床に増えている。地域包括ケア病棟とは地域包括ケアシステムの推進と回復期機能病床の確保、という2つの役割を担っている。前者はサブアキュート機能であり、後者は高度急性期病院からのポストアキュート機能である。そして3番目の機能として手術・麻酔やがん化学療法や糖尿病教育入院などの周辺機能を持つ。さらに在宅復帰支援機能を併せたものが、地域包括ケア病棟である。そういえば介護の世界に小規模多機能施設というカテゴリーがあるが、地域医療における多機能体が地域包括ケア病棟に相当する。日本医師会が掲げる「ときどき入院、ほぼ在宅」というスローガンは地域包括ケア病棟と在宅医療の密接な連携が土台となる。

全国各地で「病診連携の会」が開催されて町医者と病院の距離が年々縮まっている。しかしこの場合の「病院」とは多くは高度急性期病院である。しかし開業医が在宅で診ている患者さんの多くは老衰や認知症関連であり、在宅患者さんが誤嚥性肺炎を発症した時に加療しても経過が悪かったり家族が入院加療を希望した時、どんな病院に紹介すべきだろうか。機能分化の視点からは当然、7:1の急性期病院ではなく、20:1ないし25:1の療養病床への紹介を勧めるべきだろう。もしくは急速に増加している13:1の地域包括ケア病棟も大きな選択肢になってきた。しかしこれらの病棟機能は市民はもちろん私のような開業医でも分かりにくい。
 

 
在宅療養支援病院の可能性

2008年から200床未満の病院は要件を満たせば在宅療養支援病院を名乗ることができる。この「支援」には2つの意味があるという。ひとつは在宅医療のバックベッドであり、もうひとつは「在宅医療を提供する病院」である。都市部では前者の意味合いが強いだろうが、少し田舎にいくと後者の意味合いが断然強くなる。特に日慢協に加入している50~100床の小さな病院は想像以上に積極的に在宅医療を展開している。開業医に負けないくらいいやそれ以上によく働いている。経営的な理由もあるのだろうが、昼夜を問わず病棟業務と同様に在宅にも細かく対応している。

在宅医療が国が思うほどに広がらない最大の理由は24時間365日対応にあるのだろう。一馬力の町医者にとっては超重労働であるが、それが在宅療養支援診療所の要件になっている。たとえ複数の開業医が連携しても、たとえば代理医が看取り往診した場合の保険医資格や診療報酬請求をどうするのかという煩雑な問題がある。また若い開業医にとっては夜間の対応が大きなネックになる。だから全国どこの地域でも在宅医療に取り組む医師の高齢化が指摘される。地域によっては70代、80代の医師が主力選手として活躍されている。素晴らしい赤ひげの先輩たちであるが10年後を考えると開業医だけによって提供される在宅医療の展望が見えてこない。地域によっては在宅療養支援病院が主役になり在宅医療が提供されるところが増えるだろう。24時間対応には看護師を含めて相当なマンパワーが必要である。在宅機能と入院機能の両方を併せ持つ在宅療養支援病院には大きな可能性があると感じた。在宅医療の主役になる日が来るかもしれない。
 
 
介護医療院への期待

来春から導入される「介護医療院」に関するシンポジウムも開催された。詳細はまだ検討中とのことだが大きな注目が集まっている。これは「医療」「介護」「生活支援」に加えて「住まい」が一括して提供される新類型である。医療と介護の真の連携ができる「場」として期待されている。現行のサ高住や有料老人ホームにおける医療は外づけで介護に主導されるため正直やりにくい面がある。また外づけの医療は全身状態が悪くなると効率が悪い。医療と介護の密接な連携が地域包括ケアの条件なので介護医療院に大いに期待している。今の時代、もはや「介護だけ」という概念では国民の安心・納得は得られない。「良質な慢性期医療」が確保されてこそ良質な介護となるだろう。それが国民のニーズだ。

今後、開業医は慢性期医療を提供する病院との連携を強化すべきだ。しかしどこにどのような機能を持つ病棟があるのか分かりにくい。医師会や行政は急性期病床だけでなく、慢性期病床や地域包括ケア病床に関する情報を開業医や市民に力を入れて広報すべきだろう。地域医療構想という行政用語ではなく、実用的な方法で啓発して欲しい。「病院機能」や「診療所機能」の啓発は地域包括ケア推進のために必須である。そして今回の学会で近い将来、「地域包括ケア病棟」と「介護医療院」の密接な連携が地域包括ケアの核になる可能性も感じた。現在、全国各地で開催されている医師会主催の地域包括ケアフォーラムは「在宅医+急性期病院+ケアマネ」という構成である。しかし在宅医が先細りという状況のなか、今後はそこに「地域包括ケア病棟+介護医療院+サ高住」という構成も入れなくてはならない。
開業医は意外にも病院のことを知らない。だから時には病院の集会に紛れこんでみるととても勉強になる。病院の医師も開業医も同じ志を持つまさに同志である。地域包括ケアの推進のためには、お互いの立ち位置を知りあうことも大切だ。同様に開業医が介護の世界をどれほど知っているのか。市民啓発も大切であるが、医療と介護がそれぞれの機能を相互理解することも急務。来春の医療介護同時改定をそんな視点からも見ようと思う。
 
 
 

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