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長崎方式にもっと学びたい

2017年12月30日(土)

日本医事新報12月号の連載は、「長崎方式に学ぶ」で書いた。→こちら
長崎ドクターネットの本質、そして上五島で見たことに触れた。
やはり地域医療は顔の見える関係性だなあとあらためて思った。

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日本医事新報12月号  長崎方式に学ぶ    長尾和宏
 
ドクターネットとは質の担保
 
 この11月、講演のため長崎市と五島列島を訪問する機会があり大きな学びを得た。今回、「長崎ドクターネットの本質」と上五島の「病院が提供する在宅医療」についてご紹介したい。すでにあまりにも有名になった「長崎ドクターネット」であるが、在宅医療に携わる開業医の連携ツールとして始まった。24時間対応するために主治医と副主治医をネットで手上げ方式で決めるという。さらに広域の医療圏で大病院と開業医がネットで連携するのが「あじさいネット」である。長崎県では多職種を対象とした勉強会や懇親会がたくさん開催され、年々連携の規模が拡大しているように感じた。ところで、このドクターネットやあじさいネットの本質とは何だろう?そしてなぜそれが長崎で可能なのか?そんな素朴な疑問がずっとあった。しかし今回の訪問で多職種のみなさんと酒を飲み交わしながら、ドクターネットやあじさいネットの本質を私なりに探った。その答えは「在宅医療の質の担保や向上」であった。ドクターネットはある意味、相互監視システムではないか。あるいは医局と同様にベテランが初心者を教え合う教育システムであり、単にICTだけの世界ではないことがよく分かった。

 ドクターネットが広く円滑に運営されるようになった下地には長崎という地方都市の地縁も大きいと感じた。つまり地元の中学高校の同級生や先輩後輩関係がそのまま歳をとっても脈々と続いていた。医局制度と同様に見事に屋根瓦方式になっていた。在宅医療はチーム医療なので、やはり外科系の医師が多い印象を受けた。「地縁」という意識が薄い東京や大阪では長崎方式を作るのは難しいとも感じた。地域でこまめな勉強会と懇親会を重ねるしか方法は無いだろう。

 
病院が提供する在宅医療とその可能性
 
 上五島は人口2万人弱の世界遺産になろうかという大変美しい島だった。開業医は眼科1軒のみでほとんどの医療は上五島病院が一手に担っていた。ただここで働く医師たちは国内外での武者修行を経て高い専門性を有し、それに加えて在宅医療や在宅看取りにも喜んで従事していた。公立病院の勤務医がここまで高いレベルでプライマリケアや総合診療挑んでいることに驚いた。どうして小さな離島に高いキャリアを有する優秀な医師がたくさん集まり、モチベーションを維持しているのだろうか?

 自治医大や長崎大学出身の医師が多いものの、大学からの直接派遣があるわけではなかった。ではどうして維持されているのか。ひとつは長崎県行政による経済的支援であった。いわゆる“地域枠”という支援である。もうひとつは医学生の時から、セミナーを開くなどして離島での総合診療に興味がある医師を丁寧に育てていることだった。私はてっきり医局からの派遣だと予想していたが違っていた。自治体の戦略的な支援であった。ベテランも若手もなく高度な手術のあとに在宅看取りも普通にやるという世界。この離島にとてつもなくレベルが高い総合診療があることに感激した。病院が提供する在宅医療、病院が造る地域包括ケアの可能性を感じた。総合診療に興味がある若き医療人は、一度は上五島病院を見学しておくべきだと思った。長崎ドクターネットやあじさいネットや上五島病院に流れるスピリットを、私は勝手に「長崎方式」と呼びたい。
 
 
増える在宅クレーム
 
 2025年問題とは、団塊の世代が全員後期高齢者になる年である。しかし多死社会のピークは2040年頃になるとの予想だ。ここで国策としての在宅医療が推進されてきた。国は単に経済的事情だけで在宅医療推進を勧めているわけではない。病気や障害があってもその人らしい生活が続けられるように、つまり人間の尊厳を重視した政策である。最近、人生の最終段階を自宅で迎える有名人も増えてきた。愛川欣也さんや日野原重明さんのような高齢者だけでなく、小林麻央さんのような若い有名人も自宅で最期を迎えている。麻央さんは最期の1ケ月の様子をブログで公開して世界中が注目した。一方、大橋巨泉さんのケースのように亡くなった後に在宅医の資質についてご家族がクレームを申し立てた。NHKのクローズアップ現代は巨泉さんが受けた在宅医療の検証を行い、担当在宅医だけでなく在宅医療の質を問うた。実は私のもとにも同様な相談やクレームが持ち込まれるが、巨泉さんは決して例外ではない。

 現在、外来診療の合間に在宅医療を行う「ミックス型診療所」が大半である。一方、都市部では在宅医療に特化した「在宅専門クリニック」も増えている。さらにがん専門、認知症専門、神経難病専門、小児在宅専門など専門分化しているクリニックもある。市民から「どうすればよい在宅医を探せるのか?」という質問をよく受ける。私は第一に「地縁」を挙げる。家とクリニックが近ければ近いほどお互いに良い。そして2番目には「相性」を挙げる。医者の性格は千差万別なので恋愛と同じで相性が大切だ。万人に合う在宅医なんてあり得ない。医師は「応召義務」という法律のため患者を選べないが、患者は医者を自由に選べる。そこで私が監修した週刊朝日ムック「さいごまで自宅で診てくれるいいお医者さん」(980円)を備えておくことを勧めている。ただ「病院の地域連携室が紹介してくれたから第一印象が悪くても断れない」という声も時に聞く。病院側は、地理的な因子と医療依存度を総合して在宅医を推薦する。しかし初対面で「相性」が悪ければ、遠慮しなくてもいいとアドバイスしている。「地縁」と「相性」という2つの条件が揃うと満足度は間違いなく高まる。

 
 
近著「痛い在宅医」にこめた想い

 在宅医療の基本形は医師の訪問診療と往診である。在宅療養支援診療所には365日24時間対応、つまり随時往診体制が義務づけられている。しかし実際には電話対応で済むことが多い。国が定める「24時間365日対応」のとは、直接的ないし間接的に医師にいつでも電話連絡がつく状態のことだ。私の場合は「24時間365日」私に直接電話がつながるが、クリニックによっては訪問看護師や事務員が最初に電話を受けている。電話を受けて駆けつけた看護師が「おかしい!」と思えば、たとえ深夜でも医師は「往診」しなければならない。もし深夜帯に亡くなられた場合には朝一番の往診になることを事前に承諾を得ている場合もある。しかし「今、すごく苦しんでいるので来て!」という電話を寝入りばなに受けた時、本当にちゃんと対応できるのだろうか。そもそも一人の医者が24時間対応する制度に無理があるのではないか。一方、病院には若い医師・看護師というマンパワーがあるので深夜往診に活用できないものだろうか。

 在宅医療に関してこれまで美談ばかりを書き過ぎたかもしれない。咋年末に「痛くない死に方」という本が世に出て多くの支持を頂いたが、「全然そうじゃなかった。どうしてくれる」というお叱りも受けた。在宅医療はすでに量から質の時代に入った、と感じる。理想と現実のギャプについてはまだ語られていないのではないか。そんな想いから今度は「痛い在宅医」(ブックマン社)という本を書いた(12月20日発売)。「痛くない」から「痛い」に逆戻りしてみたが、何が「痛い」のか、どうすれば満足度が高まるのか。本書が医療・介護者と市民が本音で話しあうきかっけになれば幸いである。そのなかでとても参考になるのが上記の「長崎方式」である。それは哲学であり挑戦でもある。かつて長崎には出島があった。だからか、長崎は常にずっと先を見据えているように感じる。来年、また時間を作り長崎や五島列島をゆっくり訪ねてみたい。
 
 

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