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タバコ×認知症
2018年02月13日(火)
きらめきプラス3月号
岩手県奥州市に住んでいる両親と同居、家族で農業を営んでいる女性(58歳)からの質問です。
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Q)認知症の母(81歳)の喫煙についてご相談させていただきたいのですが。
昔からタバコが好きな母でしたが、認知症になってからは1本をゆっくり吸うのではなく、ひと口吸っては消し、また新しいものにと一箱無くなるまで繰り返しているような状況です。以前、母の身体のことを考え、タバコを取り上げたこともあったのですが、タバコが吸えなくなるとすごくイライラするみたいで、手がつけられなくなりました。家族と一緒に畑仕事している時はタバコを欲しがったりしないので、吸わなくても大丈夫かもしれないと思い、私や父がもう無いと嘘をつくと、いやがらせと思ったのでしょうか「吸えないなら殺してくれ」と言って怒ったり、自分で買いに行くと出掛けようとしたこともありました。根気よく対応するのが一番と思っていますが、父は、母がタバコを吸ってる時間だけでも大人しくなるならその方がいいと、あきらめています。一人になる時間を少なくして母が楽しく過ごしてもらえるように家族で気をつけているつもりですが、これからの母の身体のこと、火の不始末のことなどを考えると心配でたまりません。何かアドバイスをいただければ、ありがたいのですが。なにとぞ、よろしくお願いいたします。
A)なんとも切ない話ですね。私の周囲にも同じような人が大勢おられます。おそらく同じようなニコチン依存症の人が沢山おられると想像します。私は日本禁煙学会専門医ですし、「禁煙で人生を変えよう -騙されている日本の喫煙者―」(エピック)という本まで書いているものです。日々、禁煙希望者に寄り添い、一人でも禁煙に成功すれば「医者になって良かった!」と無邪気に喜んでいます。しかしお母さまのようにすでに80歳を超えて認知症も併発している人は、なかなか禁煙治療の対象にはなりません。ひとつは禁煙できる確率が極めて低いことと、何よりも禁煙の意味が良く分からないからです。禁煙治療は年齢が若ければ若いほど意味があります。寿命を10年も延ばせる素晴らしい医療なのでとても遣り甲斐があります。また受動喫煙で苦しんでいる“被害者”にも大きな恩恵があります。
しかしお母さまのような人の場合は、禁煙よりもまずは仰せのように火事を出さないことを優先します。というのも実際、火事を出して命を落とした在宅患者さんがおられたからです。私が訪問診療をした2時間後にその家が燃えているとの知らせを受けました。慌てて駆けつけると2階に寝ていたその人は床が燃えて1階に焼け落ち、既に亡くなっていました。警察による検視はもう終わっていました。わずか2時間前に生き生きと話をしていた人が丸焦げになっていたことはショックでした。「どうして、あの時、火の不始末について強く注意しなかったのだろう」と後悔しました。それ以来、在宅患者さんにはケア会議の時にタバコの火の不始末についてヘルパーさんなど多職種も含めてよく話し合うようにしています。家族だけでなくお隣さんから強く頼まれることもあります。老若男女を問わず火事の原因のトップはタバコだと思います。
中等度の認知症があってもタバコによる火事は怖い、ということはある程度理解できることが多いように思います。幸い、お父さまが見守ってくれているようなのでいろんな対策を講ずればとりあえず上手にタバコと付き合うことはあり得るかと思います。また完全禁煙は無理だとしてもタバコの本数を減らす「減煙」は充分可能かと思います。お母さまの場合、仮にタバコをやめると脳においてドーパミンという神経伝達物質が出ないために意欲低下に陥る可能性があります。あるいは禁煙後うつ症状に伴うさらなる認知症機能の低下も懸念されます。だから理想論ではなくあくまで現実論として考えるべきです。
最近、巷では電子タバコが流行っています。しかし禁煙専門医の立場から言えば、電子タバコに変えてもニコチン依存症やタバコの健康被害から脱却になりません。また受動喫煙被害についても同様です。すなわちタバコも電子タバコも本質的には同じことです。タバコから電子タバコへの切り替えは、はっきり言って“邪道”です。しかし火事のリスクを考えた時、一考の価値がある場合があります。特に独居の人であれば、次善の策として勧めることはあり得ます。これはあくまで電子タバコを推奨しているわけではないのでくれぐれも誤解無きよう、お願いします。
あるいはもし禁煙ないし減煙する意思が少しでもあるようでしたら、最少量のニコチンパッチを貼っておいて禁煙欲求を抑えるという方法もあることはあります。但し、こうしたニコチンパッチの使用に健康保険は適応できません。だから私は、ご家族に薬局で買ってきてもらい様子を見ながら使うこともあります。ただニコチンパッチを使用しながら喫煙すると、突然死などのリスクがあるので薬事上は禁じられていることは知っておいてください。あくまで私のように積極的に禁煙治療を行っている医師と、よく相談しながら二人三脚で減煙への道を探ることが大切です。
最近、「男の孤独死」(ブックマン社)という本を書きましたが、60代の男性、そして特にタバコとお酒が孤独死のリスク因子です。ですから独居の男性には、電子タバコに変えてもらう時もあります。またCOPD(慢性閉塞性肺疾患)のため在宅酸素療法が必要な方には爆発のリスクがあるのでタバコは厳禁です。タバコを吸われるのであれば酸素吸入はできません。
さらに月並みですが、タバコ以外の楽しみを探す事ももちろん大切です。気をそらすというわけではありませんが、タバコのことを忘れるように気をそらす努力も必ずしてください。カラオケやダンスやウオーキングなどの運動で喫煙欲求を発散させるのです。もし要介護状態であれば、デイサービスやショートステイは原則、禁煙ですからそこに通わせることも一法です。私の経験では、お母さまのような人もある時点から、自然にタバコが減るか完全に止められます。しかしなかには、自宅で平穏死する10分前までタバコをふかしていた90歳代の女性もいました。だからまさにその人によって違います。いすれにせよ、火事対策だけはくれぐれもしっかり行ってください。タバコ以外にもコンロの火やストーブの火もその対象になります。
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この記事へのコメント
高齢者でなくとも独居の火の始末はほんとに重大問題。
電車の中で聞こえてしまった学生っぽい女子の会話。
「・・でね、ストーブつけたまま寝ちゃったの。ガス代すごく高くついた・・」・・(あ、ガスなんだ。ガスストーブつけたまま寝ちゃって・・心配はガス代??? 二酸化炭素中毒は心配しないの???」
隣家の独居男性。
脳梗塞、癌手術、発語困難あり、身振り手振り口パクの81歳が、自宅裏庭の物置にポリの石油容器を出し入れしているのをよく見かける。正直、石油ストーブはやめてほしいな、と思っているが言わない・言えない。干渉するわけにいかないから。
火事出されるとウチに延焼するんだけど・・・
石油ストーブはアブナイと思うのだが、高齢者は石油ストーブの暖かさが大好きです。
私はまだ前期高齢者まで半年ほど残っている年齢だが、もう数年前から冷暖房はエアコンのみ。正直足元が寒いけど、石油ストーブやガスストーブの安全性に神経使うよりマシかな、と思っている。石油を継ぎ足す手間も無いし・・・
Posted by 匿名 at 2018年02月14日 02:16 | 返信
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