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小室会見を契機に介護離職の国民的議論を

2018年02月14日(水)

日本医事新報2月号は「小室会見を契機に介護離職の国民的議論を」で書いた。→こちら
介護で悩んでいる人が沢山いるだろうが、療養形態には様々な選択肢がある。
小室哲也さんにも伝わって欲しい。
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日本医事新報2月号  小室会見を契機に介護離職の国民的議論を
 
介護疲れからの介護離職

 音楽プロデューサーの小室哲哉氏(59歳)が引退会見において、妻の高次脳機能障害の介護について本音を吐露した。介護疲れからの介護離職とも言えよう。多くの国民が小室氏の境遇に同情し認知症・高次脳機能障害の介護疲れに関心が集まっている。そこで今回、高次脳機能障害や認知症など思うように意思疎通が図れない人の介護疲れについて考えたい。小室さんのような境遇の人から相談された時に、医師としてどんなアドバイスをすべきか、どうサポートすべきなのか、経験と私見を述べたい。

 小室さんの奥さんのKEIkOさん(45歳)は2011年10月、くも膜下出血で倒れ、現在は在宅療養中である。小室さんの介護生活は6年以上に及んでいるが、現在は高次脳機能障害で小学校4年生レベルのドリルでリハビリをしているという。高齢で寝たきりの親の介護とはまた異なる性質のストレスが相当たまっていることは容易に想像できる。私は小室氏と同じ歳なのでとても人ごとに思えない。同世代の仲間の会話にも親や配偶者の介護の話題が出ることが年々増加している。

 小室さんはおそらく奥さんのためと判断して、施設や病院ではなく在宅での療養を選んだのであろうが、在宅介護が抱える課題を克服するにはどんな方法があるのだろうか。私も在宅療養を選んだ高次脳機能障害の患者さんを何人か診ている。易怒性や暴力や反対にアパシーなどへの対応に疲れ、介護者がイライラしている場面に遭遇する。日々の在宅診療のなかで「虐待」という二文字が脳裏をよぎることは決して稀ではない。自分が介護する身にならないと介護の辛さは分からない、とよく言われる。
 
 

二元論ではなく多様な選択肢

 一般的に長期療養者の療養の場には多様な選択肢がある。本人と家族の希望や介護力や経済力や地域性などを勘案して主治医やケアマネとよく相談して場を選ぶことが大切だ。療養病床、老健、特養へ以外にもサービス付高齢者向け住宅や有料老人ホームなどの選択肢がある。それ以外にもお泊りデイサービスや小規模多機能「小多機」も利用できる。最近は訪問看護ステーションを併設している小規模多機能である「看多機」も私の地元では増えてきた。医療依存度の高い人でも安心であると、大病院の地域連携室から「看多機」に紹介される症例が増えている。特養や老健と違い主治医が変わらずに継続的に診ることができる。しかし実際には「看多機」にずっと住んでいる人が多く、本来の「行ったり来たり」の目的から外れた利用も多い。またショート中には訪問診療ができないことが最大の難点であり多くの在宅医が診療報酬の算定様式に苦悩している。この4月の同時改定で、この点の改善を強く希望している。さらに、「お泊りデイ」もある。ショートステイが満員だったり何らかの理由で使えない時に自由度の高い「お泊りデイ」はとても助かっている。

 
よく施設入所か在宅療養かの二元論で語られがちだが、決してそうではない。特に「小多機」や「看多機」は、自宅と施設を行ったり来たりできることが最大の特徴であるがあまり知られていないのが残念だ。その時の家族の介護力に応じて自由にアレンジしているケースもある。介護する人の仕事や家庭の都合で臨機応変に療養の場を変えられる時代である。

 KEIKOさんのような高次脳機能障害の人が在宅療養を続けるコツとは、デイサービスとショートステイの活用にあると考える。ショートステイを2~4週間と長く続ける「ショートステイのロング利用」もある。月の半分が自宅で半分がショートという人がいれば1割自宅で9割ショートという人もいる。両者の割合は自由にアレンジできることはあまり知られていない。また介護保険では保険の限度枠を超えたサービスは自費で賄えることも知られていない。
長期間に及ぶ認知症や高次脳機能障害在宅療養において、介護者の我慢や無理は禁物だ。自分ができる範囲で親の希望と貴方の現実を両立することが大切。それは工夫次第で充分可能である。つまり家か施設かの2者択一ではなくて折衷案でもまったく構わない、と割り切ることが大切だ。このあたりの事情を小室さんにも知って欲しい。
 
 
要介護5の在宅療養とは

 一人娘がフルタイムで就労しながら要介護5の両親2人を数年間も在宅で介護している例がある。あるいは神経難病で気管切開と胃ろう栄養中の要介護5のお母さんを一人娘がフルタイムで就労しながら数年間も介護している例もある。いずれにせよ要介護5の人を1人の就労している家族が在宅介護している例は少なくない。病院のスタッフには信じてもらえないかもしれないが、医療依存度が高い要介護5でも在宅療養はできる。就労と要介護5の介護は両立し得る。ただしこれらの例にはある共通点がある。第一に両者とも介護者が娘(女性)さんであり、第二に彼女たちの職業が教職など多少の融通がきく職種であること。第3に在宅療養に理解のあるケアマネージーに恵まれていることだ。なにかと施設入所を勧めるケアマネさんが多い中、本人や家族の意志を尊重している。さらには、家族がいない完全独居の要介護5でも数年以上にわたり在宅療養されている人も何人かいる。

 一方、小室さんのように男性が若い配偶者を介護している例は多くはない。稀には神経難病で気管切開と胃ろう栄養の要介護5の妻を一人で介護している開業医が私の周囲にいるにはいる。いずれも介護保険サービスや福祉サービスを上手く使うことがコツだ。つまりケアマネージャー選び選びが鍵となる。もちろん在宅主治医選びも大切だ。在宅医の実績は看取り数などがメデイアなどで公表されている。最近発売された週刊朝日ムックの「さいごまで自宅で診てくれるいいお医者さん」(朝日新聞出版社980円)は、私たち医療者にもとても参考になる。しかしケアマネ選びにはそうした参考資料が乏しく、口コミに頼っている場合が多い。いずれにせよ本人と介護者の気持ちを受け止めてくれるケアマであれば介護疲れには陥りにくい。いや、陥らせないためにケアマネが存在する。ただケアマネも医師と同様に自由に選べて、変更可能である。工夫次第で在宅介護を介護疲れに陥らないように続けることが可能になる。介護意見書を書いてもらう主治医は大病院の専門医ではなく、かかりつけ医ないし在宅医とすべきだろう。詳しくは拙書「大病院信仰、いつまで続けますか?」(主婦の友社)や「その医者のかかり方は損です!」(青春出版)に詳しく述べたとおりだ。
 

 
小室ロスを契機に国民的議論を

 KEIKOさんは40歳以上の介護保険対象で、脳血管疾患は特定疾患なので要介護認定を受けているのだろう。いいケアマネや主治医に恵まれているのだろうか。小室さんの介護疲れを回避する適切なアドバイスを受けているのだろうか。孤立を防ぐためにフォーマルだけでなく、インフォーマルなサービスを受けているのだろうか。今回のマスコミ報道を契機に「介護疲れに陥らない在宅介護法」を広く議論・啓発すべきだろう。近著「痛い在宅医」(ブックマン社)でも述べたが、もはや市民が求めているのは在宅療養の美談ではなく、リアルなローカル情報である。

 介護者はなにかと孤立しがちだが、一人で抱えこまさないことが大切だ。介護者の精神状態にも気を配れる仕組み造りが地域包括ケアシステムである。小室ロスが広がっているが、小室さんの介護離職は私たちが推進する地域包括ケアと決して無関係では無い。大切な国民的議論のきっかけにしたい。単に一芸能人に起きた気の毒な事で終わらせるのではなく、誰にでも起こり得ることとして普遍化することが大切だと思う。
 
 

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この記事へのコメント

ごくろうさまです

Posted by 尾崎友宏 at 2018年02月16日 12:51 | 返信

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