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入院で寝たきりや認知症にならないために

2018年03月03日(土)

入院で寝たきりや認知症になる人が現実にたくさんいる。
元気だったのに、手足を拘束されている姿には心が痛む。
どうすればいいのかを「公論」の連載に書いた。→こちら

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公論3月号  入院で寝たきりや認知症にならない   
       24時間・生活リハビリ

 
入院で寝たきり・認知症に
 
 普段元気で医者要らずできたAさん(80歳)が日曜日の夜、様子がおかしくなった。ハアハアという息づかいと38度という発熱に気がついた家族は119番をした。すぐに救急車が来て救急病院に搬送された。検査の結果、肺炎と診断された。不安が大きい家族は勧められるまま入院加療に同意した。しかし入院3日目からAさんに幻覚症状が現れた。真夜中になると人格が変わったかのように不穏になる。これは夜間せん妄といい、高齢者の入院でよく見られる。高齢者が急に生活環境が変わると出やすい。若い人でも集中治療室に入ると見られる。普段は活動的なAさんだが、食事以外はベッドでただ寝ていたことがせん妄の原因の医原病である。

 せん妄を診た主治医は「認知症」と診断し抗認知症薬の投与を開始した。翌日、せん妄は収まるどころか逆にひどくなった。介助する看護師に暴力をふるったと呼び出された家族は身体拘束同意書にサインするしかなかった。Aさんは夜間の安静を保つという理由で大きなベルトのような抑制具で縛られた。当然、精一杯の力を振り絞って抵抗した。しかしその抑制ベルトは動くほど締まるような仕組みになっていた。Aさんは一晩じゅう「助けてー」と大声をあげるようになった。すると主治医はさらに強い睡眠薬で眠らせることを提案した。見るに見かねた家族は退院を願い出た。しかし肺炎の回復が遅いため、今退院したら命の保証はないと言われた。以上はずっと後になりAさんから直接聞いた話である。一連の状況を詳細に覚えているので認知症は無い。
 
 
一流病院でも身体拘束
 
 認知症と誤診された上に抗認知症薬を誤投薬された結果、身体拘束が行われるという流れになった。その病院はいわゆる“一流病院”である。なぜそんなことになるのか。そもそも病院とは人間を「管理」する場所だ。衣食も消灯も規則に従わなくてはいけない。その代償として得られる利益があるからそんな苦行にも耐える場所である。Aさんに起こったことは決して偶然ではなく必然である。Aさんは毎晩「帰るー、帰るー」と叫んだ。しかし「寝たきりなのですぐには自宅に帰せない」と説明された。家族は介護保険の申請やケアマネ選びや住宅改修に奔走することになった。入院前は自立していたのに、入院中に介護認定調査を受けると要介護5との判定が出た。

 1ケ月後、主治医から転院を勧められた。今度は遠くの病院に転院して1週間後、Aさんの背中に大きな床ずれが発見された。「家に帰りたい」と涙を流して家族に懇願するAさんだが、今度は床ずれの処置のために退院できない、との説明を受けた。その3ケ月後に、今度はリハビリ病院への転院を提案された。しかし家族はさすがにその説明を押し切って自宅に帰す覚悟を固めた。

 退院前カンファレンスが開催された。在宅主治医を依頼された私と訪問看護師、ケアマネやデイサービス業者が病棟のカンファレンスルームに顔を揃えた。「何かあればいつでも帰って来て」との主治医の説明を聞きながら「病院に帰る?」に違和感を覚えた。その1週間後、つまり救急搬送されて4ケ月後についに自宅に帰る日がやって来た。

 初回訪問して驚いた。Aさんはなんと両足で立った姿で笑顔で出迎えてくれた。病院で見た寝たきりとは全く別人であった。あれほど険しい顔をしていたのに、満面の笑みで迎えてくれた。自宅効果なのだ。そして退院1ケ月後にはすっかり元の自立した生活に戻った。要介護5から1ケ月で自立に。在宅医療を終了し通院医療に切り替えた。80歳だからこその回復力なのだろう。もし90歳であれば、一度寝たきりになれば復活しないことが多い。後期高齢者は入院自体が致命的な経過になることがある。

 
24時間リハビリと生活リハビリ
 
 もし入院した当日からしっかりリハビリを受けていれば、経過はかなり違っていたはずだ。そのリハビリの専門職と言えば理学療法士(PT)である。しかしPTは病院間でかなり偏在している。リハビリ専門病院に多く配置されているのは当然として、急性期病院の間ではPTの配置にかなりのバラチキがある。入院した2つの病院には、PTはわずか数人しかおらず、入院期間中にリハビリは皆無であった。

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長はこうした慢性期リハビリに関して興味深い提案をしている。24時間リハビリとPTの派遣システムである。PTという限られた人的資源を地域の中で「派遣」という形で医療機関同士でシェアすべきではないか。都市部では自動車はシェアという時代である。派遣でシェアするという発想は地域包括ケアの理念にあう。また1日30分程度のリハビリだけでは効果が薄い。そこで24時間リハビリ、つまり1日3~4回のリハビリを行うことで寝たきりは予防できると発信されている。

 一方、以前から「生活リハビリ」という言葉がある。自宅で普通に生活すること自体がとても良いリハビリになる。在宅医療には訪問リハビリという制度がある。在宅主治医が指示をすればケアマネが介護保険のケアプランに組み入れることができる。Aさんのように幸運にもわずか1週間の生活リハビリだけで要介護状態を脱する人もいる。しかし入院による寝たきりを造らないためには、24時間リハビリと生活リハビリというキーワードになる。また入院による寝たきりや認知症を避けるためには、病気がまだ完治していなくても在宅復帰に切り替えるという選択肢もある。

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※本ブログは転載・引用を固くお断りいたします。

この記事へのコメント

「Aさんに起こったことは決して偶然ではなく必然である」、
その理由は、主治医が、医原病である夜間せん妄を「認知症である」と誤診したからですよね。
すなわち、大病院、有名病院の医師が、「認知症」を知らない。
そうなる当然の理由が引き起こした一過的な症状であるにもかかわらず「認知症患者である」と診断する愚かな医者がたくさん存在する。

治療を要する認知症はきわめて少数であるにもかかわらず、「高齢になると認知症になる」と思い込んでいる人達がたくさんいます。医者を含めて。

たとえば、銀行での貸金庫手続きの話です。
銀行の職員が言いました。
「まだご心配はないと存じますが、ご高齢になって認知症になる前に代理人を決めておいていただけるようにお願いします。」・・・・・
言葉はとっても丁寧ですが、「高齢になると認知症になる」と決めてかかっている。

郵便局での手続きの際にも「まだまだ認知症のご心配は無いと思いますが・・・」

近所のおじさんとの会話「え、64歳? じゃあまだ認知症は大丈夫だね」
???
じゃあ、いくつになったら認知症なの?

「高齢になると認知症になるものだ」という刷り込みが、見事に完遂されている日本。
その日本人のほとんどが、有害無益な薬剤副作用を認知症と思い込んでいる。

Posted by 匿名 at 2018年03月04日 01:37 | 返信

Aさんと全く同じ経過をたどり、入院中に<要介護5>に認定された方を
退院後からケアマネとして関わらせて頂いています。似ている事例なのでコメントします。
自宅に帰っても朝方4時に裸足で外に飛び出すなど目が離せない状態だったそうです。
ところが、入院前から継続して内服されていたドネペジル5mgを休止していただくことで、
せん妄がすっかり改善され、現在は介護力のある奥様と穏やかな日々を取り戻されています。
前頭葉側頭葉型は脳の機能障害でアリセプトで進行を遅らせることは無理という理論に同感です。
正しい診断ができるお医者さんにかかることがすべてだと感じています。

Posted by 四苦八苦中のCM at 2018年03月05日 01:20 | 返信

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