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「老衰」に4つの概念

2018年04月13日(金)

超高齢者の死亡診断書に「老衰」と書く医師と書かない医師がいる。
私はよく書くほうだが、「老衰」には4つの概念がある、という。
「老衰」の病態や概念自体、まだまったく整理されていない。
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「老衰」に4つの概念、診断過程を解説
【時流◆高齢社会の「老衰」を考える】

東埼玉病院内科・総合診療科・今永光彦医長に聞く-Vol. 1

 

 

 高齢人口の増加に伴う「多死社会」を迎えた日本で、「老衰死」 の報告が増えている。これは人口動態統計の基礎資料に用いられる、死亡診断書への「老衰」の記載増加との関連が考えられる。一方、医師の中には高齢者の看取りにおける「老衰」の使用状況に混乱や戸惑いもあるようだ。実臨床における「老衰死」増加の背景に何があるのか。実臨床での「老衰」の実態に関する研究に取り組む、東埼玉病院内科・総合診療科医長の今永光彦氏に話を聞いた。今永氏のこれまでの検討では、医師が「老衰」と診断する過程には4つの概念が存在することが明らかになっているそうだ。(取材・まとめ:m3.com編集部・坂口恵)

予想以上に増えた「老衰死」

――2011年に人口動態統計を用いた「老衰死」の疫学研究を発表していますが(第58巻第4号「厚生の指標」2011年4月)、これまでの「老衰死」の実態はどのように変わってきているのでしょうか。

 戦後の1950年頃から「老衰死」は大きく減少しました。おそらく、診断・医療技術の進歩や病院で亡くなる人が増えたことが、「老衰死」という診断が減少した要因と考えています。ところが、老衰死は2000年頃より再び増加に転じています。年齢別の内訳で、1980年代頃までは「老衰死」の過半数が70-80歳代でしたが、2000年以降は90歳以上が大半を占めるようになっているのも特徴です。

 2011年の論文をまとめた当時、「今後、老衰死は増えるだろう」として、2015年には2008年と比較して約1.5倍(5万2377人)の増加を予測していたのですが、最近調べた2015年の実績値は約8万5000人にも上っていました。「老衰死」が予想以上に増えているのは、もちろん高齢者が増えていることもありますが、もしかすると医療者や家族の「老衰」や「老衰死」に対する考え方がかなり変わってきていることもあるのではないかと考えています。

「老衰」への姿勢、他の医師の影響大きい?

――「老衰死」が増えている中で、医師が「老衰」をどう考えているのかにも注目されていますね。

 2014年、在宅医療に関わる医師を対象としたフォーカスグループインタビューによる質的研究を発表しました(公益財団法人勇美記念財団による研究助成完了報告書『在宅医療において、医師が死因として「老衰」と診断する思考過程に関する探索』)。臨床医が「老衰」に遭遇する機会が増える中で、「老衰」や「老衰死」を診断する際、医師がどのような思考過程をたどっているのかはあまり検討されてきませんでした。この検討では、死亡診断書の直接死因に「老衰」と記載した経験のある、在宅医療に関わる医師18人を小さなグループに分けてインタビューを行いました。この検討からは、在宅医療で医師が死因を「老衰」と診断する思考過程にいくつかの概念が存在することが分かりました。

 1つ目は、医師が「老衰と考えられる臨床像」を各自で持っていることです。例えば「80-85歳以上」というように年齢の目安に基づき、患者との継続した関わりの中で「緩徐な状態低下」を来しており、「他に致死的な病気の診断が付いていない」患者を老衰と考えていました。

 2つ目は医師が「老衰と診断することへの葛藤や不安」を抱えていました。これは、例えば「老衰」と診断する中で「病気の見逃しがないか」「ある程度病気の診断をどこかで行わないと」という考えがあること、「老衰」の定義が曖昧であることによる迷いを感じているということです。

 3つ目は、個人的に興味深かったのですが、上級医や施設長ら他の医師が「老衰」と付けるのを見て「あ、老衰と付けていいのか」と考えるようになったという意見もありました。他にも医師会の死亡診断書の記載に関する勉強会などで「老衰」に関する説明があったことで「老衰」と診断することを後押しされたといった意見もありました。

――他の医師が「老衰」と付ける場面に遭遇して、診断名として「老衰」を受け入れる背景にはどのような要因があるのでしょうか。

 一つにはやはり、「老衰」が医療者にとって非常に曖昧であるだけでなく、それに関してみんなで考えたり、教育を受ける機会がなかったりといったことがあるのではないでしょうか。この研究からは「他の医師の“老衰”の診断に対する否定感」が「老衰」の診断を容認する阻害因子となっている可能性も示されました。

 医師が「老衰」と診断する過程にある4つ目の概念として「家族との関わりの重視」があります。これは、最も身近な家族から「老衰でしょうか」というようなことを聞くと、よりその診断名に傾くといったことです。

 他にも例えば、痰が詰まった後に死亡した可能性が否定できない場合があったとします。家族との関わりを踏まえて、死亡診断書に「痰による窒息」と記載するよりは「老衰」と書いた方が、家族が肯定的に死を受け入れたり、自責感が和らいだりするなどの配慮が働いているケースもあるということです。

 

それ、本当に「老衰」ですか?
【時流◆高齢社会の「老衰」を考える】

東埼玉病院内科・総合診療科・今永光彦医長に聞く-Vol. 2

 
初めて「老衰」と書いた症例

――先生がそもそも「老衰」に着目されたきっかけは何でしょうか。

 多くの医師に似たような経験があると思うのですが、私は2006年頃から在宅医療に関わり始めて、初めて死亡診断書に「老衰」と記載しました。その後も「老衰」と付けることがあり、そこで「“老衰”とは何だろう」と。今まで、教科書で十分に学んだこともなかったし、どういうふうに「老衰」を考えればよいのかという臨床上の疑問が出発点でした。高齢者が増える中で、老衰のような経過をたどる人は増えていくでしょうし、「老衰」に対する考え方をある程度医療者や一般の人と共有していくことが必要ではないかと考えました。

――最初に「老衰」を診断されたのはどういう症例でしたか。

 90歳代の農家の方で、徐々に食事が取れなくなり、日常生活動作(ADL)が落ちていく感じでした。家族も「これは自然なことですよね」と解釈されていました。積極的な検査を必要としそうな疾患もないようでしたし、本人も家族も色々な検査をしたいという希望もなかったので、そのまま看取りをしました。

――その後、「老衰」と診断される基準が先生の中で変わることはありましたか。

 そうですね……。最初の頃と比べると多少変わってきているのかなと思いますね。

――どのように変わっているのでしょうか。

 例えば、他に疾患があったとしても亡くなったり、あるいは衰弱したりする要因が「老衰」と判断して矛盾がないようなら、「老衰」と判断することが出てきました。ただ、家族への説明に当たっては、家族が今、衰弱している状態や食事が取れなくなってきている状態をどう感じているのかを十分に考慮して、説明の方法を選ぶことがあります。具体的には、家族との関わりの中で「検査をして、大きな疾患がない方が安心するのかもしれない」といった場合は、患者本人に負担のない範囲で検査を行い、「やはり老衰です」と説明する場合もあります。逆に、家族の側から「これは老衰でしょうか」と言われる場合には、それを尊重しつつ、診療を続ける場合もあります。

「老衰で看取り」で紹介、被疑薬中止で改善の事例も

――家族が「老衰」との認識を持っていれば、それをあえて大事にするということですか。

 はい。ただし「医療的に可逆的な状態を見逃してはいけない」ことは非常に重要です。特に、80歳代後半以降の超高齢者の場合は余命を延ばすことだけが良いことではなく、QOLも重視する必要があります。家族が「老衰」と思っていても、「こうすれば良くなる」という症状や所見があれば、状況によって検査や治療で患者のQOLが改善することがしばしばあります。

 例えば、「老衰の患者の看取りをお願いします」と紹介されてくるようなケースで診察すると、薬物有害事象が疑われ、被疑薬を中止したらかなり元気になったということもあります。他にも、「食べられなくなったので老衰です」とされた患者をあらためて診察したところ、認知機能や歯に問題があり、食事の形態を工夫することで再び食欲が回復したということもあります。そういう、患者の負担がなく、比較的簡単に改善できるような所見は見逃してはならないでしょう。何でもかんでも「年を取っているから老衰」としてしまうと、それは本人のQOLや尊厳を損ないかねません。

――そういうケースは最近増えているのでしょうか。

 最近、特に、というわけでもないと思います。「老衰」の認知度は徐々に高まっているのですが、一方で「年を取っているから“老衰”」という誤った認識が広まるのは避けなければならないと思います。「老衰」の判定には医学的な要因だけでなく、家族や本人のQOLへの影響などさまざまな要素が関連します。だからこそ、「医師が老衰と判断する思考過程」を明らかにして共有していくことも重要と考えます。


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この記事へのコメント

わたしの母は老衰だったんですが、まだ、70代でしたのでなんとなく老衰は可愛そうかなと思っちゃいました。わたしは、なんとなく老衰よりももっと幸せな響きにしてもらいたいです。厚かましいでしょうか?今日、ディズニー映画「リメンバーミー」を観てきました。利用者さんがとっても良かったからぜひ見てって言っていたのですが、子どもから高齢者まで楽しめる映画作っちゃうディズニー最高です!

Posted by ふーちゃん at 2018年04月15日 10:28 | 返信

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