高齢人口の増加に伴う「多死社会」を迎えた日本で、「老衰死」 の報告が増えている。これは人口動態統計の基礎資料に用いられる、死亡診断書への「老衰」の記載増加との関連が考えられる。一方、医師の中には高齢者の看取りにおける「老衰」の使用状況に混乱や戸惑いもあるようだ。実臨床における「老衰死」増加の背景に何があるのか。実臨床での「老衰」の実態に関する研究に取り組む、東埼玉病院内科・総合診療科医長の今永光彦氏に話を聞いた。今永氏のこれまでの検討では、医師が「老衰」と診断する過程には4つの概念が存在することが明らかになっているそうだ。(取材・まとめ:m3.com編集部・坂口恵)
――2011年に人口動態統計を用いた「老衰死」の疫学研究を発表していますが(第58巻第4号「厚生の指標」2011年4月)、これまでの「老衰死」の実態はどのように変わってきているのでしょうか。
戦後の1950年頃から「老衰死」は大きく減少しました。おそらく、診断・医療技術の進歩や病院で亡くなる人が増えたことが、「老衰死」という診断が減少した要因と考えています。ところが、老衰死は2000年頃より再び増加に転じています。年齢別の内訳で、1980年代頃までは「老衰死」の過半数が70-80歳代でしたが、2000年以降は90歳以上が大半を占めるようになっているのも特徴です。
2011年の論文をまとめた当時、「今後、老衰死は増えるだろう」として、2015年には2008年と比較して約1.5倍(5万2377人)の増加を予測していたのですが、最近調べた2015年の実績値は約8万5000人にも上っていました。「老衰死」が予想以上に増えているのは、もちろん高齢者が増えていることもありますが、もしかすると医療者や家族の「老衰」や「老衰死」に対する考え方がかなり変わってきていることもあるのではないかと考えています。
――「老衰死」が増えている中で、医師が「老衰」をどう考えているのかにも注目されていますね。
2014年、在宅医療に関わる医師を対象としたフォーカスグループインタビューによる質的研究を発表しました(公益財団法人勇美記念財団による研究助成完了報告書『在宅医療において、医師が死因として「老衰」と診断する思考過程に関する探索』)。臨床医が「老衰」に遭遇する機会が増える中で、「老衰」や「老衰死」を診断する際、医師がどのような思考過程をたどっているのかはあまり検討されてきませんでした。この検討では、死亡診断書の直接死因に「老衰」と記載した経験のある、在宅医療に関わる医師18人を小さなグループに分けてインタビューを行いました。この検討からは、在宅医療で医師が死因を「老衰」と診断する思考過程にいくつかの概念が存在することが分かりました。
1つ目は、医師が「老衰と考えられる臨床像」を各自で持っていることです。例えば「80-85歳以上」というように年齢の目安に基づき、患者との継続した関わりの中で「緩徐な状態低下」を来しており、「他に致死的な病気の診断が付いていない」患者を老衰と考えていました。
2つ目は医師が「老衰と診断することへの葛藤や不安」を抱えていました。これは、例えば「老衰」と診断する中で「病気の見逃しがないか」「ある程度病気の診断をどこかで行わないと」という考えがあること、「老衰」の定義が曖昧であることによる迷いを感じているということです。
3つ目は、個人的に興味深かったのですが、上級医や施設長ら他の医師が「老衰」と付けるのを見て「あ、老衰と付けていいのか」と考えるようになったという意見もありました。他にも医師会の死亡診断書の記載に関する勉強会などで「老衰」に関する説明があったことで「老衰」と診断することを後押しされたといった意見もありました。
――他の医師が「老衰」と付ける場面に遭遇して、診断名として「老衰」を受け入れる背景にはどのような要因があるのでしょうか。
一つにはやはり、「老衰」が医療者にとって非常に曖昧であるだけでなく、それに関してみんなで考えたり、教育を受ける機会がなかったりといったことがあるのではないでしょうか。この研究からは「他の医師の“老衰”の診断に対する否定感」が「老衰」の診断を容認する阻害因子となっている可能性も示されました。
医師が「老衰」と診断する過程にある4つ目の概念として「家族との関わりの重視」があります。これは、最も身近な家族から「老衰でしょうか」というようなことを聞くと、よりその診断名に傾くといったことです。
他にも例えば、痰が詰まった後に死亡した可能性が否定できない場合があったとします。家族との関わりを踏まえて、死亡診断書に「痰による窒息」と記載するよりは「老衰」と書いた方が、家族が肯定的に死を受け入れたり、自責感が和らいだりするなどの配慮が働いているケースもあるということです。
この記事へのコメント
わたしの母は老衰だったんですが、まだ、70代でしたのでなんとなく老衰は可愛そうかなと思っちゃいました。わたしは、なんとなく老衰よりももっと幸せな響きにしてもらいたいです。厚かましいでしょうか?今日、ディズニー映画「リメンバーミー」を観てきました。利用者さんがとっても良かったからぜひ見てって言っていたのですが、子どもから高齢者まで楽しめる映画作っちゃうディズニー最高です!
Posted by ふーちゃん at 2018年04月15日 10:28 | 返信
コメントする
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL: