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ホスピスでも在宅でも尊厳死できない時代

2018年06月02日(土)

一昨日、ある緩和医療の勉強会に参加して、愕然とした。
ホスピスでも在宅でも尊厳死できない時代になっているのだ。
尊厳死の本を書いてもホスピスや在宅医にすら届いていない。
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ある在宅医が、ある症例を提示していた。

60歳の食道がんの末期で、ほぼ寝たきりの患者さん。

がんよる食道の通過障害があるため胃ろう栄養(1日1500ml)が
施行されて1年経過して、全身状態低下のために在宅医療を依頼された。

しかし大病院の外来での抗がん剤治療は、続けられていた。
3週間目からウトウト眠る時間が長くなり4週間目に在宅看取りに。

亡くなる2~3時間前にほどく苦しんだので鎮静(麻酔)で
眠らせたほうが良かったのかどうかが、議論の焦点であった。

・早めに鎮静キットを用意すべきだった
・救急車を呼んでホスピスに行けば、最期は鎮静下に置くことができた
が会の結論であった。


うーん。

一連のお話を聞きながら、私の頭の中は?マークが5つぐらい並んだ。

あるいは、悪い夢を見ているのではないか、という気分になった。

1)なぜ在宅医療になった時点で抗がん剤治療をやめないのか。
  日本医大の勝俣先生は「余命3ケ月なら辞めよう」と言っている。
  一方、末期がんの平均在宅期間はわずか1~1ケ月半程度である。
  つまり。在宅開始=抗がん剤中止、が患者さんの利益になるのだ。
  抗がん剤のやめどきを上手に指南するのが在宅医の役割だと思う。
  (「抗がん剤10のやめどき」に詳しく書いた)

2)「胃ろう栄養」も抗がん剤と同様に「延命治療」である。
  しかし最期まで延命たりえないのが抗がん剤や人工栄養だ。
  脱水があるからと言って胃ろうに加えて点滴もされていたが
  「終末期の脱水は悪ではなく善」と書いてきた。(「平穏死10の条件」)
  注入量を段階的に500ml以下まで減らすのが在宅医の仕事のはず。
  進むべき方向と反対のことをしたら苦しみが増す。
  
3)1年間以上、そして死ぬまで口から食べられないこと自体が可哀そう。
  人工栄養の量を1日500ml以下にすれば、食道がんが縮み食べられる。
  なんなら数日間だけでも人工栄養を中止してみれば。(「痛くない死に方」)
  脱水があるからこそ最期まで食べられる、ことを1000回以上講演した。

4)60歳の末期がんなら9割以上の確率で、「死の壁」があるので
  家族に予め説明して、アンペック座薬とダイアップ座薬を用意している。
  死の前には陣痛のようなものがあるのは仕方がない。(「痛い在宅医」)

5)「死の壁」におじけづいて「鎮静」をすることが緩和医療なの???
  まだ意識があって話ができるのに、麻酔で眠らせて逝かせるのが緩和医療?
  その前にやるべきはアンペック座薬による、簡単にできる軽い緩和的鎮静。

6)「苦しがったら救急車でホスピスに運んで鎮静」で、本当にいいのか?
  「死の壁」の啓発や緩和ケアの技術向上のほうが大切だと思うのだが。

そんなことを質問したいが、なにを話そうとしても司会者にはいつも無視される。
「頭のおかしなオッサンのKY発言」としか扱ってもらえないのがいつも悲しい。

過剰な延命治療(抗がん剤と人工栄養)で、食べられない状態にさせて
余計に苦しめておきながら、「最期は鎮静キット」が緩和医療なのか?

最期は搬送かどうかや鎮静セットの議論ではなくて
延命治療の”やめどき”を議論して欲しかったのだが。


そももそも医療界には”やめどき”という発想が無いのかも。
緩和医療の世界も在宅でも、死んだ時が”やめどき”なのか。

しかしそれでは可哀そうだ。
だから積極的に鎮静をしよう、というのが緩和医療?

緩和医療医が鎮静専門医になっていることに違和感を覚えた。
がん治療医が抗がん剤をやめられないこととどこか似ている。


犯人は医者なのに、病気を犯人に転嫁する。
まずはコトの本質を認識することから始めたい、のだが会は予定調和。

この内容は医者向けに日本医事新報社から「犯人は私だった」と
第して出版したが、どうやら遠慮してタイトルを間違えたようだ。

「犯人は貴方だ!!」、とすべきだった。

150人位の人がいたが、私の話を理解してくれた人は2~3人だろう。
司会の先生(有名ホスピスの先生)に露骨にゲテモノ扱いされるのは辛い。

病院だけでなく、ホスピスでも、そして在宅でも尊厳死が叶わない時代。
大変な時代なのに、医療者の意識は真反対の方向に向かっている不思議。

鎮静が良くない、と言っているのではない。
不必要な鎮静を問題にしているにすぎない。

耐えがたい苦痛があれば「鎮静をしてもいい」ことになっている。
しかし問題は、鎮静に至るまでの延命治療の有無と緩和ケアの質。

そして「死の壁」の理解と、対処法を家族にしっかり伝授しておく。
これが在宅での尊厳死・平穏死のポイントである、と講演している。


6月23日の東大での第6回日本リビングウイル研究会の場で
こうした想いをしっかり伝えたいと、改めて思わせてくれた夜。

日本を代表する立派な在宅医や緩和医であっても、尊厳死を死らない。
終末期医療における”やめどき学”はまだこれからの学問であるようだ。


60歳の誕生日を前に、60台をどう生きるか
この勉強会で、決心がついた。

すべてを敵に回してもいいから、思う存分に闘おう。

緩和ケアの考えかたを根本から変えたい。

尊厳死問題にさらに本気で取り組みたい。

元気を与えてくれた若き在宅医とホスピス関係者諸氏に感謝している。





  

 

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この記事へのコメント

一人ひとりの患者さんの命に、最期の最期まで、こんなにもていねいに向き合って、伴走してくれるお医者さん…
長尾先生のパッションが心に染みます。

自分は、そういう働き方できてるかな…勉強不足、やな…恥ずかしく思います。
前向きにもうちょっと頑張ってみようと、元気が出てきました!

Posted by 小梅ちゃん at 2018年06月02日 08:50 | 返信

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