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終末期の深い持続的鎮静を巡る議論

2018年07月20日(金)

日本医事新報7月号は「終末期の深い持続的鎮静を巡る議論」で書いた。→こちら
平穏死を理解できれば鎮静を要する割合はそう多くないと感じている。
今年も60数名、開業以来1100名の看取りになるが鎮静はゼロだ。

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日本医事新報7月号   終末期の深い持続的鎮静を巡る議論
 
立ち見が出た鎮静のシンポ
6月23日(土)、東京大学において日本尊厳死協会が主催する第7回日本リビングウイル研究会が開催された。今回のテーマは「終末期鎮静」。定員400人の会場は開始前に超満員になり立ち見が出た。このテーマへの医療者や市民の高い関心がうかがえた。あるいはシンポジストが緩和医療のなかでも鎮静に関する第一人者の森田達也先生、ホスピス勤務を経て現在は在宅で活躍されているケアタウン小平の山崎章郎先生、そして生命倫理の第一人者の東大の会田薫子先生と豪華な顔ぶれだったからかもしれない。いずれにせよ一般市民が音頭を取り縦割りの医学会の枠組みでは無い第一人者たちによる議論の場を設定できた。
終末期の鎮静には浅いものと深いものがある。また間欠的な鎮静と死まで続く持続的鎮静に分けられる。今回は主に「終末期における深い持続的鎮静」について議論した。森田先生は鎮静に関する世界の知見と最近の動向について解説した。山崎先生は自らの在宅ホスピスにおける「鎮静率」は約7%とそう高くはないことを述べた。会田先生は終末期の深い持続的鎮静とは、他に緩和の方策が尽きた時の「まだましな選択である」と述べた。がん遺族会「青空の会」代表である中野貞彦氏は遺族らに行ったアンケート調査を紹介した。中野氏らの分析では鎮静を行わなかった遺族の感想は「穏やかだった」が多い一方、鎮静を行った遺族では「後悔は無い」という表現が多かった。鎮静群がわざわざ「後悔していない」と表明すること自体、多少なにか心にひっかかるものがあるのかもしれないと思った。会田先生はこの調査結果を倫理的視点からは「衝撃的」と表現されたが、私も同感だ。自然死と鎮静死の比較研究はまだ始まったばかりである。
 
病院と在宅の鎮静率の差
 私も自分のクリニックでの鎮静の実態について述べた。在宅医療を開始して23年間が経過したが終末期の持続鎮静の割合はわずか0.4%である。しかも施設ホスピスから持続鎮静をつけたまま自宅に帰りそのまま看取った2例だけである。私自身が開始した深い持続的鎮静はゼロであった。山崎先生のケアタウン小平における在宅ホスピスの鎮静率は7%だが、私が知っている診療所も0~10%程度のところが多い。
一方、急性期病院や施設ホスピスにおける深い持続的鎮静の割合は5割程度かそれ以上が多いようだ。当院に地域医療研修にやってこられる大病院の研修医からの質問はいつも、「鎮静に使う薬剤」である。深い鎮静率は終末期を迎える場によって異なる。大病院と在宅ではひとケタ以上違う。その理由に関して、森田先生は「患者層や年齢層に差があるのでは」と述べた。たしかに若いがん患者さんほどオピオイドの需要が大きいため鎮静に至りやすいと想像できる。ただ私のクリニックにおける年齢層は高くないので年齢差だけでは説明がつかないと思われた。
最近、ある緩和ケアの勉強会に参加した時に最期まで高カロリー栄養を行った症例における鎮静の是非が議論された。私は終末期における過剰な医療、すなわち水分や栄養補給が苦痛を増強していることを指摘した。つまり抗がん剤や高カロリー輸液など治療の「やめどき」が鎮静需要に大きく影響すると考える。いまだに多くの病院で最期まで続けられている1日1~2リットルの点滴が苦痛を増しているのではないか。一方、最近のがんの増殖機構に関する基礎的研究において、ブドウ糖や酸素の投与ががん細胞の増殖に好都合であることが判明している。ブドウ糖と酸素投与によりがん細胞を増大させた上に過剰な水分を点滴すると、心不全や肺水腫を引き起こし、痰や咳で苦しむしがん性疼痛も増すことになる。胸水・腹水でも苦しいし、がん性腹膜炎による腸閉塞は最期まで解除しないので決して食べられない。一方、尊厳死・平穏死の特徴は、最期まで意識があるので会話をしたり何かしら食べられることにある。つまり我が国の病院や施設における鎮静率が高い理由は2つあると推測した。一つは尊厳死・平穏死の思想が病院の医療者においてまだ充分に理解されていないこと。もうひとつは、月単位の余命がある時点での深い持続的鎮静は我が国では許されていない安楽死の代用という側面も多少あるのではないか。議論を聞いているうちにそんな気がしてきた。
 
 
リビングウイル(LW)と鎮静の関係
 LWとは終末期以降に過剰な医療を控え、自然な経過に任せるとともに充分な緩和ケアを受けるという意思表示である。日本尊厳死協会はその意思を文書で残すことと家族の同意を得る事前指示書という形で啓発を行っている。現在、11万人の市民が表明しているが、病院・施設や自治体が作成した同様のLWを含めると国民の2~3%程度がLWをを表明していると推定される。欧米諸国はLWの法的担保を終えている。アジアにおいても台湾は2000年に、韓国は2016年に法的担保を終えた。一方、日本においてはLWの法的担保に関する議論を停止する代わりに、ACP啓発で乗りこえようとしている。
我が国においてLWの意義とはなにか。結論を述べるなら、LWにより終末期の延命治療を差し控えるので耐えがたい苦痛に遭う割合が減るために、まずは鎮静の需要が少なくなる。しかし充分な緩和ケアをもってしても耐えがたい苦痛に襲われる時には医学的・倫理的に妥当とされる終末期の深い鎮静を受け易くもなる。実際、日本尊厳死協会の毎年の遺族調査ではLW保有者の約95%が穏やかな最期を迎えていた。たとえ法的担保がなくてもLWを表明する意義は高いと考える。
終末期の深い持続的鎮静により寿命が縮まるのではないか、という素朴な疑問がある。多くの専門家は「そんなことは無い」と回答するが、「安楽死ではないのか」と問われる可能性があるからではないのか。一方、欧米では多少縮まったとしても特に問題視しない。最近、安楽死と鎮静の関係を問われることがあるが、もし安楽死が可能になれば深い持続的鎮静の需要は激減するだろう。
 
国民ニーズは尊厳死を超え安楽死へ
安楽死に関する議論が世界各国で盛んになっている。医療の発達に伴い様々な延命治療が可能になるが、生物学的な延命と人間の尊厳を天秤にかけて議論される時代だ。日本においても有名人が続々と安楽死を希望しては多くの市民がそれを支持している。尊厳死は自然死・平穏死とほぼ同義であるが、分かり易い言葉で言うと「枯れる最期」だ。一方、安楽死は余命がまだ数カ月以上あると思われる状態で本人の意思を尊重して医師が薬剤で人工的に寿命を縮める行為である。致死薬を患者自身の手で飲む場合は、医師が介助する自殺(PAS)とも呼ばれる。自殺が禁じられているキリスト教圏のいくつかの国ではそうした形の最期を容認している。
一方、日本においては安楽死は許されていない。もしやると医師は殺人罪に問われる。尊厳死と安楽死は本来区別して議論されるべき概念だが、本人意思(LW)が大前提である。最近、病院ではまだ月単位の余命があり緩和医療の余地が充分あるのに、深い持続的鎮静を希望する人がいるという。余命が日単位であれば終末期の深い持続的鎮静は問題ないだろうが、もし月単位ならどうだろう。正確には「余命」は亡くなってからの逆算なので本来は「予想されている余命」と言わねばならない。しかし余命数日と予想されても何ケ月も生きることがあるし、逆に余命数ケ月と予想されても数日で亡くなることもある。前者に対して終末期の深い持続的鎮静を行った時、医療者や遺族になにかしら後ろめたい感情が残る可能性がある。そんな疑問を今後も市民とともに議論していきたい。

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この記事へのコメント

終末期沈静とは、深く重いテーマですから、
私どもが、軽々しく何かを述べるのは憚られる
気がします。が、立ち見が出た程の盛況ぶりな
シンポジウムとは、やはり多死社会が現実のものと
なってきて、多くの医師が現実問題として直面
なさっている、ということでしょうか。
ただ、人は一錠の薬を飲んだだけでも、身体に
違和感を覚えます。高カロリー輸液を点滴された
だけでも、気持ちは病人となります。もしもの
"死へ向かうべく操作" は、その行為を受け入れる
患者・当事者であっても、やはり "死への階段"
であると、感覚として分かる・察知するのでは
ないでしょうか。

Posted by もも at 2018年07月23日 12:37 | 返信

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