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長時間停電時の在宅患者さんを守ろう

2018年10月27日(土)

長時間停電すると人工呼吸器をつけた在宅患者さんは命に係わる。
実際、台風21号の時、呼吸器の患者さんは停電の中、避難した。
その時に思ったことをに日本医事新報の連載に書いた。→こちら

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日本医事新報10月号   大規模・長時間停電と在宅患者さん


         
台風には備えることができる
今年は大雨、台風、地震と自然災害が多い年である。西日本豪雨災害の支援が続く中、9月4日に台風21号が襲来し、9月6日に北海道地震が起き、さらに9月30日には台風24号が追い打ちをかけた。甚大な物的被害に加えてライフラインの寸断、特に停電は市民生活に大きな影響を与えた。今回、大型台風による大規模・長時間停電が在宅患者さんに与えた影響を振り返ってみたい。
私は23年前の1995年に阪神大震災を経験した。勤務していた市立芦屋病院はまさに野戦病院と化したが、外部の医療機関と連絡がついたのは24時間後であった。阪神大震災で得た数々の教訓は「震災が与えてくれた町医者力」(エピック)という本にまとめた。また7年前の東日本大震災では被災三県において支援活動を行ったが、その時感じた教訓は「共震ドクター」(ロハスメデイア)という本や「無常素描」という記録映画に残した。さて今回の台風21号、24号は史上最大級の風台風であった。台風21号による暴風被害は筆者の生活圏域である兵庫や大阪で大きく、低温火傷のように現在も続いている。
私のクリニックは台風が通過する9月4日は休診にして職員全員に自宅待機を命じた。前日に鉄道の運休が発表されたのでそれに連動した。普通の企業であれば自宅待機だけいいが、医療職の宿命は自身も当事者でありながら人助けを優先しなければいけないことである。かといっていくら職業倫理とはいえスタッフが災害に巻き込まれると労働災害のリスクがある。だから災害時の管理者の判断や行動や指示は難しい。蛇足だが、私は電力会社や電力管理会社の産業医も長くやっているので停電の復旧作業に不眠不休で携わった労働者の健康管理や長時間勤務の面接業務にも3回呼ばれた。
地震への備えと台風への備えは少し違う。地震は予測できないが、台風は予測できるからだ。危険な時間帯が高い精度で予測できリアルタイムに知ることができる。しかし実際には甚大な被害が出た。気象庁のHPによると台風21号の接近により大阪湾に出された高潮注意報が警報に変わるまでわずか10分間しかなかったという。台風時には超短時間に潮位や風速の急激な変動があり得ることを身を持って知った。「充分な備え」とは「たった10分間だけのピーク値」に対応した行動であることを改めて教えられた。
 
 
大規模・長時間停電と在宅患者さん
 6月18日の大阪府北部地震の時、国立循環器病センターに入院中の補助人工心臓や人工透析の患者さんの搬送風景が報道された。あれだけ大きな病院であっても電源喪失により患者さんの移送を余儀なくされることに驚いた、現代医療はまさに電気で成り立っている。だから停電すると診療機能を失ってしまう。しかし都内の大病院の8割が非常用電源の点検や備えをしていないと報道されている。医療機関における非常用電源の充分な確保が急務である。
私の地元では結局、停電の完全復旧までに1週間以上を要した。停電による給水ポンプ停止などによる断水も加わった。市民は長期にわたり不安で不自由な生活を余儀なくされた。そして大規模・長時間停電は特に在宅患者さんに多大な影響を与えた。人工呼吸器や酸素濃縮器や輸液ポンプなどの生命維持装置や吸引器を必要とする在宅患者さんが地元にもたくさんおられる。電化社会において大規模停電は社会的弱者の生命を直接脅かす。
一般に落雷による停電なら短時間で復旧することが多い。しかし今回のような大型台風による長時間停電に陥った時、在宅患者さんの移送のタイミングや方法にはとても悩んだ。もし次があるならばできるだけ予防的に移送しておいた方がいい在宅患者さんがいることを知った。人工呼吸器に備わっている非常用の内部電源は概ね数時間程度しかもたないからだ。私は停電後、3時間くらい経過した時点から電源復旧を諦めて人工呼吸器の患者さんの移送を決めた。地域の基幹病院の入院ベッドは満杯であったが、病院当直医と逐一連絡を取り病院内の講堂の電源を借りる形で滞在させて頂いた。いわば医療避難所である。しかしそこへの移動手段も大変だった。信号は止まっているしタクシーもいない。フル稼働中の救急車を待つことにもリスクがあった。
暗闇のなか訪問看護師たちが手分けして停電の中を走り回り移動を介助した。しかし電動リフトやエレベーターの停止や車庫の電動シャッターが上がらない、などの想定外の出来事が重なった。平時から停電時の移動手段や非常用電源の確認をやっておかないといけない。また停電により空調が使えない時は移動困難な高齢者の熱中症対策も頭に浮かんだ。水や食料などの備蓄も大切だが、懐中電灯や電源確保の確認も必要だ。可能なら外部バッテリーや酸素ボンベを含めて24時間くらいの余裕があれば有難いが、経済的な壁がある。そもそも電気依存度が高い在宅患者さんがどれだけいるのか、地域の自治会長や民生委員さんと普段から情報共有しておくべきだろう。個人情報保護の壁があるのだろうが平時から優先順位やトリアージを話し合っておくべきだと思った。
 
 
認知症や独居高齢者への対応
 長期間停電が認知症の人に与える影響は極めて大きい。灯りが無い不安の上に、調理や排泄や入浴にも多大な影響がある。特に認知症や独居高齢者は生活リズムの乱れが不穏な行動をもたらす。デイサービスやショートステイも停電で休業になるので、普段とはまったく違う生活リズムを強いられる。その結果、認知症の人は全員調子が悪くなり、負の記憶は電気が復旧しても尾を引くことになる。結局、長期間の停電で一番困るのは、電気依存度の高い在宅患者さんである。あるいは認知症の人や独居高齢者は食事や排泄が課題になる。
これらの災害弱者を各地域で誰がどのように支えるのか、平時から行政や医師会が中心になってマニュアルを作成するなど備えが議論されている。各医療機関では災害時に各スタッフがどの様に動くべきかある程度のマニュアル作りをしておきたい。しかし実際には想定外の出来事が重なり必ず混乱するので常に優先順位やトリアージという言葉を意識して行動すべきだ。
 
 
災害弱者対応こそが地域包括ケア
23年前の阪神大震災の時もそうだったが、最近の北海道地震も初動時における「情報不足」が課題にあがった。しかし情報の発信者自身も被災しているので、発生当日は有益な情報を期待しないほうがいい。いくら情報社会とはいえ、被災当日の情報は停電している高齢者や在宅患者さんなどの災害弱者には届かない。地域の仲間やSNSのほうがずっと役に立つだろう。また行政や消防などの「公」や「組織」に期待するよりも、「個」や「地域」を頼った方がいい。それが自然で現実的である。そのためにも普段からの独居高齢者や障害者などの災害弱者との関係性、つまり「地縁」の構築が課題となる。あるいは子供食堂やつどい場や○○カフェのような地域での繋がりが、災害時には大きな意味を持つ。実はこれこそが国が推進する地域包括ケアの姿ではないかとも感じた。私も商店街の周囲に散乱する飛来物の撤去を手伝ったが、そこにいろんな対話が生まれた。
地域包括ケアとは実は災害時の地域住民の行動様式そのものではないか。災害時には地域力が炙り出される。そして災害弱者に地域住民が自ら手を差し伸べることこそが地域力であろう。災害は無いほうがいいに決まっているが、昨今の異常気象を見る限り、自然災害から逃れられない。ひとつひとつの災害から得られた教訓を今後に活かすしかない。防災は最大の予防医療であると信じている。

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大切なことなので、月間公論で市民に向けても書いた。→こちら





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この記事へのコメント

三毛が4匹子ネコを連れてきたので我が家は猫だらけです。
電気やガス灯油等のことを、インフラというのでしょうか?
ちょっと台風が来ただけで、停電になるなんてお粗末ですね。
キンデンのおじさんが、電線の点検に来たので「地下に電線を埋めたら、台風が来ても停電にならへんのと違うの?」と聞いたら、「こうやって電線の点検補修をするだけなら安上りやけど、地下に埋めるとなると大ごとや。それに補修工事ではイチイチ地下に掘り下げなイカン」と言われました。
小型発電機は、ペンキ塗装の時に使われますげ、物凄い騒音です。残るは、蓄電池です。電気自動車に搭載されている蓄電池が今後期待されると週刊誌に書かれていました。
我が家は太陽光発電と蓄電池と付けたのですけど、停電時は少しは蓄電した電気が使えるように聞いているのですけど、詳しい事は聞いていませんでした。いざと言う時は電気の必要な患者さんに利用してもらいたいです。
しかし、朝日新聞の今日の朝刊の第一面の左端に「福祉避難所、足りぬ収容力」と書いてありました。
今年の介護支援専門員協会総会で講演して下さった熊本県介護支援門員協会副会長も、顔を曇らせて「既成の施設に入所してもらうと以前から正規で入所している利用者さんと災害避難者との処遇の違いで避難生活が長期に渡ると行政も対策に苦慮します」と仰っていました。
天国の黒田裕子さんも心配していらっしゃるでしょう。

Posted by にゃーにゃー at 2018年10月29日 09:17 | 返信

我が家は可搬式100V(家庭用電源)を若干量保有しております
有事な際はお力になれると思ってます

Posted by 尾崎友宏 at 2018年10月30日 09:28 | 返信

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