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死亡統計の「老衰死」ミステリー

2018年11月07日(水)

 尊敬するジャーナリストである浅川澄一さんが、高齢者住宅新聞の連載に
「死亡統計の老衰死ミステリー」という記事を書かれたので読んで欲しい。→こちら
老衰と書くためのハードルは高いが、それでも老衰死は増えているという。
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死亡統計の「老衰死」ミステリー
ハードル高くても「老衰死」は急増    by 浅川澄一さん 高齢者住宅新聞掲載記事

 
厚労省がこのほど発表した2017年の人口動態統計によると、死亡原因の中で老衰死は10万1306人に達し、
史上初めて10万人を突破した。老衰死はこの10年ほどの間に急増しており、17年には肺炎を抜いて第4位に浮上。

著名人の死亡記事で「老衰死」を目にすることも多くなった。つい先日も、10月10日にはユニチャームの創業者、
高原慶一郎氏が、翌11日には初代内閣安全保障室長の佐々淳行死が、いずれも「老衰のため死去」とあった。

医師が記入する死亡診断書が全自治体から集められ死亡統計が作成される。死亡診断書の「死亡の原因」欄には、
がんや心疾患など病名が書かれる。

厚労省発行の「死亡診断書記入マニュアル」によると、老衰死とは、「死因としての老衰は
、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用います」とある。

特定の疾病を死因としない、全身の細胞が衰弱して生命が尽きるのが老衰死。その多くの場合、食事量が減少し、
睡眠時間が長くなり枯れるように亡くなる。これと対極を成すのが、栄養や酸素を人工的に送り込む延命治療を続けた上での死である。

老衰死(自然死)であれば、苦痛もなく穏やかに亡くなる。「生物はそのような仕組みとして作られている」とも指摘される。
だが、「死を一刻一秒でも遅らせるのが医療の役目」と教えられ、延命治療を当然の業務とする医師も多い。

2つの異なる死への考え方が対立しているのが日本の現状である。本人や家族、
そして医療者の見解の違いで、介護現場が右往左往させられることがよくある。
 
時代の流れは老衰死(自然死)に向かいつつあるにもかかわらず、死因の8%にも達していないのは疑問だ。
そこで死亡診断書の記入法を点検してみた。

死因欄はアイウエの4つの枠がある。(ア)には「直接死因」を、(イ)には「アの原因」を、(ウ)には「イの原因」を、
(エ)には「ウの原因」をそれぞれ記入する。例えば、ア欄に急性呼吸不全と書き、その原因としてイ欄に脳梗塞と書く。

さらに、脳梗塞の原因があればウ欄に記入するが、なければそのままでいい。厚労省作成の「死亡診断書マニュアル」では、
死亡統計を作成する際には、「最下欄の病名を死因とする」とある。
 
ところがである。最下欄に老衰と記入されている場合は、例外としてその上の欄の病名を死因とすることになっている。
驚くべきことだ。これでは、老衰が減ってしまう。唯一、老衰が死因として認められるのは、ア欄に老衰と書かれ、イ欄以下が空白の場合だけである。
 
さらに不思議なのは、同マニュアルに「老衰から他の病態を併発した場合は、医学的因果関係に従って記入する」とあり、
老衰のほかの病名を書くように指導している。その事例として、ア欄に誤嚥性肺炎、イ欄に老衰とある。

つまり、医師が「大まかにいえば老衰死だが、直接の死因は嚥下力が衰弱しての誤嚥性肺炎かな」と判断し、
誤嚥性肺炎と書き込むと、死因統計では老衰でなくなってしまう。

現場の医師からは「えっ、知らなかった」という声が聞かられる。同マニュアルには書かれていないからだ。
誤嚥性肺炎は高齢者に多いので、こうしたケースは極めて現実的だ。
 
嚥下性肺炎は死因順位7位にある。そして肺炎も5位にランクされている。これに対し
「嚥下性肺炎であっても、肺炎と書いてしまう医師は多いのでは」という声が聞かれる。

なぜ誤嚥性肺炎をわざわざ肺炎から独立させているのか。疑問だ。死因として誤嚥性肺炎を強調しておくと、
「老衰の上の欄に書きやすい」と、変な勘繰りを誘いかねない。つまり、死亡統計から老衰が消えてしまうからだ。
 
このように、老衰を排除し、死因統計にできるだけ現れないような仕組みが2重3重に施されている。
そうとしかみえない。厚労省は「日本が準拠しているWHO(世界保健機構)の規則ですから」と責任を回避する。

では、WHOの考え方はどうなのか。
「疾病、傷害及び死因の統計分類(ICD―10、2013年版)」には、「死亡の防止という観点からは、疾病事象の連鎖をある時点で切るか、
ある時点で疾病を治すことが重要である。また、最も効果的な公衆衛生の目的は、その活動によって原因を防止することである」とある。
 
これで合点がいく。
死因を調べる目的は、死亡を防ぐためなのだ。

「疾病の連鎖を断つ」か「疾病を治す」ことで。そこへ、連鎖を成さず、疾病ではない「老衰」が入ってくるのは迷惑なことなのだ。
趣旨に合わない。夾雑物だから排除したい。

 そのため、死亡診断書に 「ア=或る疾病、イ=老衰」と記入すると、例外を設けて、「或る疾病」を死因に仕立てたいのであろう。
 WHOは、「保健」至上主義を掲げ、どうやら人間は自然に死んではいけないようだ。その理念からすると当然かもしれない。

 先述の同マニュアルでは「死亡統計は国民の保健・医療・福祉に関する行政の重要な基礎資料として役立つ」
とその意義を高らかに宣言している。
だが、WHOの価値観従い、死亡原因が歪められて統計が出来上がっている。
 
 こうした統計上の高いハードルが課されているにもかかわらず、老衰死は年々急激に増えている。
だが、実態はもっと多いはずだ。死亡診断書の最下欄に老衰と書かれているにもかかわらず、
死亡統計から外された事例を含めれば、10万人をはるかに上回っている。
 
実は、死因の1位から3位のがん(27・9%)、心疾患(15・3%)、脳血管疾患(8・2%)についても、
「平均寿命以上の高齢者については、その死亡の遠因はほとんど老衰とみていいでしょう」と指摘する医師は少なくない。

 2017年の死亡者134万人のうち75%は75歳以上の人で、65歳以上になると90%を占めてしまう。
亡くなる人はほとんど老人である。ということは、実は老衰と見なしていいにもかかわらず、敢えて病名をつけられてケースが多いと推測される。

 2・7%で7位の誤嚥性肺炎や1・5%で10位の認知症は老衰とすべきかもしれない。
それに先述の肺炎(7・2%)の多くも含まれるだろう。

がんや心疾患、脳血管疾患の中にも老衰と見なしていいケースがかなりあると思われる。
これらの数値を集めると、最終的に老衰死が30%を超え、死因の第一に躍り出てしまう。
「医療とは病名を見極めて治療すること」という思い込みが医療界に浸透している。このため、死亡診断書に老衰と書くことをためらう病院の医師は多い。
 
だが、日本人の死に場所が病院から施設へ移りつつあり、その施設での老衰死がこの10年間で6倍も増えている。
施設での個室化が進み、第2の自宅という意識が利用者に高まったことに加え、家族が老衰死を歓迎し始めたことも大きい。

管につながれた延命治療より、「生き切って命を閉じる」ことを選び出した。「大往生」という言葉が蘇りつつある。
死因として老衰死が大半を占めるようになれば、日本人の死生観が根底的に変わるだろう。

欧米並みに、自然な死を受け入れる時代がより早まる可能性が高い。
そのためにも統計の「正しい」作成が望まれる。
 

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この記事へのコメント

「WHOは、「保健」至上主義を掲げ、どうやら人間は自然に死んではいけないようだ。」ホホ hohohoと思わず喉の奥で笑ってしまった。

『「医療とは病名を見極めて治療すること」という思い込みが医療界に浸透している。』理由は、
一般人が受診する=医師の診察を受ける、と、医師は、何らかの「診断」を下して「病名」をつけて「どういう処置をしたか」をカルテに記入しないと保険請求できない、と聞いています。
だから、「ゆっくり寝れば治るよ」程度の症状でも、「不安神経症」だの「更年期障害」だの「産後うつ」だのと病名を作り出して「投薬処置」する、ことが、「良い医者」である (◎_◎;) ことになってしまった。

一般人がちょこちょこ医者へ行くのは良いことだと思う。医者へ行って5分おしゃべりして帰って来れば良い。医者は「特に病名なし」「生活指導」「経過観察」だけで保険請求できるようにすれば良いと思う。ただし、何をしゃべったか、覚えていてね。「タバコが半分に減った」「相変わらず嫁の悪口」など、そんなカルテで良いのではないでしょうか。

Posted by 匿名 at 2018年11月09日 12:55 | 返信

私の母に場合は、頸部動脈拍動も触れず、心臓マッサージをしても意識は戻らなかったが、救急隊が病院に搬送してくれた。「家族がいない時に死んだから、孤独死だから、解剖します」と言われたが「私も、何で死んだか知りたい。遺体解剖でもなんでも、して下さい」と怒鳴った。医師の判断でCTスキャンに掛けて「大動脈解離による心タンポナーデ」と診断されて、私もすっきりしたし、お医者さんも「こんなにハッキリ出るとは驚いた」と興奮して喜んで下さいました。
ググると大阪府の救急救命でも、死亡原因の不明な時CTスキャンなどAiを駆使して死亡原因を探っても良いのではと検討しているとの記事がありました。
母が大動脈解離で死亡したのは、犯人は私であり、原因はアリセプトの副作用では無いかと考えています。ですから私は、母の死亡原因が分かって良かったと思っています。それは夫々の家族の考えに沿って良いと思います。

Posted by にゃんにゃん at 2018年11月10日 03:58 | 返信

にゃんにゃんさんの気持ち、わかるように思います。
にゃんにゃんさんは特に自宅でお一人でずっと介護なさったので、思い出すごとに「あの時こうすればよかった」と、忸怩たる思いに囚われるのだと思います。
医療者に対する憤懣やるかたなき思いも、消えることはないです。が、それらに囚われ続けることは、自分自身も、現在のゆがんだ医療の被害者になってしまうのではないか、と。 
深く関わらざるを得ない立場で父母を見送って、一人残された子の思いは、当事者でないとわからないです。
はっきり言えることは、前を見ましょうよ、自分の人生を生きましょう。もう、若くないから、自分を解放したい。

Posted by 匿名 at 2018年11月11日 04:03 | 返信

私は、南江堂の「CKDと血液透析」と言う本を読んでいます。
p123に、10.アルミニウム
「アルミニウムは高いと骨軟化症、アルミニウム脳症、貧血などを起こすことがあります。基準値は10µg/L以下です。現在は、アルミニウムを含む薬剤を透析患者さんにだす事はありませんが、10年ほど前までは、リン酸吸着薬としてアルミニウムゲルが多く処方されており、アルミニウムが高値を示す患者さんがたくさんいました。」と書かれています。医学書院の「糖尿病」にも人工透析液を安定化させる為に、水酸化アルミニウムを使っていたので、認知症患者を発症させたと書いてありました。
農業関係の本も読んでいるのですけど、ケアマネジャー協会の「除名問題」や年金や、自動車の免許更新で多忙な毎日です。
私は、元職鍼灸師のケアマネジャーですので、私の母に死亡原因には、大変興味を持っています。
鍵山いさお氏の仰るように、匿名で人の心を推測したり、攻撃しないでください。匿名でいい気持ちになっているのでしょうけど。
長尾先生も「匿名でコメントしないでください」と仰っていますよ。

Posted by にゃんにゃん at 2018年11月13日 01:21 | 返信

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