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介護認定審査がAIに代わる日

2019年01月22日(火)

介護認定審査が複雑すぎて分からない。
でもAI(人工知能)ならきっと簡単!
そんな想いを日本医事新報に書いた。→こちら
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医事新報1月号  介護認定審査がAIに代わる日     長尾和宏


 
医介連携の第一歩ではあるが
 新年明けましておめでとうございます。今年も町医者の立場から発信しますのでよろしくお願い申し上げます。介護認定審査会の委員を拝命して10年以上が経過した。しかしまだまだよく分からないことだらけだ。ということで今回、多くの医師が関わっている介護認定審査に関する私見を書いてみたい。

そもそも2000年に介護保険制度の誕生とともに「ケアマネージャー」という資格と「介護認定」という作業が生じた。当初、介護認定に医師が関わるべきかどうかという議論があったと聞く。しかし地域包括ケアや医療と介護の連携が謳われる昨今から振り返ってみると介護保険にも医師が深く関わっていて本当に良かったと思う。たとえば医師が介護保険サービスのモラルハザードになることができた。なによりも様々な主治医意見書を読み5人の委員の間で議論することで在宅医療や総合診療の現場に何らかのフィードバックができる。医療における患者を介護では利用者と呼ぶように、医療と介護ではかなり言語が異なる。ケアマネージャーとの連携やケア会議の席で医師が介護保険サービスに関する意見を述べる時などに、介護認定審査での経験が役に立っている。介護保険制度の詳細は分からなくてもおおよその仕組みが分かることに大きな意味がある。

 地域包括ケアが謳われるなか、今年は全国各地で医介連携の動きがさらに盛んになるだろう。地元尼崎市では一昨年から医師会とケアマネ協会が交互に主催して「名刺交換会」という名目の顔の見える連携の場がつくられた。難しい話はひとまず横に置いておいて、とりあえずお互いの顔と名前を覚えることから医介連携は始まる。懇親会でかつての審査会メンバーと再会すると話が弾み、顔の見える連携から腹の見える連携へと発展する。こうした医介連携の第一歩は各自治体における介護認定審査会かもしれない。
 
 
 
摩訶不思議な儀式
 介護認定は2つの資料を突き合わせて審査される。認定調査員が調査・入力した約100項目から導かれたコンピューター判定を基に主治医意見書を反映させて修正を加える。両者の見解が異なる場合は、委員の議論で入力し直し合議で決定する。コンピューター判定にマニュアル判断を加える場が審査会だ。あるいは区分変更を求める旨が明確に記載されている場合は「忖度」してあげたいのが人情だろうが、介護保険財政のことを考えると容易に介護度を上げるわけにいかない。あるいは大変そうだから良かれと思い介護度を上げると、自己負担額も上がり患者さんに負担をかけてしまうことがある。厄介なのは「非該当狙い」の審査である。障害による各種サービスを受けている人が介護認定を受けてしまうと「介護保険優先の法則」により、今まで受けていたケアサービスが制限される。かといって長期間介護申請をしていないと行政から申請するようにお声がかかる。しかしそんな人は介護保険は「非該当」でないと困る。このように不謹慎な喩えだが、パチンコの一番てっぺんの釘を微調整するような作業に貴重な昼休みを費やしている。

 私がいつも不思議に思うのは、どう考えても要介護時間が長くなる(つまり重症になる)と思って入力しても反対に介護度が下がってしまうことが少なくないことだ。理屈では到底理解できない判定をコンピューターはしてくる。それは調査項目が少くプログラムの完成度が低いからであろう。そう感じているのは私だけではないはずだ。

あるいは「要介護1」という区分は、「認知症」か「状態不安定」のどちらかだけであるのも不思議な風習だ。本来どちらでもない「普通の要介護1」があるべきだろう。たとえば上着の着脱を「見守り」から「一部介助」にするだけで要支援2からいきなり要介護2に上がってしまう。その結果、利用できる介護サービスの枠は増えても自己負担も上がってしまい結果、介護サービス利用を減らす、という本末転倒になることがある。自分がしていることが本当によいことなのか悪いことなのかサッパリ分からない時がある。あるいは入院中の患者さんに対する「外出頻度」という調査項目も私には理解できない。外出はいいことだと思うが、外出すると要介護度が下がる。入院中に「要介護5」と判定された人が自宅に戻った途端に「自立、すなわち非該当」相当になるなど、現行の審査システムには摩訶不思議な儀式というべき側面もある。

 
 
ビッグデータ解析によるプログラム改編を
介護認定審査委員会で使用された書類一式は個人情報の山なので、審査会が終わればすべてシュレダーにかけて破棄されるという。私はいつもそれを勿体ない、と思う。なぜなら主治医意見書や調査員による調査や情報収集やコンピューターによる一次判定資料などは、全国規模で集計するならば日本の要介護者の貴重なビッグデータそのものであるからだ。医師の意見書には多少のバイアスがあるとしても、調査員による聞き取り項目にはバイアスがかかりにくい。しかもデータや意見書は6ケ月~2年毎に更新されるので膨大な情報の蓄積だけでなく経過の追跡が可能である。それらのビッグデータを丹念に解析すれば、様々な予測が可能になると考えるのは私だけか。サービス利用の予測のみならず予後の予測まで、様々なデータベースになり得る資料がみすみす捨てられるのはなんともモッタイナイ。日本医師会と国が英知を結集させれば、ビッグデータの有効活用は決して夢ではないと思うが。

 現行の認定プログラムは改良が必要だと毎月の審査の度に想う。ただしその改編は人間ではなく、ビッグデータ解析に基づいて行われるべきだろう。現行のプログラムで一番感じることは人の手による作業の限界である。ビッグデータ解析により得られるであろう収穫は介護分野に留まらない。主治医による病名や認知機能やADLも加味されるので、医療分野の予測にも使える。介護需要の予測だけに留まらず、今後求められるであろう医療や予後予測にまで利用可能ではないだろうか。「終末期」の定義が難しいので終末期医療の議論が行きづまり、ACP(人生会議)で決定することになった。本人の意思を尊重した多職種での話し合いが重要とされるが、ビッグデータから導かれる情報も参考にすべきではないだろうか。
 
 
AIが審査する日
1件の介護認定に2~3万円程度の費用がかかると聞いた。主治意見書代、認定調査代、5人の審査会委員への報酬、事務処理費用などの合計額である。利用額の上限を決める作業に膨大な費用がかかることが気になる。そもそも要介護度の枠をすべて使い切る人は少なく、大半は介護認定の枠の半分も利用していないと聞く。その割には認定審査がかかり複雑怪奇で高コスト体質である。現在7段階の区分を松竹梅ではないが3段階程度に簡素化できないものか。それで浮いた費用を認知症になっても住み慣れたわが町に住み続けることができる認知症保険のようなものに回せないものか。愛知県大府市で起きたJR東海の認知症事故に対する最高裁判決を活かして、兵庫県神戸市では早々に条例が定められた。

 AIによる自動運転システムが現実味を帯びてきた。以下は新春の妄想であるが、AIが介護認定審査をする日もそう遠くではない気がする。調査も認定も機械が行ったほうが公平であるだけでなく標準化しやすい。調査項目をもう少し増やしてAIに任せられないものか。人間が忖度する余地を無くす代わりに余ったエネルギーを人間にしか行えないケアに向けたほうがずっといい。私たち町医者も審査会に出なくてよくなる分、少しでも長く患者宅にいて雑談をしていられるのではないか。こんなふうに介護認定審査へのAI導入を夢想している。
 

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この記事へのコメント

「1件の介護認定に2~3万円程度の費用がかかると聞いた」
「聞いた」のであって「確かじゃない」との屁理屈も出てくるので、
1件の介護認定にかかる費用を公表してほしいですよね。
私は1件2~3万と聞くと「エ〜〜、そんなにかかるの」という感想です。
どの業界でも「紙ベースの仕事しかできない事務職」は不要になって、少数精鋭事務職に求められるのはプログラマー並みのITスキル。介護業界だけが置き去りみたい。
医療介護業界に必要なのは、援助を必要とする人を「実際に世話できる」生身の人間です。

Posted by 匿名 at 2019年01月22日 03:22 | 返信

Aiって、どんなものなんでしょう?
コンピューター占いみたいなものでしょうか?
遊びで、自分の恋愛運や結婚運を試したり、自分に向いた仕事や就職先を見て参考にはするかもしれません。
でも、学校の担任や、職場の上司や、就職先の担当者やお医者さんが、Aiで、診断してそれだけで決めてしまうのも怖いなあと思います。
Aiでは「ケアマネジャーにはむかない人格」と出ても、面接したら、美人だから採用するってのも夢があってアリなんじゃ?(笑)

Posted by にゃんにゃん at 2019年01月24日 04:02 | 返信

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