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がん治療 「遺伝子パネル検査」への期待

2019年03月23日(土)

月刊公論4月号に、「進化するがん治療 遺伝子パネル検査への期待」
という文章を書かせて頂いた。→こちら
毎日、がん患者と接しているが遺伝子パネル検査の普及が待たれる。
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公論4月号  進化しつつある抗がん剤治療
      「遺伝子パネル検査」への期待
 
効果の事前予測が可能に
 
 日本人の死因の第一位はがんである。あまり実感がないかもしれないが、がんはもっともありふれた病気だ。しかしいざ、がんを宣告されたら誰でもパニックになる。有名な女優さんが舌がんになったことを公表した週には、全国の医療機関に「私も舌がんではないか」という問い合わせが相次いだという。普段はあまり気にしていなくても、有名人のがん公表がきかっけにがんを意識する人が増えることは良いことだと思う。有名人のがん闘病報道は一般人にも役にたつ。それを見習うもよし、反面教師にするのもよし。町医者という立場からも有名人のがん公表は大変ありがたい。
 
 がんの三大治療は、手術、放射線、そして抗がん剤である。ノーベル賞を受賞した免疫チェックポイント阻害薬も広い意味ではがんに抗う薬剤という意味で抗がん剤に含まれるしかし抗がん剤医療はいつも患者さんや家族を悩ませる。科学的根拠という延命効果はあるのかもしれないが副作用の辛さのほうが市民にはインパクトが大きい。身内が抗がん剤治療で苦しむ姿を見て以来、抗がん剤と聞いただけで震え上がる人もいる。事実、従来の抗がん剤はまるで無差別爆撃のようであった。しかしがん細胞をピンポイント攻撃する分子標的薬が何十と沢山出てきて、著効例が相次いでいる。そして現在は、抗がん剤の治療効果を事前に予測できる時代になりつつある。つまり精度の悪い行きあたりばったり的な抗がん剤治療は徐々に減り、事前の遺伝子検査で効きそうな人にだけ治療を行うという方向に向かっている。これをプレシジョンメデイシン(精密医療)という。詳細は拙書「抗がん剤が効く人、効かない人」(PHP)で述べた。

 
遺伝子パネル検査とは
 
 がんは遺伝子の病気だ。すでに多くのがんの原因遺伝子が同定されている。その結果、臓器別の抗がん剤治療ではなく、遺伝子別の抗がん剤医療に移行しつつある。たとえば、肺腺がんではこうしたプレシジョンメデイシンがすでに行われている。しかし保険診療で承認されている遺伝子検査(コンパニオン診断)はひとつの遺伝子異常だけに限られる。1回の検査で1遺伝子しか調べられないと最後の検査に到達するまでかなりの時間がかかり、治療開始のタイミングを逃す可能性が大きい。また小さな検体しかない場合には組織の量が足りないケースもある。

 そこで開発されたのが「遺伝子パネル検査」である。この特徴は1回の検査で複数の遺伝子を解析でき費用も必要な組織量もコンパニオン診断1回分で足りる。3週間以内に検査が完了するので臨床的に有用性が高い。たとえば慶応義塾大学病院を中心に実施している「PleSSision検査」は160もの遺伝子を対象としているので、遺伝子異常の検出に役立っている。数十万円という自費検査になるが直近の解析実績ではドライバー遺伝子の判明率は92%、薬剤推奨度59%、そしてその奏功割合は38%という結果であった。残念ながらプレシジョンメデイシンの有効性はまだ限定的と言わざるを得ないが、奏効率はまずまずの成績だ。
 がんの遺伝子研究で分かってきたことはがんの多様性である。実に様々な因子が絡みあってがん化が引き起こされている。だから現実的に遺伝子異常を捉えるだけですぐに有効な治療法を確立するというふうに単純化はできない。しかし「がん遺伝子パネル検査」は確実に進化しつつある。国立がん研究センターに設置された「がんゲノム情報管理センター」を中心として全国のがん研究機関が「がんゲノム医療推進コンソーシアム」を構築。全国規模の「がんゲノム医療グループ」が形成されつつあり、ゲノム医療も均てん化を目指している。近い将来、遺伝子パネル検査が安くなりその恩恵に預かれる人が増えるだろう。詳細は慶応大学のがんゲノム医療のHPを参照されたい。
 

 
抗がん剤の“やめどき”

 いくら一時的に抗がん剤が著効しても、いつかは必ず効かなくなる。これは従来の抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を問わず、がん薬物療法の宿命といえよう。しかし抗がん剤をいつまで続けるべきかという明確なガイドラインはまだ存在しない。免疫チェックポイント阻害薬などはたいへん高価なので、“やめどき”という命題は国家財政にも大きく関わる。「余命3月になったらやめよう」と言う専門家がいるが、そもそも「余命予測」ができないことがこの国の終末期議論を停滞させている主因である。では「終末期は無いのか?」と問われたら答えはNOである。必ず終末期を経て死に至る。しかし予測は不確実なので「考えたくない」という医師や患者さんが少なくない。

 そこで筆者は「抗がん剤・10のやめどき」(ブックマン社)という本を書き世に問うた。私が胃がんになったという設定の小説であるが、半分フィクションで半分ノンフィクション。嬉しいことに日本だけでなくアジアの人たちにも広く読んで頂いている。私が胃がんで死ぬまでの一連の物語のなかのどこで抗がん剤をやめるべきか、を患者さん自身に問うた。つまり抗がん剤の“やめどき”はその人の人生観によって異なっていい。それは10通りあっていいし患者さん自身が選び主治医とよく話し合うことが大切と考える。

 遺伝子パネル検査という恩恵に預かれる一方、抗がん剤のやめどきもどこかで「こころづもり」しておかないといけない時代に生きている。そして“やめどき”を話し合うことは、昨秋ニックネームが決まった「人生会議」そのものである。

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PS)
今日は、大阪(狭山市)と兵庫(西宮市)で、2つ講演。
たくさんのお医者さんと貴重な情報交換をさせて頂いた。

昨夜は「みまもりあいプロジェクト」の高原さんの講演。
「みまもり」と「みまもりあい」はまったく違うののだ。

「あい」は「互助」のこと。
それが地域包括ケアである。





 

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