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心肺蘇生を望まない終末期患者への救急隊の対応

2019年05月27日(月)

日本医事新報5月号の連載は、119番について書いた。
「心肺蘇生を望まない終末期患者への救急隊の対応」→こちら
この課題は、一歩ずつだが、確実に前進している。
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日本医事新報5月号  心肺蘇生を望まない終末期患者への救急隊の対応
 
 
看取りのはずが警察沙汰に

在宅看取りであったが慌てた家族や近所の人が119番すると、救急隊による心肺蘇生が開始されたという話を時々聞く。119番するという行為は、もし心肺停止であれば蘇生処置を開始してくれという意思表示でもある。救急隊は心肺停止に対して必ず蘇生処置を開始することが消防法で定められている。もしそうしなければ、後のメデイカルコントロールによる検証により処罰されることすらある。蘇生処置に反応せず死亡が確認されると警察に連絡されることもある。通報を受けた警察は事情聴取や現場検証を行う。このように在宅看取りのはずが警察沙汰になった、という話をよく聞く。そうなると家族は何か悪いことをしたのでは、という錯覚に陥る。大きなトラウマとなり悩み続ける人もいる。筆者もこれまで1300件以上の在宅看取りのなかで数件、苦い経験をした。警察沙汰になればせっかくの在宅医療も後味が悪い。
警察沙汰になってしまう原因はいくつかある。まずは市民が在宅看取り寸前に119番することの意味を理解していないことだ。在宅医が緊急対応をしていないこともある。また多くの医師が看取りの法律である医師法20条を正しく理解していない、ないし誤解していることもある。医師法20条と殺人疑い死体の警察届け出を定めた医師法21条を混同している医師は多い。筆者は、「看取り搬送」後の「在宅医の霊安室往診」を是正するために病院の医師に看取りの法律の説明をしているが多くの時間と労力を要する。さらに救急隊との連携がとれていないことも大きい。

 
蘇生しながらの確認作業

総務省消防庁の統計によると、救急搬送人員数のうち最も多い年齢区分は高齢者(56.7%)である。搬送人員に占める高齢者の割合は過半数を超え(56.7%)、最も高い年齢層は75~84歳(22.6%)である。その中には当然、心肺蘇生の対象となる人も少なからず含まれている。一方、リビングウイル(LW)や事前指示書(AD)を書いて人生の最終段階において心肺蘇生を望まない(DNAR)市民が増えている。現在、文書でそうした意思表示をしている国民は3.2%いると推計されている。LWやADには当然ながら、DNAR指示も含まれている。しかし現実には終末期患者さんが急変した時に、家族、隣人、介護スタッフなどが反射的に119番をすることがよくある。駆け付けた救急隊はこうしたDNARを表明している終末期患者さんにどう対応するべきだろうか。
東京都消防庁の諮問機関である「救急業務懇話会」は今年2月、「かかりつけ医による患者の意思確認と指示があれば蘇生処置を中止する」との答申をまとめた。東京都消防庁は来年度からの運用を目指しているという。また、総務省消防庁の検討会の18年度報告書では蘇生中止の基準は示していないものの心肺蘇生を中止する運用を行っている消防本部の対応状況を紹介している。その上で家族や本人が蘇生を望まない事案について今後、検討を進めていくことを明記した。このように救急隊の対応についての議論が活発化している。とりあえず蘇生処置を施しながら、LWと終末期であることの両者が確認できれば蘇生を「中止」してもいい、という方向にある。つまり蘇生をやるかやらないかの二者択一ではなく、やりながら確認作業をして場合によっては蘇生中止もあり得る。つまり救急隊も本人の意思をできるだけ尊重する裁量を持つ方向に変化しつつある。
人生の最終段階には主に3つの病態があることが広く知られている。そのうち、がんと老衰の在宅看取りにおいては蘇生中止という命題は生じにくい。一方、慢性心不全、肝硬変、COPD、慢性腎不全などの臓器不全症においては終末期の判断が決して容易でないことが少なくない。家族がどこまでも蘇生処置を強く望む場合もある。在宅医や病院の専門医と家族を含めて丁寧な話し合いをしていたらトラブルにはならない。しかし臓器不全症の終末期において、蘇生処置を施しても回復不能であるという判断を下すことは時に相当な難問である。だから臓器不全症こそが比較的元気なうちからしっかり人生会議を繰り返しておくべき病態である。LWやADを土台にしたきめ細かい話し合いを積み重ねた先に蘇生中止があると考える。そうした土台が築けていないと救急隊は消防法とLWの狭間に悩み、疲弊する。
 
 
介護施設での心臓マッサージ

自宅での看取りは医師・看護師と家族が話し合いを繰り返すことで可能となる。特に遠くの家族と早くから充分な対話をしておくべきだ。充分なコミュニケーションを図ることで看取り周辺のトラブルは避けられる。一方、グループホームや老人ホームなどの介護施設における看取りにはそれぞれのハードルがある。家族と話し合う機会を持ちにくい。また看取りの経験が皆無という介護施設も少なくない。グループホームにおいては半数以上の施設が1例も経験していないのが現状だ。そもそも介護スタッフへの看取りの教育は充分でない。また人出不足が深刻化する介護現場では、無資格者が当直していることもある。
 90代の老衰の入所者が息を引き取った、との連絡を受けた。しかし遠方にいたために「4時間ほどかかるけど今から行きます」と話して施設に向かった。果たして到着時に介護職員が女性に馬乗りになっていた。なんと4時間もの間、何人もの介護職員が交代で強力な心臓マッサージを続けていたのだ。看取りの説明はしたものの「心肺蘇生は不要」を話していなかったことに気が付き、悔いた。先に到着した家族からのプレッシャーもあったのだろう。しかし119番しなかったことには感謝した。
 70代の入所者が息を引き取りそうだ、との連絡を受けて駆けつけると先に救急車が到着していた。事情を説明してお引き取り頂いたが、はやり施設の新米スタッフが慌てて119番していた。ケア会議を何度も行い施設看取りを確認していたつもりだったが、気が動転したとのこと。それ以降、「看取り患者さんには呼吸が止まっても119番しない」ことを介護スタッフ全員に周知している。
 
 
 
演劇は市民啓発に有用

近畿二府四県からなる近畿在宅医療推進フォーラムは、数年前から演劇を用いた在宅療養の市民啓発を行っている。16年には多職種からなる劇団「死期」あらため「劇団ザイタク」が、新神戸オリエンタル劇場において「ピンピンコロリなんか無理なん知っとう?」を上演した。在宅医が救急隊や警察役を演じ、分かり易いと好評であった。18年には尼崎市と大阪市でそれぞれ「独居の認知症」と「末期がんの在宅看取り」も上演した。忙しい多職種が練習のために集まることは大変だが、関西風のアドリブを散りばめた演劇は好評である。これらの演劇はDVDやYou Tubeで全国に啓発している。在宅看取りや施設看取りの現場において多職種や家族への説明に活用している。在宅医療の市民啓発はいまだ不十分である。特に「蘇生中止」や「119番の意味」を分かり易く伝えるためには「演劇」という手法は有用である。
「無用な救急搬送」や「無用な検視」を減らすためには、在宅と救急、そしてできれば警察との三者の連携を強化する必要がある。そこで在宅医や救急医らが中心となり平成29年に「日本在宅救急研究会」を立ち上げた。私もその一人である。平成30年には「日本在宅救急医学会」となり、今年は9月7日(土)に第2回大会を都内で開催する予定である。地域包括ケアの推進は在宅と病院の連携という話だけではない。多職種や行政との連携が必須であるが、救急と警察との連携無くして成立しない。官民の壁を超えた横の連携こそが地域包括ケアの土台であると考える。

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この記事へのコメント

いろんな事件が起きて 命が失われること 人の命が終わること
何もなければ 人の命は永遠だと思う風潮
生きること 死について語り合えること
そんな場所があればいい
いろんな場所
そんな場所をつくろうと思うが何から始めていいのかわからない
先生のように できたらいいのに

Posted by なほ at 2019年05月27日 08:54 | 返信

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