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町医者から見た小多機と看多機

2019年06月16日(日)

日本医事新報6月号は「見た小多機と看多機」について書いた。
自宅と行ったり来たりと言いながらも、終の住処の人もいる。
多くの在宅医からも同様な疑問が寄せられている。→こちら
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日本医事新報6月号    町医者から見た小多機と看多機   長尾和宏

 
小多機の基礎知識

 住み慣れた地域で最期まで暮らしたいと願っても、諸事情で叶わない時がある。そんな時のために自宅か施設かの二者択一ではなく、自宅と行ったり来たりできるサービス形態も用意されている。国は小規模多機能型居宅介護(小多機)を強力に推進してきた。これは介護保険制度で提供される地域密着型サービスの一つ。同一の介護事業者が「通所(デイサービス)」を中心に、「訪問(ホームヘルプ)」や「泊まり(ショートステイ)」を一体的に提供するものだ。平成18年4月の介護保険法改正時に地域密着型サービスの一つとして誕生した。それまでは「住み慣れた地域で介護サービスを受け暮らしていきたい」という方が多い中、重度になると遠くの施設に入所するのが一般的だった。そんな状況を打破すべく生まれたのが小多機の前身である「宅老所」である。宅老所は地域密着型の小規模施設であるだけでなく通所を中心に訪問・泊まりを組み合わせたサービスを行う事業所(小規模多機能ホーム)もある。その後正式に制度化されたものが「小多機」である。

 従来の介護サービスは、利用者や家族の状況に合わせて「通所」「訪問」「泊まり」を選択しそれぞれ必要なサービスを契約するという形であった。しかし利用者を取り巻く状況は日々変化する。その都度利用するサービスを変更することは「介護事業所を新たに探す必要がある」「信頼関係の築けたスタッフや利用者と離れることへの不安」など、利用者やその家族に大きな負担が生じる。それらを解消しサービス選択の自由度を高めた点が小多機の特徴である。ここでの利用料は月額定額制だ。通所・訪問・泊まりを組み合わせる場合も定額(宿泊費・食費などは別途必要)で利用できるため、毎月の介護保険利用限度額を超えないかという心配は不要だ。サービスの利用回数は一日あたりの定員人数を超えなければ特に制限がない。小多機を営む事業所は24時間・365日体制のため休業日が無い。そのため定員さえ問題なければ「家族が体調を崩したためデイサービスを利用した後そのままショートステイに」といった突発的な利用も可能にしている。

 
看多機の基礎知識
 
 一方、看護小規模多機能(看多機)は、小多機に訪問看護ステーションを併設したものである。看護もあればよりいいだろう、という発想である。人員基準はおおむね小多機の基準に沿い、さらに看護職員を手厚く配置する形になっている。医療依存度が高い人、退院直後で状態が不安定な人、在宅での看取りを希望する人、などの在宅療養を支援するためにある。だから病院の地域連携部は、在宅希望だけど不安が強い人、重度の褥瘡がある人、頻回の痰吸引が必要な人などには、看多機を優先的に勧めるケースが増えている。

 しかし実態はどうだろうか。まずは小多機と同様に「行ったり来たり」と謳いながら最期まで入ったままの人が結構おられる。重症化すればするほど箱の中にいたほうが安心だと言われる方が少なくない。つまり「終の棲家化」だ。在宅医の視点からはどうだろうか。小多機も看多機もなぜか訪問診療が禁止されている。従って24時間対応していてもその加算が算定できない。さらにリハビリが提供できない点も非常に困る。たとえば大腿骨頚部骨折で手術後の患者さんが看多機を使った療養生活を選択した場合、家でも看多機でも理学療法士によるリハビリが受けられない。施設は定額制なのでリハビリは持ち出しになるからだ。さらにケアマネは施設のケアマネに交代しないといけない。

 さらには看多機で働く看護師は病棟勤務しか経験していない人が少なくない。なかには訪問看護はまったく未経験という人もおられる。だから患者さんが「家に帰りたい」となると、本当に訪問しなければいけないので大騒ぎになることがある。在宅看取り経験が皆無という看護師が管理者を任されているケースも聞く。つまり事業主体が医療法人であれば病院医療の延長線上に看多機も置かれている。本来の理念からは外れて経営上の理由で運営されている看多機もあると聞く。だから重症化すると外部の「みなし訪看」がボランテイアで関わらないと管理できない時がある。地域密着型サービスであるにも関わらず、医療依存度が高いという理由だけで遠く離れた看多機に入れられる人もいる。
 


理念と現場の乖離

 小多機も看多機もその理念は立派である。国から見ると「完璧」で「理想的」なものだという。しかし町医者の立場からはとても困ることが多い。在宅関係者が集まると必ず小多機や看多機の保険請求の話になるが明快な結論は出ない。繰り返しになるが小多機も看多機も訪問診療ができない。しかし月に1度は自宅で診療しないといけないのが保険診療上の規則である。自宅と施設を行ったり来たりするのが設立理念だからデイサービス中に医療保険を使うことは禁止というのがその理屈らしい。しかし月に一度は自宅で診察することが定められているので、自分の車に患者さんを乗せて自宅付近までドライブする医師もいる。そうすることで「自宅で診察した」ことにするという。あるいはデイサービス中ではない夜間を狙って訪問する医師もいる。結局、定期的に診療しても訪問診療料を算定できないが小多機や看多機だ。だから定期的に「往診」するしか手がないのだがそもそも「定期往診」という言葉自体がおかしい。つまり小多機も看多機も在宅関係者には診療報酬算定が不明な点が多い。しかし個別指導の対象になり易いので敬遠される。私は往診のみを算定し24時間加算は算定していない。一種の「ボランテイア」として引き受けている医療機関が多いと聞く。ちなみに診察しないで投薬すると医師法20条違反に問われる。

 小多機も看多機に送られる患者さんのなかには言葉は悪いが「他に行き場のない人」も相当含まれている。生活困窮者や生活保護者など様々な事情で家に帰りたくても帰れない人がそこで暮らしておられる。入所条件は「自宅があること」であるが、その自宅は実態が無くダミーというケースもある。


 
国も医療と介護の連携を
 どうしてそうなるのか。誰に聞いても正解がよく分からない。そこで地元の在宅医仲間からの要請を受けて厚労省の担当部署まで相談に赴いてみた。小多機や看多機に関する法規の担当者に話をすると「へえ、そうですか。そんなことがあるのですか。初めて知りました」と言われ拍子抜けした。その直後上司が飛んできて私の話を聞くまでもなく「職員をいじめないで!」と追い出された。要は相手にされなかった。日を改めてまた別の部署でも同じように相談に赴いた。しかしやはり納得のいく答えは得られていない。

 あちこち聞いて回ってひとつだけ収穫があった。厚労省の中で医療保険と介護保険の連携が充分でないと感じた。ある有力者からは「連携しないのが霞が関の掟だ。連携を期待する君がおかしい」とたしなめられた。医療と介護の連携があれほど謳われているのに国レベルでは期待してはいけないという。そこで厚労行政に詳しい何人かの政治家にも相談した。かなりの時間をかけて説明したが「質問の意味が分からない」と言われた。連携困難の象徴が小多機や看多機かもしれない、と思い至るようになった。

 「小多機や看多機はややこしいので、主治医はお断り」と公言する町医者が多い。たしかに疑問が多い。国が思い描くようなお花畑にはなっていない。「君は現実を言いすぎる」とよく言われる。しかし今日もそこで最期まで暮らす患者さんがいて献身的に働く介護職員もいる。だから逃げずに疑問を解消したい。もしこの記事を読まれた方で正解を知っている人がいればご助言頂きたい。
 
 
 @@@@@@@@@@@@@@@@@@


ps)
日曜日の午後は毎週大忙しで、電話がたて続けに鳴る。

年中無休の当院は、お昼過ぎまでは外来も在宅も何人かのスタッフがいる。
ところが全員が帰った午後3時くらいから、電話が鳴り出すので間が悪い。

みなさん「昨日から我慢していたけど月曜日までは不安」と言われる。
そう、不安で一杯になるのが日曜日の午後なのだ。

私一人しかいないので、右往左往するだけなのだが、
一番困るのは日曜午後は、薬局も閉まっていること。

心不全の急性増悪の患者さんにはラシックス1錠あるだけで
命を助けることがことができるのだが、それが調達できない。


仕方ないので注射薬を取りに帰り注射しに行く。
激しい痛みに対する医療用麻薬も、本当に困る。

お金が無いので、訪問看護が入っていない(入らせてくれない)
家に限って、日曜日の夕方に電話をかけてくる。

10件ほど回ったら、クタクタになった。










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この記事へのコメント

診療報酬の算定ルール上、小規模多機能型居宅介護においては泊まりの日に限って、在宅診療料(訪問診療料、在宅時医学総合管理料、施設入居時等医学総合管理料、在宅がん医療総合診療料)が算定できる。となっています。2017厚労省
看護小規模多機能では、重度者や末期の方が多く、職員負担も大きいので。
看護小規模多機能にて、訪問看護・通い・泊りを実施しますが、訪問看護や訪問リハは。末期がんや難病の方は医療保険からとなります。医療訪問看護減算になっても、医療からの訪問看護や訪問リハを出す方が、赤字が出ません。
医師・看護師等が医療情報共有します。ケアマネは医療以外、全体把握をできません。

Posted by 峯 通子 at 2019年06月22日 05:59 | 返信

診療報酬の算定ルール上、小規模多機能型居宅介護においては泊まりの日に限って、在宅診療料(訪問診療料、在宅時医学総合管理料、施設入居時等医学総合管理料、在宅がん医療総合診療料)が算定できるということで、訪問診療が可能である。2017厚労省となっています。
小規模多機能では、訪問介護や通院送迎まで包括的サービス提供しています。
看護小規模多機能は重度者が多く、末期がんや難病患者は、医療からの訪問看護・リハビリになります。
看護小規模多機能では、医療保険からの訪問看護入ると、医療訪問看護減算になりますが、医療から訪問看護や訪問リハを入れた方が、赤字になりません。看護小規模多機能にて、通い。訪問看護・リハビリを包括的にたっぷり入れると赤字になります。
医療情報は医師と看護師等が共有。

Posted by 峯 通子 at 2019年06月22日 06:20 | 返信

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