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NHKの安楽死報道をどう受けとめる

2019年07月26日(金)

月刊公論の8月号は、「NHKの安楽死報道をどう受け止める」で書いた。→こちら
尊厳死の議論から深めていこうじゃないか、という提案をさせて頂いた。
折しも一昨日はNHKのデレクタ―が取材に来られて午前1時まで話した。
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公論8月号  NHKの安楽死報道をどう受け止める
       日本国内での尊厳死の議論を深めよう
 
好意的な反響
  6月2日のNHKスペシャルで、スイスに渡って安楽死を遂げた51歳の日本人女性が報じられた。多系統萎縮症という神経難病が進行するなかでの苦悩と決断を描いた番組だった。ネットでの書き込みを見る限り概ね好評で安楽死を支持する声が多かった。「彼女の気持ちを理解できる。日本でも早く安楽死できるようにすべき。素晴らしい番組だ」などだ。しかし終末期医療、なかでもいまだに法的担保されていない尊厳死とリビングウイルに取り組んでいる医療者からみれば、安楽死を煽る前に議論すべき課題が多くあると思う。
 まずは緩和ケアの内容と経過である。彼女は新潟県の病院に入院していたが、主治医や看護師はどんな緩和ケアを提供していたのだろうか。臨床心理士や臨床宗教師も関わったのか。スイスの安楽死の基準を満たしたから安楽死したと報じたが、条件のひとつの「耐えがたい苦痛」が曖昧に感じた。彼女は笑顔も、会話も、食事も可能であった。しかし「誰かの迷惑になるから」というスピリチュアルペインがあった。介護者や家族への遠慮もあったのだろう。もし主観的な苦痛でいいとするなら、自殺希望者も安楽死の対象になってしまわないか。ご家族のひとりは最後の最後まで「本当にこれでいいのか」と迷い、亡くなった後も自問自答していた。ほんとうに緩和ケアの限界だったのか。
 
 
スイスを目指す人が増える?
「スイスという素敵な国があります。自殺したい日本人はお金を持ってそこに行きましょう」とならないか危惧する。国内でできないものは外国で、という動きが加速しないか。そんな発想は臓器移植でも同じだ。「欧米ではすぐに心臓移植ができるので日本で寄付を集めましょう」という報道を今でも見かける。海外に渡りお金で臓器を買う行為は日本人は美談として報じられている。その国の人からすれば外国人がお金で命を買いに来ることで自国民がひとり命を落とす。ローマ法王は「臓器移植は自国内で行うべき」という内容のイスタンブール宣言を出した。それを受けて臓器移植法が制定され日本国内での脳死臓器移植が可能になった。同じように、今回のNHK報道を受けてまずは国内の尊厳死の議論を深めるべきだ。
スイスには4つの安楽死組織がある。外国人がスイスに渡ってからすぐに安楽死するのではない。そこで診察や説明を受けて3~5日間の考える時間が与えられ、家族とお別れパーテイをしてから安楽死を遂げる。死亡後はスイス警察が検視に入り焼き場で骨になり日本に帰るというが、スイス人はそれを見てどう思うのか。
今後も彼女のような日本人がスイスに行けば安楽死できるのだろうか?日本人がスイスで自殺しても法律上の問題は無いのだろうか。外務省のコメントを聞きたい。尊厳死さえもグレーな国において、多くの国民がスイスでの安楽死を望む状況はどう考えても異常だ。

 

対比例の50歳女性に失礼
 なぜか人工呼吸器を装着していている同じ病気で同年代の女性も対比的に放映されていた。苦痛の表情などわざと悪いイメージを強調していた。しかも「外泊を許可された」と、あたかも自由を奪われているかのような解説だった。しかし私が在宅で診ている人工呼吸器と胃ろうをつけている多系統萎縮症の患者さんは、そうではない。家族の手料理を口から少し食べてお酒も少し飲んでいる。車椅子で外出もするしいろんな行事にも参加している。表情筋の動きは悪いは、笑顔はある。10年以上、介護は受けているが普通に生活している。「死にたい」という言葉もないし、家族も満足している。同様に人工呼吸器を装着しながらも上手く制度を使いながら普通に在宅生活をしている神経難病の患者さんが数人いる。決して、暗く悲惨な療養生活ではない。安楽死を美化し正当化するための対照として、わざわざ出したのか。もしそうであればその50歳の患者さんにあまりにも失礼ではないのか。
以前から尊厳死やリビングウイルに激しく反対してきたALS協会をはじめとする障碍者団体や全日本宗教連盟や日本弁護士会は今回の報道に強い怒りを感じたことだろう。尊厳死に関しては彼らのコメントも出して両論併記で報じるのに、なぜ今回に限っては彼らの意見を報じないのか。またそれらの団体は、なぜNHKの報道に激しく抗議しないのか。
 
尊厳死から論じるべき
 しかし私自身が、彼女のようになれば安楽死を希望するかもしれない。正直、自信がない。TVを観た多くの人も彼女の気持ちを理解し共感した。しかし私自身が自殺ほう助に積極的に加担することには大きな抵抗がある。一方、多くの日本人が安楽死に賛成、という調査結果がある。それに迎合したのか。しかし現状との乖離の大きさを報じないと、多くの国民は混乱しないか。まずは日本の現状を報じるのも報道の使命だ。最近、毎日新聞がスクープとして報じた透析中止例は、尊厳死の事例であった。しかしメデイアはこぞって殺人事件として告発すべきだとか、医師免許を剥奪すべきと報じた。終末期にある患者さんの意思を尊重して話し合いを経ての尊厳死を「殺人だ!」と報じる一方で、「安楽死」を美談として報じている。尊厳死も安楽死もベースは本人の意思、つまりリビングウイルである。しかし国は「患者は医者の訴訟リスクが高まるのでリビングウイルを書くな。終末期医療は医者が診療ガイドラインで決めるから」遂げる主張していることこそ報じるべき事実でないか。日本においては尊厳死の議論を深めるべきである。


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まさにこの議論を、8月31日に神戸でやる!!!!


8月31日(土)に「尊厳死と安楽死のあいだ終末期の鎮静は医療?犯罪?」を神戸三宮でやる。
ホスピスの専門医をお招きして桜井隆先生と3人の医師がガチンコの激論トークショーをやる。

また先週終了したテレビドラマ「神の手」(WOWOW)は安楽死のドラマと宣伝されていたが、
がん終末期の鎮静は安楽死ではなく尊厳死ではないかと思ったので、その議論もする。

そしてNHKスペシャルで放映されたスイスに渡って安楽死した日本人女性のことや、
鎮静を希望しながらなかなかしてもらえず苦しみながら亡くなった在宅緩和ケア医のことなど。

こうした一番重要な命題がまったく議論されていない。
だから具体的な事例についての本邦初の本音トークを行うことにした。

興味のある方は是非遊びにきてください。
定員100人に達したら締め切りになります。
http://www.drnagao.com/img/201907_NAGAO_6new.pdf

 

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この記事へのコメント

NHKは公共放送なんですから、今の政権に忖度などせずに、多くの国民が関心をよせているこの問題にしっかり取り組んでほしいです。長尾先生のおっしゃるごもっともな意見を取り上げて、月一回でもいいので、生さだみたいな本音トークができる、土曜の深夜二時間位の生トーク番組にしてはどうでしょうか。長尾先生に田原総一郎さんみたいなナビゲーター役になっていただき、いろいろな立場の人々が語り合うってのが理想的。常連のコメンテーターには鎌田實先生をお願いしたいです。さらに、その番組の初回にどうしても再放送してほしいNHKのドキュメンタリー番組があります。それは、~ある少女の選択~18歳いのちのメール、です。田嶋華子さんのドキュメンタリーです。今もずっと私の心の中に華子さんは生きていてくれてます。

Posted by 遠い声 at 2019年07月27日 03:32 | 返信

全国の人が見られるように動画で実況配信及び録画にて公開してほしいです。
また、安楽死の普及は緩和ケア医を含めた医師や病院、製薬会社などの医療業界に不利益をもたらすという話も聞きますので、利害関係のない立場の第三者の同席も必要があると思います。
あと、
>安楽死を美化し正当化するための対照として、わざわざ出したのか。もしそうであればその50歳の患者さんにあまりにも失礼ではないのか。
これは書く前に本人に確認すべきでしょう。第三者がどうこう言う前に、本人の意思ありきです。
また、「美化」や「正当化」に異論を唱えるのであれば、安楽死よりも生きている障がい者や認知症高齢者の美化や正当化が巷では溢れかえっていますよ。そちらについての異論も唱えるべきでしょう。

安楽死・尊厳死議論の高まりは大歓迎ですが、利権による反対圧力など弾劾されるべきものを暴き出されることもご承知頂いた上で、公平な議論の場となることを願っております。

Posted by 匿名 at 2019年08月22日 11:25 | 返信

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