このたびURLを下記に変更しました。
お気に入り等に登録されている方は、新URLへの変更をお願いします。
新URL http://blog.drnagao.com

研修医と在宅医療

2019年11月18日(月)

先週は、腎臓内科を目指す研修医君が来ていた。
今週は、消化器外科を目指す研修医君と一緒だ。
日本医事新報は「研修医と在宅医療」で書いた。→こちら

2つの応援
クリックお願いします!
   →   人気ブログランキングへ    →   にほんブログ村 病気ブログ 医者・医師へ
 
 


日本医事新報2019年11月号  研修医と在宅医療


 
在宅研修に来るけども
 
 当院は20年近く、医学生や研修医の在宅医療の研修を引き受けてきた。現在も入れ替わり立ち代わり、様々な病院や大学から依頼されて医学生や研修医がやってくる。ちなみに当院は朝夕の外来診療の合間に在宅医療を行うミックス型診療所(日本医師会が推進する“かかりつけ医”型の在宅医療を提供する診療所)である。医師だけでなく、看護学生や看護師、ケアマネや介護職の在宅研修も引き受けている。教育を責務とする大学病院とは異なり日常診療をやりながら研修医を指導することはかなりの手間を要する。若者を指導することは診療のエネルギー以上の労力を要し診療効率もかなり悪くなる。しかし数少ない単独型・機能強化型在宅療養支援診療所にとって「教育機能」は責務だと考えて、これまで何百人の研修者を必死で指導してきた。

 終日私が教えることになっている月曜日の研修が終わるのはおおよそ21ないし22時になる。介護者の就労の関係上、19時くらいまでデイサービスがあり、夜間しか訪問できない在宅患者さんが少なからずおられ、夜診終了後も在宅を回るからだ。しかし最後まで付いてきた研修医はほとんどいない。9時・5時ではないが、なかには17時が近くなるとソワソワし始める研修医がいる。「暇なので週に2回くらいはゴルフの練習に通っています」と聞き、たいへん驚いた。自分自身が研修時代は病院にずっと泊まり込み、家に帰ったのは2年間に数日しかない文字通り奴隷生活であった。しかし医局崩壊、そして働き方改革の結果だろう、研修医のほうが先に帰ってしまう、という時代が来るとは夢にも思わなかった。

 
 
外科系医師が多い
 
 前回にひき続いて今年も週刊朝日ムック「さいごまで自宅で診てくれるいいお医者さん」の監修を務めさせて頂いた。この本には全国の在宅療養支援診療所と在宅療養支援病院の約2600軒が厚労省に届け出た実績がそのまま掲載されている。市民や病院から見ると在宅医療はまさにブラックボックスであろう。いや私たち在宅仲間同志でもお互いの診療所の実績や地域の在宅医療の実態はよく分からない。そんななか本書は各診療所の実態を知るには大いに役に立つ。一般市民や病院の地域連携室には1冊は置いておきたい本だ。

 この本を眺めていると実に飽きない。有名だけど実績はさほどではない医師、反対に無名だけどすごく頑張っている医師など、一目瞭然である。患者数と看取り数を眺めているだけでも、いろんな想像ができる。患者数100人で看取り数100人という診療所は、主に病院から紹介される末期がんを診ているのだろう。一方、患者数2000人で看取り数が5人という診療所は集合住宅を中心に診ていて、終末期は病院送りなのだろう、と。

 知人の医師も沢山載っているが、外科系出身者が多い事に気が付く。消化器外科、呼吸器外科、心臓外科、脳外科、整形外科、麻酔科、泌尿器科・・・多くの修羅場を経て行きついた先が在宅だったのだろう。意外に少ないのが循環器科や糖尿病内分泌科などの内科系である。
 
 
アーリーエクスポージャー

 厚労省と医師臨床研修マッチング協議会が2019年度マッチングの結果を公表した。都会の病院の人気がある一方、地方の病院は定員割れが多く、研修医の偏在は明らかであった。職業選択の自由があるものの、10年後、そして多死社会のピークと推定される20年後の医療を考えた時、臨床研修の在り方は極めて重要だ。特に若手の先生が地域医療や在宅医療に入り、根付くためには何が必要なのか?と思いながら眺めていた。

 そもそも大病院で臨床研修をしないといけないのだろう。36年前、自分自身は医師数数人で、研修医は私一人という100床程度の救急病院で2年間の修業をした。平たく言えば野戦病院である。医師になったその日から手術場に入り、麻酔を習い、手術の前立ちをする一方、ひっきりなしに来る救急車の対応、当直業務、外来診療、病棟では白血病や心筋梗塞の重症入院患者の管理、そして末期がんの看取りなどに忙殺されていた。バイトで外来に来る医師の指導も相当受けた。

 激しい修行のおかげで2年間で数百人の看取りを経験し総合診療力が身についた。その後、大学病院に5年間勤務し博士号を授与されたあとは4年間市民病院に内科医長として勤務したところに阪神段震災が起こり病院は野戦病院と化した。仮設住宅が建ち始めた時、病院を飛び出し開業し仮設住宅を巡回することになった。それが医師としても在宅医療の始まりである。しかし振り返れば19歳の大学入学時に無医地区研究会に入り長野県下伊那郡の無医村で家庭訪問した頃が原点なのかもしれない。いずれにせよ10代で在宅医療に接したことがその後の医師生活に大きな影響を及ぼしている。
今私の診療所では新卒の看護師を採用して訪問看護師を養成している。2年で特定看護師に相当する実力を持つ看護師を育て本人が希望するならば病院に移動してもいいと考えている。看護師の場合は、看護学校1年生が在宅研修に来る。まさにアーリーエクスポージャーである。それ以前の地元の中学2年生が「トライヤルウイーク」という就職体験に来るが、それが看護師の道を選ぶきかっけになった人もいる。

 
救急や全身管理は必須
 
 では医師も看護師同様、いきなり在宅現場で研修したほうがいいのだろうか?私は、臨床実習や初期研修で半年~1年程度は来て欲しい。しかしその後、いったん、救急や麻酔科、あるいは外科系で修羅場を最低3~4年程度は経験して欲しい。つまり「全身管理」や「治す医療」や「蘇生する医療」をしっかり学んで欲しい。たくさんの修羅場を経験することで初めて在宅患者さんの急変や終末期の緩和ケアや持続的鎮静に自信を持って対応できる。修羅場を経ない在宅医療は問題があると思う。在宅医療にもリスクマネッジメントという概念が入ってきて、危機管理の能力も問われる。厳しい修行を経てから再び、在宅医療を含む地域医療に戻ってきて欲しい。アーリーエクスポージャーは看護師養成と同じだが、その後の修羅場のくぐり方が少々違う。簡単に言えば、真っ先に「支える医療」に少し接してから最低数年間は「治す医療」を学ぶべきだが、現在は真逆である。その結果、在宅医療を始めるのが50代、60代と遅くなる。この年代では在宅医療の肝である夜間対応に弱くなるのは当然だ。そうではなく、体力が充実している30代、40代こそ在宅医療を含む地域医療で活躍できる医師の養成システムに組み替えることはできないのか。

 この10月、私は北海道のオホーツク空港に近い広域紋別病院に在宅医療の講演に呼んで頂いた。予想に反して綺麗で設備の揃った病院で、講演会にもたくさんの市民に来て頂いた。院長は50代前半、副院長は40代半ばと、若い!20人弱の医師はさらに若く活気にあふれていた。数年前、長崎県の上五島病院を訪問した時も同じ光景を見た。最先端の手術を終えたばかりの医師がそのまま看取り往診に出かけていた。これこそが地域医療だ。治す医者が支える医療も普通にやる。「専門性と総合性の両立」が医師の研修や生涯教育の目標である、と確信している。

 2020年から2040年の20年間とは、多死社会の急速進行である。その死亡者の半数以上は85歳以上の超高齢者なのだ。超高齢者への急性期医療の需要は少ないことは当然だ。ちなみに2040年後も死亡者数は多少減るが、そもそも人口減少が加速し、それでも85歳以上の死亡者は増え続けることは国立人口研究所の統計で明らかである。しかし現在の臨床研修では未来予想図に対応できない。病院再編を巡る議論が盛んであるが、是非上記の2040年を見据えた研修制度も含めて欲しい。
 

2つのランキングに参加しています。両方クリックお願い致します。皆様の応援が日々ブログを書く原動力になっています。

お一人、一日一票有効です。

人気ブログランキングへ ← 応援クリックお願い致します!

(ブログランキング)

にほんブログ村 病気ブログ 医者・医師へ ← こちらもぜひ応援クリックお願い致します!

(日本ブログ村)

※本ブログは転載・引用を固くお断りいたします。

この記事へのコメント

腎臓内科。バラエティーに見える、病。バラバラな、専門家。年を取ることを悲劇的に、見なす風潮。そのくせ、何か有ると「年だから。」というせりふ。
人間は以外と、単純で何か病が有れば人間の身体は全て繋がっている。そうとしか、思えない。

Posted by ひろっち at 2019年11月19日 09:10 | 返信

『(在宅医は)外科系出身者が多い事に気が付く。
・・・多くの修羅場を経て行きついた先が在宅だったのだろう。
意外に少ないのが循環器科や糖尿病内分泌科などの内科系である。』

多くの修羅場=切りまくって「手術は成功したけれど合併症で・・・」患者を苦しめても手術は完璧だった=という「修羅場」に嫌気がさした外科医が多いのですよ。「嫌気がさす」だけの人間性を保持しているからまだマシ。
「切りまくる医療」の限界を早く察知した懸命な外科医が、医者として食っていくために選択したのが「在宅医療」なのです。

循環器科や糖尿病内分泌科は昔々の子沢山時代は需要少なく、ならびに医療後進国では病気に入らないです。いわば現代病であり先進国病であり老人病ですから「お客さんがたくさんいる」、つまりは医療資本主義の原理。

切りまくっている外科医さん、「神の手」なんて「誇大妄想」に浸ってないで在宅医療を目指しましょう(^O^)

Posted by 匿名 at 2019年11月19日 12:50 | 返信

コメントする

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:

このたびURLを下記に変更しました。
お気に入り等に登録されている方は、新URLへの変更をお願いします。
新URL http://blog.drnagao.com


過去の日記一覧

ひとりも、死なせへん

安楽死特区

糖尿病と膵臓がん

病気の9割は歩くだけで治るPART2

男の孤独死

痛い在宅医

歩き方で人生が変わる

薬のやめどき

痛くない死に方

医者通いせずに90歳まで元気で生きる人の7つの習慣

認知症は歩くだけで良くなる

がんは人生を二度生きられる

親の老いを受け入れる

認知症の薬をやめると認知症がよくなる人がいるって本当ですか?

病気の9割は歩くだけで治る!

その医者のかかり方は損です

長尾先生、近藤誠理論のどこが間違っているのですか

家族よ、ボケと闘うな!

ばあちゃん、介護施設を間違えたらもっとボケるで!

抗がん剤 10の「やめどき」

「平穏死」10の条件

胃ろうという選択、しない選択

  • にほんブログ村 病気ブログ 医療・医者へ