以下、11年前のMRICから。
きっと同じようなことがこれから起こる。
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臨時 vol 121
「PCR検査をめぐる迷走」
―兵庫・大阪の新型インフルエンザ騒動から何を学ぶかー
長尾クリニック(尼崎市) 長尾和宏
5月27日現在、兵庫・大阪における渡航歴と関係のない新型インフルエンザ
発生は一応の収束に向かいつつあるようだ。今週からほとんどの学校での授業が
再開された。各地での新たな患者発生や秋以降に予想されている第2波、第3波
に対して、医療者はどう備えるべきなのか。 また今回の騒動から何を学ぶべき
か。大阪府と隣接する兵庫県尼崎市の一開業医の立場から、今回、PCR検査に
ついて感じた疑問について述べたい。
【発端となった渡航歴のない患者へのPCR検査】
どうしてまた神戸だったのか?風評被害を含めて兵庫・大阪の経済損失は80
0億円にのぼると試算されている(5月24日神戸新聞)。今回の騒動が関西の
地域経済に及ぼす影響は極めて深刻だ。まず神戸でおきたことの発端を振り返っ
てみる。
「季節性インフルエンザの予防接種を受けているのに、なぜ発症するのか」–。
新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)の国内感染が明らかになったきっかけ
は、患者に海外渡航歴の該当条件がなかったにもかかわらず、「新型」を疑った
神戸市灘区の開業医(52)の機転だった。
1例目となった兵庫県立神戸高3年の男子生徒(17)は11日午後、せきと
のどの痛みを訴えて来院。熱がなかったため、医師は風邪と考えたが、翌12日
午前に再来院した際、37・4度の発熱があり簡易検査を実施したところ、A型
陽性を示した。
生徒に海外渡航歴はなかったが、医師は海外では、若者を中心に拡大している
男子生徒は以前に季節性インフルの予防接種を受けている生徒が所属するバレー
ボール部で複数の生徒が発症している–などを総合的に判断。「新型が検疫をす
り抜けていることもありうる」と考え、地元医師会を通じて市に遺伝子検査を依
頼したという。(5月19日 読売新聞)
通常の簡易キットは、1×10の3乗から10の5乗つまり1000個から10000
個のウイルスがあれば検出可能だが、PCR法は一番簡単なやり方でも1000個以下
で検出可能、さらに感度の良い方法を使用すれば10個単位で検出可能であると言
われている。
第一発見者となった神戸の開業医の機転は高く評価される一方、この診療所に
は2日間の診療停止命令が下った。同様に大阪府八尾市で最初に新型インフルエ
ンザの感染が確認された女児を診察した医師が、感染を拡大する可能性があると
して、八尾保健所から休業を求められた。医師は16日、八尾市内の医療機関で小
学6年生の女児(11)を診察。17日夜になって保健所から連絡があり、「休むか休
まないかは先生の判断ですが、新型インフルエンザ が蔓延したら知りませんよ」
などと言われたという。このため、医師は八尾市内の医療機関を一時休診にした
という。(産経新聞)
PCR検査による各地域での新型インフルエンザ患者の発見は、皮肉にも医院
の一時閉鎖という憂き目をみた。後に院内での感染症対策がきっちりなされてい
れば閉鎖にはしないとの通達が出ているが、もし新型を見つけてしまったら医院
を閉鎖されるという不安を抱きながら患者さんと向き合っている開業医が多いの
ではないか。
【PCR検査をめぐる迷走】
神戸市の市民病院の発熱外来では、発熱患者の全員にPCR検査を施行したそう
だ。感染症法2類に従った対応だろう。一方、同病院でPCR陽性例の半数は迅速
検査陰性であったとか、症状も微熱だけだったとも聞く。A型陽性者に対してPCR
検査を実施して病状の軽重を問わず医療機関や市民や保護者不安に応えることは
大切だ。法律に従うだけでなく、科学的行動を求められる医療者として当然の態
度であった。
以下、激震地の灘区灘診療所の村上正冶医師からの報告だ。
「しかし発表2日で市民病院の感染外来は破綻したようです。電話センターで
は地域の医療機関受診を勧める方針に転換し、同時に基幹病院に発熱外来開設を
依頼した結果、開業医にも軽症を含めて患者が押し寄せることになりました。神
戸市が国内先端知見を持つことになり、市民病院42症例の臨床知見を元に独自の
判断をとることになりました。弱毒性のインフルエンザであり既にまん延期に至っ
たと宣言しました。まん延期でありPCRは必要ないとの知らせが一度出て、翌
日にまた定点ではPCRをせよとの指示が出たりと何度も表向きの指示は変わり
ました。しかし、現場では次第に熱が冷め「季節性と同じで良いじゃないか」と
いう運用が一般化したと思われます。」
新型インフルエンザは世界的な対応が必要な疾患であり、しっかりしたサーベ
イランスを行いデータを出す必要があり、その分析から限られた医療資源をどう
分配するかも考えなければならない。筆者も当初はPCR検査は積極的に行うだ
ろうだと予想していたが、必ずしもそうではなかったようだ。連日、行政や医師
会から様々な指示がFAX等で来た。当初は渡航歴があるインフルエンザ様症状
を呈する患者は医院に入れてはいけないという指示であった。しかし、後に尼崎
市でも入口を別にするとか時間帯をずらすとかで患者動線に十分配慮するならば
一般診療所でも、発熱患者を診察しても良い、という指示に変わった。
5月20日から私の診療所では風邪の患者さんは敷地内の入口付近(敷地内)に
設けた屋外テント内でまず医師が問診や簡易検査をして、インフルエンザの疑い
がないと判断した患者さんのみ中に入れて診察することにした。院内感染を防ぐ
目的と、定期受診の患者さんの不安を軽減する目的からそうした。テントは問診
用に1ヶ、診察用に1ヶを借り、レンタル料は1週間で1ヶ2万4000円で、
現在2週目に入った。テントを張ってから簡易検査はすべて屋外で行うことにな
り気分的にすっきりした。保健所への届け出た敷地外での診療はたしか医療法で
は禁じられているはずと思い出し医師会に問い合わせると、届出を医師会か保健
所にFAXするなら許可するとの回答を得た。発熱外来を名乗ることはできない
ため、とりあえず「風邪外来」と勝手に名づけた。初日、簡易検査でA型B型と
も陽性の9才の患者が出たが、保健所の電話がつながらないためいったん帰宅さ
せたが、後に指示に従い指定病院の発熱外来に紹介した。PCR検査をするかし
ないかについては私の中では不明のまま経過した。
当初、小児にはPCR検査は不要であるとの指示が出ていた。これはもし感染
症法に従うと小児が措置入院となった場合には、親御さんなども入院として扱う
ことになり、病院側に大きな支障が生じるために出された通達だったと聞く。
休校が解除された24日には、年齢を問わずA型陽性者はもちろん、簡易検査
陰性者でも新型インフルエンザを疑う全患者は保健所に連絡してPCR検査を行
いなさいという指示に変わった。簡易検査陰性でもPCR陽性となる患者が多く
いるのに、簡易検査をスクリーニングに用いるしかない現実に戸惑いながら数日
を過ごした。明らかに収束に向かった本日5月27日に、ようやくPCR検査に
関する詳細な指示がFAXで届いた。開業医でもPCR検査が可能であること、
検体の運搬を誰がどうやってするのか、もし陽性だった場合のご家族や医療関係
者の予防内服をどう扱うのかなどが、ようやく明確に指示された。
大震災の時も同じだった。当時、被災地の中心であった市立芦屋病院の勤務医
であった筆者は現場独自の判断でトリアージ・搬送を進め、ほぼ終わった時になっ
てようやく行政から自衛隊ヘリコプターでの搬送許可が出た。しかしその時には
その必要がある患者さんはもういなかった。非常時とはこんなものだろう。現場
の判断や医師会や友人など縦横のメーリングリストの情報網の方がよほど役に立
つ。
【PCR検査に何らかの圧力がかかったのか】
そうした煩わしさを避けたいのか、「簡易検査でA型インフルエンザが出たの
で保健所に届けたが季節性として扱えと言われた」、「県指定の発熱外来から
PCR検査を県に依頼したが取り下げるように言われた」、などの話が全国から聞
こえてくる。 そのような理由からか、PCR検査が一件も行われていない県もある
と聞く。神戸の例を見て、自分の管轄から新型インフルエンザが出ることを恐れ
たのだろうか。
PCR検査を巡って各地でさまざまな恣意的な圧力がかかったことは間違いな
いだろう。それが自治体の利益のためなのか、政府の利益のためかは、一開業医
のレベルでは到底知る由もないが、サーベイランスという科学的目的とは次元が
異なる不自然な力が働いているように感じた。うがった見方かもしれないが、
・海外渡航歴のある患者にのみPCRを行い→新型インフルエンザとして扱う
・海外渡航歴のない患者はPCRを実施せず→すべて季節性インフルエンザとして
扱う
とすれば、国としては都合がよかったのかもしれない。どうせ重症化しないの
なら新型でも季節性でもどちらでもいい、とういうことだったのか。選挙を真近
に控えてパフォーマンスをするには今回の騒動は絶好の機会だったのかもしれな
い。深夜に緊急記者会見を首相官邸で行ったり、「徹底した水際作戦が功を奏し
て侵入を阻止できた」と宣伝してみたり、ちょっと首をかしげる大本営発表が続
くなか入ったのが、5月16日午前の神戸からの一報が入った。
そして神戸での第1号発生の会見が民主党の代表選挙と同時刻に行われたのは
単なる偶然だろうか?同日夕方に配布された新聞の号外を見たとき、何らかの政
治的意図を感じたのは私だけだろうか。不思議な紙面だった。号外の1面の右側
には鳩山新代表誕生、左側には神戸で第1号発生、と書かれてあった。
【新型インフルエンザは2類か5類か】
新型インフルエンザは感染症法では現在「新型インフルエンザ等感染症」に分
類され、現在まで2類感染症として扱われている。患者さんや疑似患者さん
(PCRで陰性が確定するまで)は感染症病棟に隔離措置入院が義務づけられてい
る。濃厚接触者は7日間の健康監視が、入院患者さんもPCRで2回陰性が続くま
で入院が継続される。香港A型、Aソ連型などは季節性インフルエンザで5類に分
類されている。2類である限り、全例PCR検査となるだろうが、すでに現場と
大きく乖離している。いったい誰が修正して的確な指示を出すのか。無政府状態
とも感じられた10日間だった。
国立感染症研究所感染症情報センター主任研究員の安井良則氏は、5月26日、
大阪で新型インフルエンザの流行が見られた学校における積極的疫学調査の中間
報告を行い、法律や政府のガイドラインと実態とが合わないことを指摘している。
(m3.com 医療維新)
早く今の新型インフルエンザA H1/N1を5類相当に指定すればかなり混乱は解消
するのではないか。これこそ厚生労働大臣の鶴の一声で決まらないものか。
【なぜグレーゾーンの患者に医療機関受診を勧めるのか】
発熱相談センターはなぜグレーゾーンの患者に発熱外来などの医療機関受診を
勧めるのだろうか? 発熱外来を重症のみの対応とし中等症以下の患者には「受診」
ではなく「自宅待機」を指示するのではいけないのか。受診させることで感染拡
大の片棒を担ぐリスクも考えるべきではないか。
マスクの枯渇が顕著となった5月20日、筆者は尼崎市休日夜間診療所の当直
業務に出務した。屋外に設けられたブースを訪れた10数人の発熱患者に対応し
たが、大半は不安からの受診のようだった。微熱程度でも簡易検査を希望する患
者さんが多い。本人の希望であったり、会社からの指示であったり。幸い屋外で
の待ち合いの患者間距離も十分に確保されていた。しかし、看護師さんの問診を
くぐり抜けて、うっかり屋内にいれて診察してしまう可能性も感じた。臨床現場
にいるものとしては、発熱前の潜伏期後半の患者さんをどうしても想定してしま
う。
視点を変えてみよう。発熱患者には、保健所職員ないし地域の開業医や看護師
が自宅を訪問して、簡易検査や投薬を行うという発想はどうだろうか。全くの私
見だが、弱毒性インフルエンザの蔓延期には、地域によっては在宅医療の発想で
対応した方が蔓延防止や社会活動停止による経済的損失の観点から有効ではない
かと考える。当院を訪れたA型B型陽性患者さんはぐったりしていて、診療所の
裏口に置いた椅子に座ることもできず、地面に横たわっていた。これを見た瞬間、
電話してくれたら往診したのにと思った。患者宅の玄関先で簡易検査やPCR検
体採取を行えば、サーベイランスにも支障はない。また、必要な薬剤も薬局など
が配達すれば、投薬待ち合い内での感染蔓延も防止出来る。発熱外来という発想
には、もちろん発熱薬局も含まれるべきだ。そして場合によっては在宅医療とい
うオプションも包含したインフルエンザ対策への修正を提案したい。
【厚労省の対策の検証と早急な修正】
インフルエンザを封じ込めることは不可能であるというのが専門家の常識であっ
た。WHOは今回の騒ぎが始まった当初より、封じ込めは不可能であると何度も報
じてきた。しかし 厚労省の新型インフルエンザ対策はインフルエンザウイルス
を封じ込めようとする無理な目標を設定した結果、患者の恐怖心を必要以上に煽っ
た。弱毒性を謳う一方、もしインフルエンザと診断された場合、行政や住民から
迫害されると思わせた。その結果、市民の無用な不安を煽りインフルエンザを隠
すことを奨励することになった可能性がある。
また、強毒性を前提につくられた各種ガイドラインが足かせとなり各自治体の
事情に応じた柔軟な対応ができなかったという指摘もある。行政、保健所、医療
機関の連携という観点でも多くの課題が露呈した。法律に基づいた行動を要求さ
れる行政や保健所が、的が違う(強毒→弱毒)法律やガイドラインに振り回され
た側面が大きいのではないか。
さらに、今回のインフルエンザ対策が、感染症専門家による科学的思考ではな
く、政治的パフォーマンス優先で進められた点は決して見過してはいけない。特
にPCR検査をめぐっては、政治的意図が優先されたためか、現場に論理的な指
示として伝達されず、いたずらな混乱を招いている。連日、全国各地の患者数が
発表されているが、地域によって数字のもつ意味が異なるのではないかと思いな
がら眺めている。
大きな代償を払わされた兵庫・大阪の騒動だが、直近あるいは秋以降に予想さ
れる第2波に向けて今回講じられた対策の検証と今後に向けた修正が、早急に行
われることを期待する。
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臨時 vol 124
「インフルエンザ騒動の中、尼崎から世界禁煙デイに思う」
臨時 vol 124 「インフルエンザ騒動の中、尼崎から世界禁煙デイに思う」
医療ガバナンス学会 (2009年5月31日 10:18)
日本禁煙学会専門医長尾クリニック(尼崎市) 長尾和宏
兵庫・大阪のインフルエンザ騒動は収束動向にあるようだが、5月31日の世界禁煙デイを迎える三宮の街はいつもに比べて明らかに静かだ。6月6日に予定されていた兵庫県喫煙問題研究会主催の県民フォーラム「メタボより大切なタバコ対策」や恒例の禁煙行進などの行事は残念ながらすべて中止となった。これも風評被害と言える。そんな中で迎えることになった世界禁煙デイへの思いを述べる。
【喫煙者のインフルエンザリスクは2.4倍高い】
5月25日、NPO法人日本禁煙学会(理事長作田学氏)は麻生太郎総理、舛添要一厚労大臣、関英一 厚生労働省健康局生活習慣病対策室長らに当てた緊急声明を提出した。
その要旨は1.インフルエンザの重篤化・死亡リスク対策として「タバコ対策=禁煙推進」が重要です。2.来るべき新型インフルエンザ・パンデミックに備えて国民に禁煙を促してください。である。
「私たち日本禁煙学会は、タバコの流行をなくすことが、インフルエンザ・パンデミックの制圧にも大きく資することを強調したい。インフルエンザと喫煙の関係でいえば、喫煙者は非喫煙者の2.42倍インフルエンザに罹患しやすく、罹患すると重症になることが確かめられている。また、インフルエンザの死亡のリスク要因は動脈硬化を主とする心血管系疾患、糖尿病、呼吸器系疾患などであり、かつ喫煙及び受動喫煙は、これら疾患の予防可能なリスク要因である。従って、インフルエンザの死亡リスクを減らすためには生活習慣病対策、とりわけ禁煙推進が最も重要な対策のひとつである。すなわちタバコ規制は、新型インフルエンザ対策としても非常に有効である。
インフルエンザのみならず、呼吸器感染症全般(上気道炎、肺炎、結核、季節性インフルエンザを含む)の罹患・重症化の予防の基本が禁煙と受動喫煙対策であることはいうまでもない。
我々は日本政府・厚生労働省が、タバコのリスクを正当に評価し、FCTCに述べられているように「タバコの消費及びタバコの煙にさらされることが健康、社会、経済及び環境に及ぼす破壊的な影響」から人々を保護するために有効なタバコ対策を実施すると共に国民に禁煙を呼びかけられるよう要望する。」
インフルエンザ騒動と喫煙問題は決して無関係ではない。咳を主訴に受診してインフルエンザの簡易検査を希望する患者がこの10日間で急増した。喫煙者が半数以上を占めており、大半がタバコに関連した咳なのだが、時期が時期だけに患者さんも神経質になっている。必要でないと判断される患者さんでも、職場から簡易検査を強制されたと言って来院する。タバコとインフルエンザは無関係どころか、密接に関係しており、日本禁煙学会の提言は大変時期を得た行動だと思う。
【FCTCが守られていない日本】
先日の神奈川県の禁煙条例には全国から注目が集まった。小規模な飲食店などの完全禁煙化は見送られものの条例は成立した。骨抜きにされたという見方と大きな第一歩であるという評価がある。私は後者である、高く評価したい。
室内での完全禁煙を定めた国際条約(たばこ規制枠組み条約、FCTC)に批准している日本であるが、まだまだお寒い実態であり国際的に見ても大きく遅れている。大変恥ずかしい事態だ。
国会議員の中にもいまだにこの条約の存在自体すら知らない方も多いと聞くので、仕方がないのかも知れない。しかし、神奈川県の禁煙条例を日本国のFCTC遵守推進への弾みとしたい。
「タバコは嗜好品である」と思っている人がまだ多い。タバコは嗜好品ではなく毒物だ。多くの国民がまだそう思うのには理由がある。たばこが毒物であることを巧妙に隠す政策が実に見事に続けられてきたからだ。タバコ会社は多大な研究費を医学研究者に給付し、テレビドラマやスポーツイベントのスポンサーになり、本来なら正面切って真実を伝える専門家やマスコミの口を封じてきた。何故か。それはタバコ会社が財務省の天下り先であり、それは「不都合な真実」でもあったからだ。
FCTCに批准しながらも、本気で実行しようとしない。メタボ対策にもタバコは最後の最後で中途半端に加えられ、変な格好で一応入っているが、ポーズだけに見える。また、がん対策で最も急がれるのがタバコ対策であるはずなのに、一向に具体策が見えてこない。財務官僚のタバコ会社への天下り構造がある限り、本気で取り組めないのだろうか。TVコマーシャルを見ても分かるようにタバコ問題を、分煙やポイ捨て防止というマナーの問題に見事にすり替えてきた。タバコ会社だけが儲けて、喫煙者と非喫煙者の無用な対峙を生みだしている。はっきり言おう。日本の喫煙者は騙されているのだ。
【禁煙で人生を変えようー尼崎から禁煙宣言を―】
尼崎は公害喘息とアスベスト問題で有名な町だ。蛇足だがメタボ検診発祥も尼崎だ。しかしアスベストやダイオキシンよりタバコの煙の方が有害性が高いことは意外と知られていない。毎日、咳が止まらない患者さんや喘息患者さんを診ている尼崎の町医者なら知っている。タバコでどんなに人が死んでいるか。
私は在宅医療の現場で週に一人の割合で在宅看取りをしている。これまで約300人の在宅患者を看取ってきたが、満足死が多い一方、もっともやり切れないのがタバコ病による若い最期だ。これは予防できたはずの死だ。医師として一体何ができるのかと考えた時、一番に浮かぶのが禁煙指導だ。
校医をしている夜間高校で年1回、全校生徒を集めて禁煙指導をしている。また呼ばれるままに高校や大学で禁煙指導をしてきた。最近では「高校では遅い、中学、いや小学生からの防煙教育を」と言われている。こどもたちにタバコの話をした後に必ず聞かれる質問がある。「なぜそんな毒物を国が許可しているのか」。もっともな質問だ。しかしきちんと答えられない自分自身が悔しかった。兵庫県喫煙問題研究会に入り日本禁煙学会の試験も受け、自分なりに勉強していった。すると驚くべき国家的騙しの構造が見えてきた。一般の人や子供には分からないはずだ。巧妙に騙されているのだ。特にタバコ会社にとって上客である子供たちは、TVドラマなどのサブリミナル効果でしっかり騙されている。
そんな現実を周囲の人に伝えるべく、世界禁煙デイに合わせて本を出版することにした。
「禁煙で人生を変えようー騙されている日本の喫煙者たちー」(エピック社)http://www.epic.jp/
国民が巧妙に騙されているカラクリと喫煙者が最も知りたい情報であるバレニクリンによる禁煙補助療法の詳しい解説も加えた。
この春、公害の町、アスベストの町、尼崎から禁煙宣言を発信したい。インフルエンザ騒動で禁煙イベントが中止になった今の兵庫からタバコフリーを発信する意味はあると信じている。
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臨時 vol 224
「インフル対応で試される感染症行政の地方分権と医師会の公益性」
臨時 vol 224 「インフル対応で試される感染症行政の地方分権と医師会の公益性」
医療ガバナンス学会 (2009年9月3日 06:44)
5月から続いている新型インフルエンザ対応について、現場の開業医として日頃感じている
ことを2点指摘します。
1)インフル対応は感染症行政の地方分権の試金石か
インフル対応に関して、国、都道府県、市町村からさまざまな通達が出されてきました。膨大
な情報を前に戸惑うことが多いのですが、疑問に感じた点は実際には市町村医師会および
地域の保健所に問い合わせて対応してきました。実際、兵庫・大阪での第1波に対して地元
医師会と行政とで迅速かつ密接な連携が図られた事実は、高く評価されるべきだと思います。
ワクチン接種などの大きな指針・責任は国の仕事として、学校や施設などでの集団発生に
おいては、地域の医師会や行政の判断が優先されることは当然です。しかし国、県、市町村と
いう3重構造の行政の指揮命令系統を考えた時、橋下大阪府知事が唱える地方分権の在り
方という言葉をつい連想してしまいます。
舛添厚生労働大臣が新型インフルエンザワクチン接種に保障制度を提唱した意義は大きく、
国の感染症対策はいかなる政局においてもまさに超党派で行われるべき課題だと感じまし
た。しかし地域性を考慮すべき局面も多く、地域の裁量権の在り方が今後の感染症対策の鍵
を握ると思います。すなわち、インフル対応を巡っては感染症行政における地方分権のあり
方自身が問われていると感じます。
2)インフル対応で再認識される医師会の公益性―ピンチを活かす発想をー
医師会は申すまでもなく公益法人であり、市民のために存在します。そんな当たり前の事実
を、インフルエンザ対応は再認識させてくれています。有名になった発熱外来は、市町村医
師会の理事や有志によって運営されてきました。
医療現場への通達は実際には、地域保健所→地域医師会を通じてなされています。感染
症対策において、地域保健所と地域医師会の連携ほど重要なものはありません。大部分の
病院管理者は医師会に加入していますが、開業医は全員加入とは限りません。特に最近で
は都心部での医師会入会率は低下しています。従って、行政・保健所からの指示が、医師会
非入会の開業医に十分に伝達されない可能性が懸念されます。地域での医療連携は、事実
上、市町村医師会を通じてしか行いえないという事実を改めて指摘したいと思います。
いまこそ日本医師会は、行政と一体となって新型感染症に対応している事実をもう少し啓発
してもいいのではないでしょうか。何かと非難されることが多い医師会の名誉挽回のチャンス
ではないでしょうか。また、この際、非入会の開業医にも公益性の見地から行政・保健所から
の情報を積極的に流し、さらには医師会に入会してもらえるような方策、たとえば入会金の減
額、などを本気で検討して頂きたいと考えます。
インフル対応は、感染症行政における地方分権のあり方と医師会の公益性を問う試金石で
もあると感じています。
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臨時 vol 234 「簡単に「発熱外来」と言うけれど・・・」
医療ガバナンス学会 (2009年9月9日 06:23)
ー理想と現実の狭間で困っていることー
長尾クリニック(尼崎市) 長尾和宏
5月の兵庫・大阪の新型インフルエンザ騒動の時、当クリニックでは入口横に
テントを張り、「風邪外来」と称して風邪症状の患者さんをすべて屋外で診療し
ました。8月以降の第2波を迎え、手挙げをした開業医において「時間的ないし
空間的に動線を分離して」インフルエンザ診療を行うことになっていますが、多
くの問題点を孕んでいます。
1、発熱や臨床症状で見分けるのは現実には困難
38度以上の発熱患者さんを発熱外来で診るそうですが、実際に36度台の新
型インフルエンザ患者さんもいすし、臨床症状で風邪とインフルエンザを見分け
るのは実際には意外と困難です。どこの診療所でも体温のチェック網を突破して、
一般患者さんにまぎれて診察室に入ってしまう患者さんがいるのではないでしょ
うか。当然病期によって体温は変化するので、ある一点の体温だけでトリアージ
することには限界があります。その観点から当院では「風邪症状を有する患者さ
ん全員」を屋外ないし別室で問診し、医師が許可したもののみを一般診察室に入
れるようにしています。
2、「動線の分離」とは絵にかいた餅?
多くの医院では「時間的分離」を選択し、昼休みに予約制で診察しています。
しかし同線の分離は現実には難しいと思います。また分離を知らない患者さんが
通常診療時間内に紛れ込むことは充分ありえます。また患者さん間を2m以上離
すのも現実には困難です。ビル診などでは入口の分離自体も難しく、お役所的通
達だと思います。さらに、医療機関内での動線分離ができても、院外薬局での動
線分離も同時に行わないとまさに片手落ちです。当院では調剤薬局の待ち合いも
屋外として、「発熱薬局」を提唱してきました。
3、簡易検査の功罪
簡易検査陰性でもPCR陽性の患者さんが少なからずおられ、検査キットの入
手困難という現状も相まって簡易検査無用論も議論されています。一方、疑わし
きもの全例をPCR検査というわけにもいきません。また、A医院で簡易検査陰
性であった人が、翌日のB医院で陽性であることはよくあることで、無用な医療
不信や混乱を引き起こす可能性があります。保険診療では簡易検査は原則1回の
みですが、特例を定め緩和するべきです。簡易検査陽性となるまでのタイムラグ
があること、簡易検査陰性であっても臨床診断のみでタミフル投与もあり得るこ
と、一方48時間以上経過すれば検査やタイフル投与の臨床的意義は低いことな
ど、簡易検査の意義と限界を政府は国民に分かり易く啓発すべきです。また多発
地域によっては検査キットが足りないこともローカルニュースなどで広報し無用
な混乱を避けるべきです。
4、予防投与に関する啓発活動
インフルエンザ患者さんの周囲には必ず濃厚接触者が存在します。リスクを有
する濃厚接触者への予投与はエビデンスは充分でないうえに、健康保険が適応さ
れません。臨床現場ではこの説明に多くの労力を要し、混乱を招いています。予
防投与の適応、意義、実際の方法、医療費等をマスコミを通じて国民に早急に啓
発すべきです。
5、在宅医療や公益活動への多大な支障への理解
国は、強力な在宅医療への誘導政策を行ってきました。全国1万件にもおよぶ
在宅療養支援診療所の多くは、昼休みに往診や訪問診療を行うミックス型診療所
です。また届けを出さずに昼休みを往診・在宅医療に当てている診療所も多くあ
ります。そもそも昼休みとは、医師会の会議や公務、勉強会、学校医や産業医出
務など極めて活発な活動が行われる時間帯でもあります。うまく昼の時間をやり
くりしながら頑張っている医師がほとんどです。その時間帯に手間がかかるイン
フルエンザ診療をするとなると、在宅医療のみならず多くの医師会を中心とした
公益活動に多大な支障が出ることは必至です。このような現実を全く想定してい
ない乱暴な丸投げ政策だと思います。
6、一刻も早い第一戦現場への感染症対策費の投入を
新型インフルエンザ対策を国策と位置づけるなら、マスク、消毒薬、防具など
の消耗品を一刻も早く公費で協力医療機関に投入するべきです。感染症対策には
当然コストがかかりますが、診療報酬上の配慮はなく各医療機関が自前で行って
います。過酷な医療費削減政策が続く中、地道に地域貢献している医療機関は今
こそ国を挙げて支援すべきです。医療従事者は身を呈して診療しています。私た
ちは常に濃厚接触者であり、家に帰れば当たり前ですが家族もいます。しかし病
気になっても何の保証もありません。にもかかわらず高い職業意識を持って現場
で奮闘している医療従事者に、国として相応の予算を早急に投下すべきです。時
期を失うと現場スタッフの士気を失う結果になると危惧します。
10月以降は、以上に加えて「季節性インフルエンザ」と「新型インフルエン
ザ」の予防接種という外来業務も加わり、大混乱が予想されます。早急に上記の
問題点に対する国の具体行動を期待します。
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臨時 vol 240
「産業保健における新型インフルエンザ対応への提言」
医療ガバナンス学会 (2009年9月12日 08:28)
長尾クリニック(尼崎市)・労働衛生コンサルタント
長尾和宏
1、濃厚接触者の出社停止問題
新型インフルエンザ患者が出た場合、家族は濃厚接触者となり得ます。それを
会社に言った場合、症状が全く無いにも関わらず「出社停止」の命令を受けたと
いう相談を時々受けます。また、「新型インフルエンザではないという証明書」
を持参しないと出社が許可されない、という相談もよくあります。現在、「濃厚
接触者であっても無症状であれば出社しても良い」という通達が出ているにも関
わらず混乱が続いています。このような無用な外来説明や診断書発行が不要とな
るよう、政府は、煽るような死亡者公表より、濃厚接触者が払うべき注意点につ
いての国民啓発を優先して行う必要があります。
2、予防投与やタミフル備蓄に対する法的規制緩和を
濃厚接触者がハイリスク者であった場合、希望すればタミフルの予防投薬を受
けることが出来ます。しかし健康保険が適応されないため経済的理由であきらめ
る方が多いようです。それは可哀そうだと本当は規則違反ですが、健康保険で投
与されることもあると聞きます。予防投与のエビデンスは十分でないにしろ、ハ
イリスク者に予防投与を行い易くするよう何らかの経済援助をすることはできな
いでしょうか。また企業防衛のため、社員用にタミフルの備蓄をしたいと希望し
た場合、現行法下では企業のタミフル購入はできません。ここは特例を設けて、
例えば産業医の管理責任のもとタミフル備蓄が可能という規制緩和はできないも
のでしょうか。診療所を有する大企業では備蓄可能ですが、中小・零細企業にも
配慮したタミフル備蓄政策を検討すべきです。また中小・零細企業でも海外に駐
在員のいるところも多く、外務省、厚労省が何らかの法的緩和を行うべきでしょ
う。
3、産業医と企業の連携強化を
集団発生を防ぐため、いまこそ産業医と企業の連携強化が求められると感じま
す。同時に産業医業務や責任の増大に対しては国の予算配慮も検討すべきです。
企業内でもイントラネットを活用したインフルエンザ関連情報の共有は必須でしょ
う。一方、発熱しても人出不足から無理をして出社する人もいます。「発熱者が
休むことは仕方ない」、「新型インフルエンザは恥ずかしいことではない」、と
いう啓発を産業医を中心として進めるべきです。
4、不特定多数と接するサービス業などの従事者への対策
不特定多数と接するサービス業などの業種、たとえばホステスなどは、発熱し
ていても厳しいノルマからか発熱を隠して出勤する人もいて、感染拡大の一翼を
担っている可能性があります。発熱者や咳など有症状者は出勤させないことが、
公衆衛生上も企業経営上も有益であることを啓発する必要があります。特に産業
医の選任義務がない従業員50人以下の企業においても、労働基準監督署の勧告
のもと地域産業保健センターの協力を得て的確なインフルエンザ対策を行うべき
です。すなわち既存の地域産業保健センターや拡充センター機能をインフルエン
ザ対策にもっと活用すべきです。
5、産業保健、学校保健、開業医が三位一体となった予防対策を
「発熱外来」に至るまでの予防対策がインフルエンザの蔓延防止には重要です。
そのためには、開業医や医師会のみならず、学校保健、産業保健という横の連携
が今こそ求められます。現在、三者がバラバラであるという印象を受けます。三
位一体のインフルエンザ対策の構築を目指すべきです。3者と保健所、有識者・
専門家を加えた対策会議を市町村が招集して開催してはどうでしょうか。
最後に、喫煙者はインフルエンザリスクが高いことが証明されています。今
こそ禁煙政策と強くリンクしたインフルエンザ対策を期待いたします。
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vol 263
「政府による新型インフルエンザ対策の見直しに関する提言」
医療ガバナンス学会 (2009年9月25日 18:04)
新型インフルエンザから国民を守る会
共同代表:森兼啓太(東北大学大学院感染制御・検査診断学分野)、森澤雄司(自治医科大学感染制御部部)
ワーキングチーム:
海野信也(北里大学産科婦人科・教授)、大磯義一郎(弁護士・医師)、小原まみ子(亀田総合病院腎臓高血圧内科・部長)、嘉山孝正(山形大学・医学部長)、上 昌広(東京大学医科学研究所・特任准教授)、木戸寛孝(医療志民の会・事務局長)、久住英二(ナビタスクリニック立川・院長)、児玉有子(東京大学医科学研究所・看護師・保健師)、小林一彦(JR東京総合病院血液内科・医長)、境田正樹(弁護士)、高畑紀一(細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会・事務局長)、田口空一郎(構想日本)、谷岡芳人(大村市民病院・院長)、谷本哲也(医薬品医療機器総合機構)、土屋了介(国立がんセンター中央病院・院長)、長尾和宏(長尾クリニック・院長)、堀成美(聖路加看護大学)
2009年春に発生した新型インフルエンザに対して、日本政府は様々な対策を行いました。それに対して、今回の政府の対応は現場の混乱を招いたのではないかという批判の声も上がっています。今回の経験から日本が学んだことを、秋冬に起こる可能性が高いとされる更なる感染拡大への対策に生かさなければなりません。そのためには、国の対策の主たる目的を新型インフルエンザの「まん延防止」としている「新型インフルエンザ対策行動計画」とそれに関連する感染症関連各種法規が大きな障害になります。対策の目的は、「ピーク時の感染者数を抑えること」と「感染者数のピークを遅らせること」であり、そのことが医療機関に集中する負担(患者数)を分散させ、医療の破綻を防いだり、ワクチン接種が開始可能となるまでの時間を稼いだりして、罹患・重症患者数を減らすことにつながります。
以下に、社会的介入・医療・情報収集と公開の3つに分けて、新型インフルエンザ対策の考え方および提言を記します。その各項目を踏まえた、検疫法・感染症法・予防接種法など感染症関連各種法規の改正、および政府が策定した新型インフルエンザ対策行動計画の修正を政府に対し提言します。
【1】社会的介入について
<考え方>
撲滅に成功した天然痘は、1)症状によって他の疾患と区別できる、2)潜伏期に感染性がない、3)ほぼ100%ワクチンが効く4)ヒトが唯一の宿主である、といった特徴を持っていましたが、インフルエンザ(致死率の高さに関わらず季節性も新型も含む)は、1)症状によって他の疾患と区別できない、2)潜伏期に感染性がある、3)季節性インフルエンザワクチンの効果は、型が合っていない場合10~30%、型が合っていても40~80%程度しかない(新型インフルエンザワクチンも同程度の効果と推測されている)[i]、4)様々な生物に共通する感染症である、といった特徴を持っているため、発生防止も感染拡大防止も不可能なのです。新型インフルエンザ対策において、「まん延防止」「感染拡大防止」「封じ込め」「国内侵入防止」のような誤解を招く用語の使用を避けるべきですし、「1例も漏らしてはならない」という発想で広範な社会的介入を行うことは、投入するコスト・マンパワーや発生する社会的・経済的ダメージに対してあまりにわずかな効果しか得られないと言えるでしょう。
「ピーク時の感染者数を減らす」「感染者数ピークを遅らせる[ii]」という発想から、社会的・経済的ダメージとのバランスを考慮しつつ、社会的介入を検討する必要があります。「ピーク時の感染者数を減らす」「感染者数ピークを遅らせる」ことにより、1)医療機関に集中する負担(患者数)を分散させること、2)ワクチン接種が開始可能となるまでの時間を稼ぎ、罹患・重症患者数を減らすことの2つが可能になると考えられます。
<提言>
1.水際対策
インフルエンザの疾病としての特徴を考えれば、潜伏期にすり抜けて入国した患者が相当数存在するはずです。厚労省が4月末から5月にかけて行った機内検疫・隔離・停留といった措置が、「国内侵入防止」に果たした効果は極めて小さく、むしろ身柄の拘束に近い人権侵害を行ったという弊害のほうが大きいと言わざるを得ません[iii],[iv]。国内で感染したことが明らかである症例の発症日は、最も早い人で5月5日ですので、この人を感染させた海外からの入国者(あるいはその人に感染させた別の人)は、4月28日に機内検疫を開始してわずか数日で(潜伏期の間に)入国していることは確実です。この経験を踏まえ、厚労省は、隔離・停留が、まん延の防止に効果を有する場合に限り、隔離・停留を行うことができることとし、検疫法の患者に対する隔離・停留に関する罰則を削除しなければなりません。
一方、入国者は感染症その他の疾患にかかっているかどうかの検査や医療を求めることができ、検疫所長は、検疫所に設置された診療所において可能な範囲の検査や医療を提供しなければならないこととする必要があるでしょう。また、検疫所は、感染症その他の疾患に関する症状・予防・治療の方法や、渡航先における医療へのアクセス等の情報を提供しなければなりません。
2.「新型インフルエンザ等感染症」定義の見直し
2009年9月20日現在、2009年新型インフルエンザA(H1N1)は感染症法[v]における「新型インフルエンザ等感染症」から外されていません。一旦当該感染症に指定してしまうと容易に除外することができないのがその主因と思われます。従って、「新型インフルエンザ等感染症」の定義や、その指定・指定解除の要件を見直すことを提言します。
厚生労働大臣が指定するものを「新型インフルエンザ等感染症」と定義し、その指定と指定の解除については、都道府県知事、公衆衛生に関し学識経験を有する者、医療に関し学識経験を有する者、法律に関し学識経験を有する者その他の学識経験を有する者及び医師その他の医療関係者は、厚生労働大臣に意見を述べることができることとします。厚生労働大臣は、この指定と指定の解除に当たっては、当該疾病のまん延による死亡率、当該疾病にかかった場合の致死率及び病状の程度その他の事情を総合的に勘案するとともに、上記のような意見並びに海外における当該疾病の状況及びこれに関する施策の動向を参酌しなければなりません。厚生労働大臣は、この指定の後、短い期間(1ヶ月程度)ごとに、新型インフルエンザ等感染症に対するこの法律の施行の状況について検討を加え、必要に応じて指定の解除その他必要な措置を講じなければなりません。
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臨時 vol 329
「新型インフルワクチン接種は、学校と保健所で集団接種として行えないものか」
医療ガバナンス学会 (2009年11月7日 13:22)
長尾クリニック(尼崎市) 長尾和宏
10月19日から医療従事者への新型インフルワクチン接種が開始されました。
しかし卸しでの厳しい配給規制がかかっているようで、11月3日現在、当院で
の医療従事者への接種状況は希望者のまだ3割程度です。
多くの感染症を診ている急病診療所や病院での接種現状も同様に半数にもほど遠い現状と聞きます。
そんな中、11月2日より妊婦さんへの接種も開始されましたが、末端開業医には、
今後のワクチン入荷予定に関する情報は皆無と言っていい状況です。医療従事者
への配給もままならぬ中、優先接種に掲げられている患者さんからは接種予約の
問い合わせが後をたちません。ワクチン騒動にどう対応すべきか現場は大変困惑
しています。
新型インフル診療と並行して行う季節性インフルワクチン接種をほぼ終えた現
在、今後の新型インフルワクチン接種の場所に関して、2つの極めて素朴な提言
を行います。
【学校で打てないものか】
新型インフル感染者が小児に多く、中年以降には少ないことが判明しつつある
現在、小学校での集団接種を検討すべきではないでしょうか。さらに中学校や幼
稚園も含めた学校保健の枠組での接種がどう考えても合理的であると思われます。
また新型インフル既感染者や、みなし既感染者(簡易キット陰性ないし未施行者)
の取扱いについては専門家に早急に意見を求めるべきです。
【保健所で打てないものか】
MRICvol 291において神戸大学の岩田健太郎教授が、またvol 314において
厚生労働省の木村盛世氏がすでに述べられているように、新型インフルワクチン
接種のefficacyについては不明です。しかし公衆衛生の見地から、国を挙げてワ
クチン接種を行うと一旦決定したからには、効率的、戦略的に行うべきです。し
かし肝心のワクチン供給もままならぬ中、開業医において通常診療とインフル診
療に並行してこの作業を行うのは困難かつ非効率的です。トリアージ説明だけで
も結構大変です。この際、一般対象者の接種は一括して地域の保健所で行うべき
ではないでしょうか。かかりつけ医では「優先患者該当」に丸をするだけにすべ
きです。
10mlバイアルはどう見ても集団接種を想定しているとしか思えません。学
校保健には学校医として開業医が出務しますし、保健所にも地域医師会から分担
して応援医師を派遣すれば充分可能だと思います。新型インフル接種には、個別
接種より集団接種で対応した方が、医療現場の混乱を回避でき、副作用のサーベ
イランスの観点からも有益性が高いと思われます。是非、行政には早急な検討、
決断をお願いいたします。
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臨時 vol 340 新型ワクチン騒動にみる「3つのトラウマ」と「医療の不確実性」
医療ガバナンス学会 (2009年11月16日 12:03)
長尾クリニック(尼崎市)
長尾和宏
「新型ワクチンはまだか?」と尋ねる患者さんに、朝から晩まで壊れたテープレコーダーの
ように同じ説明を繰り返している下町の開業医です。前回、「新型ワクチン接種を小学校や
保健所で打てないものか」と問題提起しましたが、今回、新型ワクチン騒動にみる「3つの
トラウマ」と「医療の不確実性」について考えてみました。
【 1 前橋レポートのトラウマ】
前橋レポートとは、1990年前半にインフルエンザの集団予防接種が廃止されるきっかけと
なった報告書で、2009年10月13日国立がんセンターで開催されたシンポジウムにおいて
梅村聡参議院議員も言及しました。
以下、 http://www.kangaeroo.net/D-maebashi.html より引用します。
・・・・・かつて日本では、小学生などを対象に、世界でも珍しいインフルエンザの集団
予防接種が強制的に行われていました。感染拡大の源である学校さえ押さえれば、流行拡
大は阻止できるのではないかという「学童防波堤論」を根拠としたものです。しかし、どん
なに予防接種を打っても、インフルエンザは毎年決まって大流行しました。
こうしたなか、1979年の初冬、群馬県の前橋市医師会が集団予防接種の中止に踏み切りま
した。直接の引き金は予防接種後に起きた痙攣発作の副作用でしたが、この伏線には、以前
から予防接種の効果に強い不信感を抱いていたことがあったのです。そして、ただ中止し
ただけではありませんでした。予防接種の中止によって、インフルエンザ流行に一体どの
ような変化が現れるのか、開業医が中心になって詳細な調査を始めました。予防接種中止の
決断は正しかったのか、あるいは間違っていたのかを検証するためです。
そして、5年に及んだ調査は、前橋市医師会の判断が正しかったことを裏付ける結果と
なりました。つまり、ワクチンを接種してもしなくても、インフルエンザの流行状況には
何の変化も見られなかったのです。この調査をきっかけに、集団予防接種を中止する動きが
全国に広がり、最終的に、インフルエンザ予防接種は1994年に任意接種に切り替わりました。
ただ残念なことに、前橋レポートは、専門誌に投稿されたわけではなく、発行部数も少な
かったため、忘れ去られるのを待つばかりの状態になっていました。・・・・・
今回の新型ワクチン騒動に対峙して前橋レポートの解釈が今、改めて問われていると感
じています。厚労省はこのトラウマから新型ワクチンの「集団接種」を避けたのでしょう
か。しかし、混雑する新型インフル診療と並行して予防接種を行うことは、どう考えても
無理があります。さらに1億5千万回分をも用意しながら、「任意接種」に拘る国の姿勢
は理解できません。「集団接種」としなくても、せめて小学校や保健所など開業医以外の
場でも「任意接種」するというオプションを検討して頂きたく思います。
【 2 ワクチン禍訴訟敗訴のトラウマ】
インフルエンザワクチンに限らず、ポリオ、日本脳炎、MMRワクチンなどの副作用をめ
ぐる訴訟で国は実質的に敗訴し続けてきたという歴史があります。またワクチン禍訴訟のみ
ならず薬害肝炎訴訟、薬害エイズ訴訟をめぐる歴史が厚労省のトラウマとなっていることは
容易に想像できます。それが今回の新型ワクチン接種の施策にも少なからず影響しているの
でしょうか。
ワクチンの種類別にリスクとベネフィット、さらに個人のベネフィット、そして社会のベ
ネフィットを見直す必要があります。また、重大な副反応が出た時、国、医療機関、製薬
企業、個人のいずれに責任を求めるべきかを、国民全体で議論すべきです。
【 3 子供の貧困というトラウマ】
貧困率16%という格差社会にともなって子供の貧困も深刻化しています。今回ワクチン
接種が1回接種が3600円、2回接種が6150円と全国統一価格で設定されました。
しかし給食費も払えない子供が増えている現状で学校での集団接種を行うと、経済的理由
で接種できない子供が出てくる可能性が高く、現場の教師の苦悩やトラウマが想像でき
ます。子供の貧困問題が、小学校内での接種を阻害している一因であると推測します。貧
困の中にいる幼児や小・中学生への援助を、早急に広報すべきではないでしょうか。
【ワクチン接種は医療の不確実性を理解するモデルでもある】
多くの専門家が指摘するように新型ワクチン接種のefficacyが不明であるなか、政府は
国策としての新型ワクチン接種を決断しました。わずかな確率とはいえ確実に起こるであろ
う重大な副作用に対しての無過失保障制度が検討されています。
考えてみると新型インフルワクチン接種は、小松秀樹先生の指摘する「医療の不確実性」
を理解する良いモデルになり得ると思います。同時に医療事故調査委員会での議論と同じ
ように、無過失保障制度を国民に理解して頂くチャンスでもあると思います。
ワクチン接種の有効性、有益性、リスク、そして保障制度をマスコミが正しく国民に啓
発すべきです。単に不安を煽るだけではなく、冷静な情報提供をお願いいたします。それ
でもアナフィラキシーショックなどの予期せぬ重大な副作用が起これば、保障制度をして
もカバーできない訴訟が懸念されます。
「ワクチン接種の先に医師法21条問題が見えてくる」と書けば、町医者の杞憂と笑われ
るでしょうか。
【新政権には3つのトラウマを乗り越えて欲しい】
新政権には3つのトラウマを乗り越えて、新型ワクチン接種という事業を是非成功させて
欲しいと願っています。そのためには現場の声に耳を傾け、時には朝令暮改を恐れず柔軟な
対応を期待します。
さらに新型ワクチン接種を通して「医療の不確実性」を国民に分かり易く説明して頂く
事を願います。この作業こそ次に来るべき強毒性ウイルス対策に必ずつながります。さら
に言えば医療再生のために、必要な行程ではないでしょうか。
今回の騒動を、先進国中最も遅れていると言われている日本のワクチン行政を国民全体で
考え直すよい機会にするべきだと考えます。
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臨時 vol 415
「新型ワクチン集団接種出務記」
医療ガバナンス学会 (2009年12月28日 08:00)
長尾クリニック(尼崎市) 長尾和宏
今回、一医師会員として新型インフルエンザワクチンの集団接種に出務しました。そこで感じたことを述べます。
【当日の様子】
12月23日の天皇誕生日、私は尼崎市医師会による小学校3年生以下を対象とした新型インフルエンザワクチンの集団接種の初日に出務しました。患者数はすでにピークを過ぎて明らかに時期を逸しています。しかし国が決めた順番ですから仕方ありません。
当日は午前の部、午後の部、夜の部の3部制で、医師会と保健所の2会場で集団接種が実施されました。私は保健所での午後の部(1時~4時)担当で当院の看護師同伴で出務しました。12月はじめに市報で募集したところ、たった2日間で3600人の募集枠が満杯になったそうです。私自身、MRICで「小学生には集団接種で対応を!」と主張し、11月に開催された「現場からの医療改革推進会議」でもそう発言しました。実際その通りの施策になり、その成否に責任を感じながら出務しました。医師会が主体となり集団接種することは尼崎市医師会始まって以来、はじめての出来事だそうです。
3時間を1単位としてその間に約300人の子供達に安全に接種をすると仮定すれば、まず約20名以上のスタッフが必要です。接種医が2名、診察医が3名、問診の看護師が数名、診察介助や接種介助に看護師・保健師が6名、事務職員が数名、監督医が1名・・・。すなわち接種者に対して約1割ものスタッフが必要です。これだけのスタッフと万一のアナフィラキシーショックに備えて応急処置用の医療器具やAEDなどの医療器材も必須です。また、待合い場所、問診場所、診察場所、接種場所、経過観察場所など全部合計すると相当広いスペースが必要です。ワクチンさえあれば予防接種など簡単でしょう、という考えは誤りです。専門職を含む十分なスタッフ、医療器材、スペースの3拍子が揃って初めて集団接種が可能であることを再認識いたしました。医療には目に見えないコストがかかります。
【接種不可とした事例】
私自身、約100人の子供たちを予防接種可能かどうか診察しましたが、うち4人に接種不可の判定をしました。4人のプロフィールは
1) 中等度の卵アレルギーの子供さん。軽度なら接種しますが、中等度以上は接種できません。母親はかかりつけの小児科医からは接種可能と言われていると主張されましたので、そちらでの接種して頂くことしました。
2) 昨日まで高熱があった子供さん。一昨日は39.6度、昨日は40度。医者には行かず本日は平熱でそこそこ元気そうです。こういうケースが一番困ります。もしかしたら新型インフルエンザかもしれません。とりあえず今日の接種は中止しました。
3) 風邪が治り切っておらず肺雑音がある患者さん、2人。
以上の4人は接種中止としました。
その他、2週間前に「A型インフルエンザに罹患したが季節性だった可能性があるので受験も控えており念のため接種しておきたい」という子供さんが2人いました。親と話し合いの結果、1人は接種しないことに、1人は接種することに決定しました。これも以前、MRICで指摘したとうりの出来事でした。
ワクチン接種に関わる有害事象を防ぐには、このような問診と診察が必須です。
【集団接種に見るICと医療の不確実性】
たとえ予防接種といえども医師は絶えず不測の事態、ハッキリ言うなら「万が一のアナフィラキシーショックで命を落とすことがあるかもしれない」と、頭の片隅で考えながら接種をします。これは小松秀樹先生の言われる「医療の不確実性」の分かりやすい実例だと思います。ひとりひとり丁寧にインフォームドコンセント(IC)を取りながら接種をする必要があります。集団接種のほうが優れていると私は感じましたが、横におられたベテラン小児科医は、意外にも「安全性から言えば個別接種のほうが安全ですよ」と話されました。
こうした集団接種の収支を考えると、損益分岐点はおそらく千人単位となるのでしょうか。百人単位だと赤字事業になるかもしれません。事務スタッフたちは昨日から医師会事務局で入念な打ち合わせをしていました。また受付電話対応と受診券の発行、キャンセル電話への対応、不測の事態への備えなど、集団接種とはまさに一大イベントでした。
このような複雑な作業を、私も含めて一般の医療機関では、個別接種として、通常診療、インフルエンザ診療と並行して行っているのですから、まさに曲芸のようなことを毎日繰り返しているのだと、あらためて感じました。
良かった点は、発熱外来と違って防護具等が不要である、子供たちから元気をもらえる、ことでした。このような集団接種は次回は12月27日(日)に行われます。親の同伴が普通ですが、共働きの家庭では祖父母の同伴も結構みられました。出務スタッフも全員が兼任のようで集団接種は日曜・祝日しか難しいように思いました。
今回の集団接種は、尼崎市医師会により行われましたが、すでに全国の多くの市町村医師会でも同様に行われているようです。「医師会とは公益事業を行う団体である」に相応しい活動です。今後、集団接種の機会がまたあると予想します。休日を丸丸返上して対応されている市町村医師会理事等のご苦労は相当なものであると感じました。
【最後に、率直な感想】
自分のクリニックでも日々、優先患者さんに個別接種を行っています。
「それって輸入物ですか?」と何回聞かれたことでしょう?一昔前のBSE問題の時の牛肉と同じ扱いです。あと、結構こたえたのが「打ちたいけど3600円も持っていません。ワクチンはしっかりお金をためてからにします」という患者さんの言葉です。医療費が無料の生活保護の方はワクチンも無料で打てますが、ワーキングプアで頑張っている人たちには3600円は高すぎて打てないのです。
最後に一開業医の視点から新型ワクチン接種に関する率直な感想を3点述べます。
1) 老人からではなく小児から打つべきではなかったのか。順番が逆では?また、もう少し早くに集団接種を主体とすべきではなかったのか。
2) 優先患者など設けずに希望者から打って問題なかったのでは。希望者がいてそこにワクチンがあっても打てない、打ってはいけないというこの矛盾は今も続く。自分の孫に打ったという宝塚の医師を大きく報道したマスコミには呆れた。どうでもいい話だ。もっと大切な事実(ワクチン接種の意義、安全性)をしっかり報道して欲しい。
3) ワクチン供給を行政が仕切ったために混乱が生じたのではないか。医師会に全部丸投げした方がスムースであっただろう。行政が配給情報を隠しながら配布した結果、ワクチンが余る医療機関と足りない医療機関が出来た。しかし両者でワクチンの取引をすることは禁じられており、卸に返品も出来ないならば、余ったワクチンは捨てるしかない。
以上、今後のインフルワクチン接種に何かの参考になれば幸いです。
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vol 61
優先順位は要らない。地域医師会に丸投げで良い
長尾クリニック(尼崎市)
長尾和宏
2010年2月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
クリニックの冷蔵庫には余った返品不能の新型ワクチンが並んでいます。あとは棄てるだけです。今回の新型ワクチン接種を末端開業医の視点で振りかえってみます。
【今、何が起こっているのか。日医はなぜ声を上げないのか】
今、ワクチン行政に何が起こっているのか、日本医師会がなぜ声を上げないのか不思議です。「新型ワクチン予防接種を法定接種化しないにも関わらず、優先接種順位を尊守すべきことを法律本体に書き込む作業が進められている」と報じられています。
昨年の厚労省の失敗を、法改正により「正当化」しようとしているように見えます。昨年、孫に勝手に優先接種した開業医が大きく非難報道されましたが、この規制を強化する方向に行政は動いています。このままいけば、ワクチン接種に関して医師の行政処分が激増する可能性があります。なにより国民にとって不幸な方向だと危惧します。
【優先順位を法律で遵守させることは無理】
優先順位は必要ありませんでした。しかし現実には子供から打つべきところを老人から打てとの指令がお上から出ました。しかし現実に起きたのは逆のことでした。子供から打つべきでした。末端開業医でもおかしいと感じました。任意接種ですから打ちたい人から打てばいいのです。もし打ちたいひとが沢山いるなら朝から並んで打ってもらえばいいのです。もし接種医が足りないなら学校や保健所での集団接種を行えばいいのです。無理やり解釈に苦しむ優先順位を決めて法律で遵守・強制させることは無理だと思います。
【優先順位は地域医師会に任せるなど、地域の裁量にまかせるべき】
今回のワクチン接種は国と各医療機関の直接契約で行われています。官が民を完全管理する政策です。卸業者も官の管理下です。しかし、優先順位を含めて基本的に地域医師会に任せるなど、地域の実情に応じた供給体制にすべきではないでしょうか。接種戦略は地域医師会に丸投げすればよかったのです。地域医師会はそれだけの知恵と行動力、そして公益性を有しています。地域医師会を信じてその裁量にまかせるべきでした。ついでにいうなら非医師会員にも医師会が心を開いて共労を呼びかけ、これを契機に入会して頂いたら医師会のためにもなります。
2月18日配信のMRICvol 55、和田眞紀夫氏が指摘した「厚生労働省の怠慢と暴走、誰が止められるのか?」の通りと思います。
また2009年9月3日配信のMRIC臨時 vol 224 「インフル対応で試される感染症行政の地方分権と医師会の公益性」http://medg.jp/mt/2009/09/-vol-224.htmlでも私は同様の指摘をしました。
どうかもう少し時間をかけて現場の意見を充分に聞いて立法して欲しいと切に願います。
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PS)
肺炎を起こさない限り、新型コロナの検査はできない。
私は、もはや市中感染が広がっていると思う。
だからもはや軽症者を検査する意味は小さい。
ある専門家は、「日本人の半分がかかる」と予想している。
今、とられている集会自粛対策は、感染者数のピークを小さくして
かつ後ろに移動させるためであることをマスコミはもっと言うべき。
いずれにせよ、騒動は半年は続くだろう。
ここからは長期戦を覚悟したほうがいい。
これは新興感染症の自然経過ではないのか。
横浜港での失策というよりも、全国的なサーベイランス体制の遅れ。(今もだけど)
風邪かな?と思った人は仕事を休んで、とにかく寝ることが治療だ。
漢方薬がいい。
痰が多いタイプなので「清肺湯」がいい。→
こちら
この記事へのコメント
長尾先生が「清肺湯」がいい なんて書くと、ツムラやクラシエ、コタロウ、オオスギなどの漢方薬メーカーが大忙しになって、現在「清肺湯」を常備薬にしている人たちが困る事態になるような・・・
急激に漢方薬が不足すると、漢方薬は原材料を主に中国に頼っているから、コロナの出元である現在の中国から品質の良くない原材料が入ってくることになる・・・
Posted by 匿名 at 2020年02月22日 03:54 | 返信
「品質の良くない中国人」が心底嫌いな匿名さんへ
脳梗塞発症以来、「漢方薬」は飲んでいません。
日本の弥生時代に始まる「漢医学(中医学)」。
江戸、明治時代に始まる「漢方薬」。
どちらも「東洋医学」の「双璧」です。
ぼくは、習近平の中華帝国主義に反対です。
チベット、ウイグルの民族自決、台湾、香港の民族自決に賛成です。
中国社会で民主と人権のために闘っている人々にエールを送ります。
中国・日本という「漢字文化圏」に親しみを抱いています。
匿名さんも、「漢字文化」から抜け出すことは不可能でしょう。
読売新聞のニューヨーク特派員とロンドン特派員が「欧米に広がるアジア人への偏見」をくわしく特集していた(2.2)。「感染への不安が偏見を増幅させている。」
「中国では自国民から『武漢の住民や滞在者』を切り離し、後者を差別し始める風潮が表れたが、日本でも仮に集団感染が発生すれば、その町や村どころか、市や県の住民丸ごとカテゴリー分けする事態が想定される。」(真鍋厚2.3)
日本災害医学会が抗議声明。
災害派遣医療チーム(DMAT)の医師・看護士が帰った職場で「ばい菌」扱いされ、こどもが保育園・幼稚園から排除されている。
「悲鳴に近い悲しい報告が寄せられている。」
「もはや人権問題ととらえるべき事態。」
感染者を受け入れ看護士が感染した相模原中央病院。
「職員やこどもが、いわれのない差別的扱いを受けている。」
匿名さんに代表されるご意見。これに同調される読者の方が多数派。
なんとも悲しいかぎり。
官邸に「武漢熱と言え」と提言する与党議員。
ぶら下がりで「乗客死者2名に哀悼の意」を表した首領様。
10分後には、近くの料亭に親衛隊を呼び寄せ「桜逃亡」祝賀の宴!
Posted by 鍵山いさお at 2020年02月22日 08:58 | 返信
11年前と同じことが起きているのだとしたら
結局、前の経験が活かされてないということ
元々、日本は危機管理が甘いというか国民性がのんびりというか
何事も危機感が少ない
長尾先生は、現場の人達は頑張っているとよくおっしゃっているが
それは仕方ないことであり、やらなければならない部署として
当たり前のこと
ただ、色々な経験を通して全然、環境整備やルールなど、こういう事態に対応できるシステムを構築していなかったというのが問題!
無駄に努力しても疲れや混乱が出るだけで、苦労しがいがない
何回こういうことを経験すれば、スムーズに対応し、無駄な疲れを生まない仕組みができるのだろう・・・
新種の感染症は未知だけれど、それに対応する術は常に整備しておくべき責務が政治家の仕事ですよね!
ほんとにいつも後手後手、それこそ、現場やその組織で地位の低い人にいやな部分、辛い部分を押しつけてる感がありありで気分が悪い
Posted by K at 2020年02月23日 07:19 | 返信
別に「放っておけばいいかなぁ」と思いつつ返信します。
ちょっと誤解あるような。あるいは故意の嫌味なのかしらね。
私のコメント内容は、
漢方薬は、原料草木を日本国内で生産する努力が成されていますが、現在のところ大半が中国からの輸入に頼っていると聞いています。コロナ騒動は1年くらいは続くでしょうから、もし日本で(長尾先生発言などから)急激に漢方薬の需要が増えると、日本以上に混乱している中国から、現在と同品質の原材料を調達するのは困難になる、のではないか、という意味です。
現在の漢方薬原料もピンキリだとか、サイトを控えてはいませんが某漢方専門薬局の薬剤師がボヤいていました。
漢方エキス剤といっても原材料は自然の草木なので、天候や地質によって品質が異なると推測されます、その上に、需要増大が生じると、「品質が良くない原料」たとえば、生育が未熟だが採取したとか、保存の仕方や管理が不十分でカビが生えているとか、それらもやむなし、といった方向に流れることを危惧するものです。
私は「中国人」について何も言及しておりません。
だいたいからして「品質の良くない中国人」と「読み間違える」貴方様は、中国出身者に対して失礼ではありませんか?
人間を「品質の良し悪し」で形容するなどそれこそ人権無視の極みでございます。
鍵山さんはそろそろボケてきたのかな? 高齢になると性格の偏りが顕著になって特に欠点が表出するのですよ。 まあ、キーボード叩いて他人のコメントに絡みつく能力があるうちが、「華」でございます。^_^
ご活躍を祈ります。
匿名から鍵山いさおへの返信 at 2020年02月24日 03:53 | 返信
共同通信や神奈川新聞の報道によると、
相模原中央病院では、
看護師や職員の子どもが
小学校や保育所から通学・通所を拒否され、
関連大学や関連病院から「非常勤医師」全員の派遣が停止され、
宅配業者から医療品の配達を拒否され、
・・・・・。
Posted by 鍵山いさお at 2020年02月24日 09:02 | 返信
チベット・ウイグルの自決推進派の鍵山さん
共同通信や神奈川新聞を確認しましたが、通学・通所を拒否や非常勤医師の派遣停止などの記事が見つかりませんが、原文はどちらでしょうか?
新型コロナに便乗して、差別やいじめ問題やヘイトに繋げたいフェイクニュースでしょうか?
匿名から鍵山いさおへの返信 at 2020年02月25日 08:26 | 返信
匿名おふたりさんへ
「後門の虎」さんへ
発信元は、2019.2.19.05・00神奈川新聞の配信、
2019.2.19.12.06共同通信配信、その後の各地方紙、
ネットニュースなどなどです。
「前門の虎」さんへ
黙殺すべきところご丁寧な「漢方薬」事情をご教示いただき、ありがとうございます。年相応に「呆け」、「性格の偏りが顕著に」なっているかもしれません。いつまでたっても子供のまま「いらち」な性格なので、10年ほど前に断酒、廃車ついで免許返納までしてしまったアホウです。
ただ、「品質良くない」「コロナの出元」「中国」という語呂合わせの妙に、「品質の良くない中国人」という連想の罠にはまりこんでしまった次第です。
「後門の匿名」さんもそうですが、「なんでも差別、いじめ、ヘイトに繋げたい」論調に怪訝を抱かれるのはご自由かと存じます。新型コロナ問題は、国際的な感染症問題であるがゆえに、歴史的、社会的、細胞学的にも、ありとあらゆる分野から論じられるでしょう。国連議場から保育園砂場に至るまで、それこそ「パンデミック」に論じられるでしょう。「繋げられて」だれが困られるのでしょうか。
個人的には、幼児時代の鮮烈な忘れられない想い出があります。
幼児時代のいじめ、否!集団的暴力。
小学校低学年時代のいじめ、否!集団的暴力。
白日の悪夢に対抗するため、組織的に「対抗」し「逃亡」し勝利した体験。
今でも鮮烈に記憶している。この1点については「ボケ」ていない自負がある。「水の如く」を合言葉に抵抗するチベット、ウイグル、香港、沖縄の人びとに繋がりたい。「匿名」という覆面にへこたれるない老いぼれでありたい。
Posted by 鍵山いさお at 2020年02月27日 08:57 | 返信
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