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新型コロナ対策は地域包括ケアのフェーズに
2020年03月11日(水)
新型コロナ対策は地域包括ケアのフェーズに 長尾和宏 日本医事新報3月21日号
PCR検査の是非、再び
2020年2月5日、ダイアモンドプリンセス号が横浜港大黒ふ頭に接岸された。それ以降、新型コロナウイルス感染の関心はクルーズ船に向きマスコミ報道は水際対策一色になった。しかし最終的に、3700人中約700人の感染者を出した。明らかに集団感染が起こり船内への隔離政策は失敗に終わった。そんなクルーズ船狂騒曲から1ケ月が経過した3月8日現在、感染者数は増え続け、どこでも誰でもPCR検査が国民的関心事になっている。政府が「検査は保険適応」と宣言したが、実際はあまり検査ができない状況をマスコミは日々糾弾している。しかし医師はPCR検査の感度と特異度、検査の限界を知っている。治療法がない風邪症状に偽陰性率が高い検査をすることにどれほどの意味があるのだろうか。もし陽性者が出た医療機関には濃厚接触者というレッテルが貼られ2週間の隔離生活に入ることになる。両側の肺炎と酸素飽和度低下を認める中年の初診患者を診たので帰国者接触者相談センターに電話したがつながらない。つながっても「検査できる医師がいない」の一点張りである。結局、自分の携帯番号を教えて自宅に隔離して家族には疎開してもらっている。あたかも市民は「全員に検査ができる」と思っているが実態はすでに医療崩壊している。
実は2009年の新型インフル騒動の時もPCR検査を巡る混乱があった。今回の騒動はまさに前回のデジャブである。マスコミは希望者全員にPCR検査で白黒つけることを煽るが、指定感染症である限り開業医での検査は難しい。そもそも多くの開業医はマスクの確保すらままならない。実際、後にPCR陽性と判明した患者さんを診た医療機関は濃厚接触者とみなされ、2週間の休診になった。またインフルの簡易検査を行い陰性であった患者さんが後に新型コロナPCR陽性になった場合も同様な措置になるのか。もしそうであれば、インフルの簡易検査自体も医療機関にとってはロシアンルーレットとなる。そんな検査を巡る混乱は、市中感染症と判断して2類からインフルと同様の5類に下げれば解消する。まだクラスター感染と言われている。しかし時期がくれば法的根拠を変えることでPCR検査を巡る混乱の収束は可能だ。
遠隔診療拡充のチャンス
待合室での感染を恐れて外来患者さんの受診抑制が全国的に止まらない。しかし3月に入り電話再診という遠隔診療での投薬が可能となり、ひとまず患者さんも医療機関もひと安心した。しかし院外処方では薬局内感染が懸念される。実は、4年前に厚労省は「電子処方箋」という制度を作った。しかし患者は「引換証」のような紙を医療機関に取りに行き薬局に持っていかないと処方薬を受け取れないという仕組みだった。そのため、4年間の電子処方箋の運用実績はゼロであり、まさに有名無実の制度であることが3月3日の参議院予算員会における梅村聡議員(医師)の質問で明らかになった。
今回のような新型感染症には携帯電話などを用いた遠隔診療(オンライン診療)の出番であることは誰の目にも明らかだ。しかし現在の遠隔診療は規制が厳しすぎて極めて利用しづらい。今回の電話診察による措置は、従来の遠隔診療とは別枠の臨時措置のようだ。しかし長期的には今回の騒動は停滞している遠隔診療を一気に拡充し、国民に周知するチャンスではないだろうか。前述した電子処方箋も早急に規制を緩和し使用可能に変えるべきだ。新型コロナを疑う条件を満たすも検査ができない患者さんは、自宅待機とし遠隔医療で経過観察をするケースもあるだろう。また神経難病で人工呼吸器を装着した在宅患者さんをどんな装備で訪問するか迷う時がある。従来からの在宅患者さんは両者とも濃厚接触者とならないためにも、病状が落ち着いているなら電話診察という選択肢があることも認めて欲しい。
但しここでひとつの懸念がある。遠隔診療の窓口負担が安すぎることだ。外来診察と比べて4分の1だったり、在宅医療と比べて10分の1だったりすると、患者さんがそれ以降もずっと電話再診による診療を求めないかが心配だ。自己負担が対面診療>>遠隔診療、という現状のままだと医療費を巡るトラブルが頻発しないか。薬局も同様である。そこで「災害や新興感染症などの非常時においては電話等による遠隔診療も対面診療と同等とみなす」としてはどうだろうか。患者さんも医療機関も納得するだろう。遠隔診療を進めるためには、非常時は試行錯誤すべきと考える。
施設や在宅でどう対峙するべきか
新型コロナ陽性者の8割は無症状ないし軽症である、という。若者は半数が無症状陽性者だがスーパースプレッダーになり得る、という。一方、80歳以上の高齢者や基礎疾患のある人は死亡リスクが高い、という。そう言いながら学校には一斉休校を要請したが、高齢者施設には特段の指示がないまま推移している。新型コロナ=高齢者肺炎問題、であるのだが具体的な指針や対策は聞かない。在宅療養中の高齢者も同様だが、これだけ在宅医療を強力に推進しておきながらほとんど言及が無いことが気になる。
高齢者施設や在宅医療現場には日々、発熱した肺炎様の患者さんがいる。平時は誤嚥性肺炎だろう、で対応するが、さすがに今回のような肺炎騒動の中なら「もしかしたら」と疑うことは当然だ。あるいは介護職員が持ち込んだり院内感染していないか、どこの管理者も日々疑心暗鬼になっている。実際、様々な施設管理者から発熱者の取り扱いについて質問を受ける。私は「報道されないように上手に対応してね」としか言えない。万一、陽性となれば臨時ニュースで報道され万事急須である。在宅医療関係者も一蓮托生である。陽性者がまるで犯罪者のように報道されること事態は誰でも避けたい。だから実際にはインフル患者さんに準じて対処するしか手がない。家に帰れる人は帰すが、家がない人はどうするか。施設内の「離れ」のような場所に移して厳重に感染症対策や換気をしてもらっている。要介護5の100歳を救急搬送することは、その患者さんの幸せだろうか。細菌やウイルス感染症に在宅関係者はどう対峙すべきか。そんな机上訓練を普段から行っておくべきだ。
地域包括ケアと緊急人生会議
医療や介護資源の地域格差は想像より大きい。さらに感染伝播の地域差という要素が加わる。もしも市中感染になれば、地域の実情に応じたサービスの提供しかできなくなる。生活の質を尊重しながら命を守ることも考え限られた医療資源を上手に使うしかない。そのためにはかかりつけ医とケアマネの連携が重要である。サーベイランスを通じた地域の詳しい情報を分析して適切な指示を出せるの立場の人は市町村医師会長と首長しかいない。もし市中感染となったら、まさに地域包括ケアという概念で対応するしか手がない。
今、肺炎症状を呈する後期高齢者がいるとしよう。PCR検査をするか否か、入院するか否か、人工呼吸器を装着するか否か、など様々な選択に迫られる。患者さんと家族の希望を聞いて充分に話し合って決めるしかない。ここでも人生会議である。「比較的元気なときから何度でも」が合言葉であるが、新型肺炎は経過が早いので「病気になってから一度の話し合いで決める」こともあり、緊急人生会議と呼んでいる。あれほど啓発している人生会議は新型コロナ感染においても応用が可能と考える。最後に、感染症指定病院ではグリーンとレッドのゾーニングができる。一方、自宅や介護施設においては困難だろう。しかし手洗いや接触感染や飛沫感染予防の指導はできる。このように「かかりつけ医」が果たすべき役割を見直すべき時期に差し掛かってきた。
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