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NYで働く日本人医師からの警告

2020年04月16日(木)

NYで働く日本人医師からの便りが届いた。
第9~10病日の対応が運命の分かれ道だったと。
日本も第二波でNYになる可能性があるので参考に。
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April 12, 2020
COVID-19の経験

私は40代の医師で、現在ニューヨーク市内の病院に勤務しております。COVID19に関する経験を日本の医療関係者の方々に発信してほしいとの依頼をいただきました。

我々はまだ大惨事の最中におり、肉体的にも精神的にも本当に苦しい時間を過ごしております。辛い記憶を呼び起こすことは本来避けたい行為ですが、これから日本で起こり得る惨事に対する備えの足しになるかも、と思い、私の経験を投稿させていただきます。

 

·ニューヨークでは3月1日に州内で最初のCOVID-19感染者が確認されました。3月4日にはWestchester群(ニューヨーク市のベッドタウン)で5名の感染が確認され、ニューヨーク州の最初のクラスターと言われています。

·3月9日、市内の感染者は142名になりました。参考までに、ニューヨーク市はだいたい大阪府と同程度の人口です。人口密度は大阪府のちょうど2倍になります。

·3月15日、市内感染者329名

·3月20日、感染者5、151名、出勤停止・自宅待機命令が発表され、22日に発効。

·3月28日、感染者32、308名 

·4月1日、感染者44,915名

·4月6日、感染者72,181名

·4月7日、はじめて新入院の数が減少、しかし死者は700人/日と最悪の数字を記録。

·4月8日、感染者87,028名

·4月10日、感染者92,384名

·4月12日、感染者103,208名、死者 9,385名

1月、2月、中国や日本のクルーズ船の問題は、正直アメリカ人はほぼ無関心でした。2月末、西海岸で少し感染者が出現するようになり、まさか北米に?といった感じでした。3月1日にニューヨーク市(州)最初の患者が出現し、3月5日あたりから

私の研究室でも真剣にコロナ対策を意識する意見が出始めました。しかい感染予防を強く意識する人と、一方でコロナなんてBad Flu(インフルエンザに毛が生えたもの)だから気にすることないという人たちで意見が分かれていた時期です。3月8日頃からは、八人以上の集会や国内出張は避けるようお達しがありました。3月10日くらいから、世間でも不要不急の外出や握手を控える風潮になりました。当時、私の勤務する病院にはまだ感染者が2名しか入院しておりませんでした。そのうち一人はやや重症でECMOに乗っていると聞き、大変驚いたのを覚えております。肺炎でECMOに乗るとは、ただ事ではないなと、まだ見たことのないCOVID19に対する警戒心が強まりました。その頃の病院では通常通り予定手術も外来も行われていたのが、今では遠い過去の記憶となってしまいました。

 

3月17日(火)、夕方から自分の肘の外傷に対するMRIの検査予約がありました。しかし、病院の放射線部門に近寄ることで感染することを危惧し、延期を考えていたところ、病院から電話があり緊急以外の検査は延期する方針なので改めて予約を取り直すように言われました。(通常、自己都合で当日予約をキャンセルすると、キャンセル費用を請求されるこの国では珍しい対応です。)夕方から少し倦怠感を自覚し、風邪の引き初めのような感じでしたが、念のため家族と距離を置くため、自室に籠ることにした。

3月18日(水)早朝1時から緊急の呼び出しがあり出勤し、朝の7時頃帰宅。この時から後頭部の頭痛と倦怠感があった。自宅で仮眠をとり、午後3時に体温を測定したところ、36.7℃。普段の平熱は36℃未満なので、少し高めであることが気になった。午後8時、36.6℃。変わらず平熱で安心し就寝する。

3月19日(木)後頭部の頭痛が継続する。激しい頭痛ではない。午前10時、36.9℃。自宅で様子を見ていたが、午後3時37.0℃となり、風邪を引いたか、あるいはコロナの可能性も念頭に引き続き自己隔離を継続。

午後7時、37.7℃、午後10時 38℃、となり、明らかな発熱を自覚する。上気道炎症状は全くなく、倦怠感と頭痛のみ。上気道炎症状はないので、コロナではないだろうと自分に言い聞かせる。食欲は普通にあり、補水に気を付け就寝。

3月20日(金)、午前7時、37.6℃。 午前9時には36.6℃となった。解熱剤は服用していない。午後5時、36.6℃。午後10時36.9℃。自然に軽快し、風邪であったのであろうと安心した。しかし相変わらず後頭部の頭痛と倦怠感は継続している。

3月21日(土)、再び発熱する。午前8時半、37.4℃。頭痛と倦怠感は持続しているが上気道炎症状は皆無。受診した方が良いと思ったが、この程度の症状ではER(Emergency Room)では相手にしてもらえないことは承知していたので、病院の職員健康管理センターに電話をしたが結局つながらなかった。(オペレーターが空き次第案内しますという録音メッセージを2時間聴き続けたが断念)午後3時、37.4℃、午後5時 38℃、午後11時 38、0℃。

3月22日(日)、同僚から安否確認の連絡をもらい、別の同僚がコロナ陽性であったので、熱があるなら検査を受けた方が良いと言われた。職員健康管理センターに再度電話をかけ、4時間待ったがやはり繋がらないため、諦めてERを受診することにした。体温は朝から38℃。

午後3時ERを受診しようと受付で症状を説明すると、Cough and fever clinic(発熱外来)の受診を勧められた。棟内を5分ほど歩いて移動し、診察室で30分ほど待たされ、完全防護服を着用した感染症内科のfellow(日本の後期研修医)による診察を受けた。バイタルを測定され、体温は38.8℃。症状・経過を説明すると、「コロナであることは明白で、PCR検査の必要はない」と言われた。(検査を行う条件は上気道炎症状を伴う、数日続く39℃以上の発熱であり、検査を渋られることはわかっていた)自分がこの病院で勤務しており、職場復帰のタイミングを考慮するため、また家族の安全の確認のために検査をしてほしいと強く要望し、なんとか検査をしてもらった。夜の9時以降に結果が出来次第電話をすると言われ帰宅した。レントゲンや採血検査などはしてくれない。(米国ではとにかく検査は極力行わないのが常識になっている)

自宅まで徒歩で帰る途中(タクシーには乗るなと言われた)アセトアミノフェンを買いに薬局に立ち寄ったがほとんど売り切れており、睡眠導入剤(ジフェンヒドラミン)との合剤しか手に入らず。(これは就寝前に一回飲むタイプで、一日一回しか服用できない)イブプロフェンは肺障害を惹起するとの報告は既に読んでいたので、なんとかTylenolを手に入れたかったのだが、泣く泣く帰宅。

午後9時半、電話が鳴り、結果陽性との連絡あり。非常に落ち込んだ。家族の検査もして欲しいと頼んだが、家族は100%陽性だから検査する意味はないと断られる。体温は38℃から下がらない。脈拍は常に90代、口渇が激しく舌の表面がザラザラになっている。味覚・嗅覚の低下に気付く。やや胸部正中、ちょうど心臓のあたりに軽度の痛みを伴う違和感が出現する。倦怠感がすごい。マラソンを走り終わったときのようだ。

布団から出ると1〜2分で震えが来るため、トイレへの往復以外は常に電気布団に入る。夜中に、頭の先から足に向かってゆっくり移動する、まるでScanされているような熱感、その後体温が急激に上昇するという現象があり、サイトカインが大量に放出されているのかと想像し恐ろしくなる。アセトアミノフェンを服用すると、不愉快なほど大量に発汗し、1時間程度解熱する。その後再び熱が上昇するのがわかりやすいほどわかり、まったく病状が良くなっていないことを思い知らされる。重症感染症の患者さんが発熱時のアセリオ投与を嫌がる理由がよくわかった。

3月23日(月)、朝38.6℃。自分より若い健康な人が重症化して挿管されたり、もっと不幸な転機に至るニュースが嫌でも目に入り、恐怖を感じる。食事は無理やりシリアルとプロテイン飲料にビタミン剤と、とにかく栄養摂取を心がける。クロロキンが有効かもというニュースが気になって仕方がない。海外からの並行輸入ができそうで、ちょっと考えてしまう。ほとんど歩くことはできないほど疲労している。トイレで自分の手背の静脈が毛髪の様に細くなっていることに気づく。末梢ではとても血管確保のできる状態ではない。毎日2L近くスポーツドリンクを飲んでいるが、それでも極度の脱水になっていることに驚く。体重を計りたかったが、服を脱いで体重を測る気力も体力もなかった。

午前10時、Cough and fever clinicの医師から電話診察。呼吸苦がなければそのまま自宅で過ごすように指示をされる。朝から晩まで常に38℃前半で推移。脈は90代から100近くを推移。一度も脈が90を切ることはなく、頭痛も変わらず。夜間、再び頭から足に向かって熱感が移動し、その後高熱が出る現象が2回もあり、どんどん悪化していることを自覚する。怖い。恐怖を紛らわすために本を読む。

3月24日(火)午前7時、37.5℃に若干下がって喜んだが、夕方からは38.4℃となり落胆する。朝10時の電話診察は昨日と全く同じ。酸素飽和度計を手に入れたほうが良いとの助言をいただき、同僚に持ってきてもらう。(近所は売り切れており、かなり遠方まで探しに行ってくれた。)

夕方、家族が37.4℃の発熱し、悲壮感に拍車がかかる。

夜間から臥位になると乾燥した咳が少し出ることに気づく。SaO2は95%と悪くはない。

3月25日(水)朝から37.8℃。高熱ではないが、咳が時々出るのが気になる。臥位になると咳嗽が出現し、SaO2が下がることに気が付く。低い時は89―90%まで下がっており、酸素化に問題があることに気が付く。呼気終末に捻髪音が聞こえることに気がつく。自分では胸膜炎と胸水を予想し、電話診察の際に胸痛・咳嗽・SaO2の低下を説明すると、ERを受診することを勧められた。ただしUber, Taxiなど公共交通機関は使わないように指導される。車は持っていないため、徒歩でERに向かう(幸い歩いて10分くらいであった)

ERはとにかく待たされるので、この消耗した状態で病院の外にまで溢れる行列に並ばされて耐えられるだろうかと不安であったが、意外とテレビで見るような病列にはなっていなかった。受付で自分はPCR陽性であることを告げると、待合室の感染拡大を防ぐためであろうか、優先的にERの中の半個室に収容された。午後1時過ぎであった。ERは咳をしている患者で溢れており、通路は収容できなくなった患者が乗ったストレーッチャーで埋め尽くされている。2時間近く待ち、やっとレジデントが問診に来た。その後ERの常勤医師が診察に。レントゲンと採血、胸部のスクリーニングエコーがオーダーされる。5時ごろアセトアミノフェンを服用し、採血・ポータブルレントゲンを撮影。エコーでは胸水はなく、なぜ咳嗽がでるのか不思議に思った。その後、診察室が足りなくなり私もストレッチャーのままERの通路に寝かされた。そのまま連絡がないまま放置されていた。同僚に頼み、レントゲン・採血の結果を教えてもらい、肺炎であることを告げられ驚いた。

午後10時、突然入院の部屋の準備待ちのため、別の場所に移動するとtransporterに言われ、入院するほど重症なのかと呆然とする。(米国では相当重症でない限り入院はさせてもらえない。)入院を指示した医師の説明を聞きたい旨を伝えた。自分としては発熱が始まった家族を置き去りにして入院するのはとても受け入れ難く思われた。

入院を指示した医師が到着、彼の説明によると、発症から7日−10日から重症化する症例が多く、またその変化は急速に起こり、挿管・人工呼吸器・ECMOと悪化することがしばしばあるため、今後悪化するのか改善するのか判断するために入院したほうが良いと説明をされた。その説明内容はすでに毎日ネットを見ていたので知ってはいたが、このまま入院し、二度と退院出来なくなる可能性があると思うと恐怖しかなかった。しかし自宅に帰り、そこで急性増悪すると間に合わない可能性や、すでに入院ベッドが埋まりつつある状況から、いざという時に入院ができず、たらい回しにされるかもしれないと思い入院することにした。家族に電話をした。家族は号泣していた。

ERでさらに数時間待ち、日付が変わってから入院設備のある建物にストレッチャーで移送された。もう病院の70%はCOVID19の患者で埋まっていると教えられた。ちなみにベッド数は千床程度の大病院である。恐ろしいことが起こっている。

3月26日(木)午前1時30分、病室に到着した。二人部屋で、手前には酸素を吸入している30代の男性がいた。呼吸状態は私より悪そうであった。看護師さんから入院の書類の記入をするよう指示される。このあたりのプロセスは日本と似ている。夜食が欲しいかと聞かれ、朝から何も食べていなかったため大喜びでサンドイッチを頂いた。

酸素投与も可能とは言われたが、酸素を投与されると、すなわち重症化であると認めることになるし、退院の機会が遠のくような気がして遠慮した。

1.5Lの補液のルートを右肘に入れられ、これを10時間で投与すると言われた。

トイレは病室の中にあるが、輸液ポンプが付いているため、排尿には尿瓶を使用した。歩かなくても用がたせるのはなんと快適なことか。今思うと、家に持って帰ればよかったと後悔をしている。

自分が入院した精神的ショックと、臥位になると咳が出ることでなかなか寝付けないまま朝を迎えた。朝9時、検温があり37.1℃、発症して10日目、初めて解熱傾向が見られた。午前10時ごろ、その日の病棟担当医師が来室。室内で数分足踏みをしてSaO2を観察したが、88%は保てたため退院できるかもしれないと言われた。採血をもう一度行い、心筋炎を否定するためのBNPの測定、前日異常高値であった肝酵素と腎機能・CBCの再検査を行った。感染対策のため、その後その医師とは一度も顔を合わすことはなく、その後の会話は全て携帯電話となる。夕方検査結果で、肝機能異常の改善、腎機能も改善傾向にあり、呼吸症状も悪化はしていないので退院しても良いとの連絡があった。AST/ALTは111/148U/L、CRPは85.91mg/L, ビリルビンは正常であった。LDH 339U/L, Procalcitonin  0.06 ng/ml。こんなにCRPが高い患者はほとんど見たことがなかった。いかに自分が重症であったのかを知って驚いた。

午後9時40分、退院となった。最終検温は37.1℃であった。

前日と比較して随分体調が良くなっていた。頭痛も軽減した。入院の効果があったのかどうかは不明であるが、とにかく初めて改善傾向が見られて九死に一生を得たと思った。

しかし退院したものの、その晩から咳嗽は悪化し、ほとんど睡眠がとれない。朝の5時くらいまで寝ることができず、なんとか2時間ほど寝て、すぐに咳嗽で目が覚める。

3月27日 36.0℃。こんなに嬉しいことはなかった。咳嗽は肺炎が完治するまで数日は続くと医師に言われていたので、そういうものだと諦めた。熱がないが救いであった。精神的にも体力的にも熱がないと随分楽である。脈も80未満になってきた。夜はなんとか半臥位で寝ようと試みるが、普通のベットではなかなか難しく、結局朝方まで寝られない。

家族は38℃の熱発があり、今度はそちらが心配になる。

3月28日36.4℃ 咳は徐々にましになってきた。家族の発熱は昨日の38℃がピークで今日は37.4℃まで。しかも昼間は解熱しており、自分と比べて軽症であると思われ少し安心した。

3月29日36.4℃。家族も解熱した。このまま時間と共に軽快することを切に願う。

3月30日 これ以降、発熱することはなかった。咳嗽は4月5日くらいに消失した。

3日以上の無発熱・症状の消失・発症から2週間以上経過していること。この3つの条件をもって寛解とみなすので、私は寛解したと思われる。

今思うと、入院した第9病日から第10病日が運命の分かれ道であったと思う。あそこから肺炎が悪化すると、酸素投与、挿管、人工呼吸・透析・ECMOという重症化コースに移行していたかもしれないと思うと、いまでも恐ろしくなる。あの時の恐怖は当面忘れることができない。死が頭をよぎるほどの体験をしました。退院後しばらくは、あの時の恐怖を思い出す度に涙が出ました。最近はやっと冷静に当時の状況を思い起こすことができるようになりました。もともとマラソンやトライアスロン等、日頃から運動は欠かさず行っており、非喫煙者でもあった自分ですが、それでもこれだけ大変な思いをしました。高齢の方、基礎疾患のある方はさらに大変な事になるかもしれませんし、また基礎疾患のない方でも安心はできないと言うことを強調させていただきます。

 

日本の状況が深刻になりつつあるのは日々の情報でニューヨークにも伝わっております。日本では感染症指定病院に患者さんが集約されているそうですが、感染症指定病院以外の病院も、できる準備を始めなければならないと思います。患者数の少ない都道府県の協力も不可欠になると思いますから、今の間に連携を始めなければ間に合いません。医療従事者の皆さんの、そして皆さんの御家族・同居者の安全と、日本の被害が最小限になることを祈っております。

2020年4月12日、ニューヨーク州ニューヨーク市にて



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日本の今は、武漢コロナでNYコロナは別物。

だから今は、予行演習。

第二波に備えよう。




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欧州から帰国の医師「日本はイタリアの医療崩壊から学んでいない」
大西 孝弘 ロンドン支局長 日経ビジネス 2020年4月16日
 
 
 日本の新型コロナウイルス対策が新しい局面に入っている。従来は感染ルートを特定し、無症状も含め濃厚
接触者の隔離を進めてきたものの、最近は感染ルートが分からない感染者が急増し、対策の見直しが迫られて
いる。7日に安倍晋三首相が非常事態宣言を発令したが、一部の医療機関では受け入れ能力を超え、パンク寸前
の病院や、院内感染によって患者の受け入れを停止する病院も出てきた。
 一方、欧州各国ではイタリアやスペインの医療崩壊に警戒を強め、急速に医療体制を整備してきた。現時点
で日本に比べ感染者数や死亡者数は圧倒的に多いが、1日当たりの増加数はピークを越えつつある。修羅場を覚
悟しシフトチェンジした欧州の医療現場と比較し、日本の医療現場は今、どのような状況にあるのだろうか。
日本でイタリアのような医療崩壊は起きるのだろうか。日本と欧州の医療現場を知る澁谷泰介医師に話を聞い
た。
 
 
澁谷泰介(しぶや・たいすけ)医師
神奈川県出身、私立桐朋高校卒業。2012年横浜市立大学医学部医学科卒業。同大学で初期研修の後、横浜市立
大学外科治療学教室に入局し、心臓血管外科医として勤務。2019年よりベルギーのルーベン・カトリック大学
心臓外科で臨床・研究フェローとして勤務
 
 
澁谷さんは3月にベルギーから一時帰国した後に、日本で新型コロナ患者の診察をしています。どのような経緯
なのでしょうか。
 
澁谷泰介医師(以下、澁谷氏):3月中旬までベルギーのルーベン・カトリック大学で心臓外科医として勤務し
ていました。ルーベン大学はベルギーの新型コロナ対応指定病院なので、欧州を中心に様々な情報が入ってき
ます。
 
 3月中旬にベルギーがロックダウンになり、新型コロナ対応から心臓外科の手術も減り、子供たちの学校再開
のメドも立たないため、日本に一時帰国しました。
 
 ルーベン大学に籍があるままなので、日本では神奈川県の中核病院の救急外来など複数の病院で非常勤医師
として勤務しています。日々、新型コロナの感染疑いの方からの電話に対応し、感染者の診察も行っています
。今は頻繁に「発熱がある、呼吸が苦しい」という患者さんから連絡が入る状況です。現場で様々な問題を感
じますので、所属先とは関係なく、日本と欧州の新型コロナ対応の医療現場を知る医師として、個人的な感想
や意見を伝えたいと思います。
 
 
日本の準備不足に愕然とした
 
日本の新型コロナ対応を見て、どのような感想を持っていますか。
 
澁谷氏:まず、準備不足に愕然(がくぜん)としました。ベルギーから帰国する際は、日本の新型コロナ対策
は既に成熟していると思っていました。欧州に比べて感染者は少ないですし、各国の事例を見ており、クルー
ズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の新型コロナ患者に対応した経験もあるからです。しかし、実際に医療
現場に入ると、様々な問題点があることが分かり、感染を抑制してきた期間を有効に使ってきたのか非常に疑
問を持っています。
 
 
救急患者の搬送先病院が見つからない事態に
 
 今は新型コロナ患者を受け入れられる病院が限られており、その病院では受け入れ能力を超えてパンクしか
ねない状況になっています。私は新型コロナ患者に対応できる病院と対応できない病院の両方に勤務している
のでそれぞれの状況が分かるのですが、一般の病院では受け入れ準備ができていないため、感染疑い患者の救
急外来を避ける傾向にあります。
 
 具体的には、救急隊が現場で新型コロナの感染か否かを判断できないため、感染疑い患者の搬送先が見つか
らず、病院をたらい回しになる事態が発生しています。結果として、私が勤める地域の中核病院や、大きな病
院の救命センターに重症者だけでなく軽症者までが集中し、過大な負担がかかっています。首都圏の新型コロ
ナ対応病院は既に厳しい状況だと聞いています。
 
 本来は病院ごとの役割分担を明確にして、一部の病院に負荷がかかり過ぎないようにすべきなのですが、準
備不足のために一部の病院に患者さんが集中し、いわゆる医療崩壊が起きかねない状態になっているのです。
 
 大病院の救命センターが新型コロナ患者の対応に追われ、治療に迅速な対応を必要とする脳疾患や心臓疾患
などの患者さんを適切なタイミングで治療できなくなる恐れがあり、本来救える命も救うことができなくなっ
てしまう状況です。日本救急医学会と日本臨床救急医学会は、新型コロナへの対応で医療崩壊が起きる兆候で
ある「救急医療体制の崩壊」に直面しており、他の救急患者の治療に支障が出ているとの声明を既に発表して
います。
 
 
マスク不足で院内感染の恐れ
 
 新型コロナ患者に対応している病院の現場でも、新型コロナに感染しているか否かの判断がつきにくい点が
頭痛の種です。この時期は通常の肺炎の患者さんもたくさんいます。現状では病院の受け入れ能力や検査能力
に限りがあるので、電話を受けて軽症の方には自宅待機をお願いしています。それでも病院での診察や問い合
わせは非常に多く、医療現場に大きな負担がかかっています。
 
新型コロナ患者を診察する際には、どのような問題点を感じていますか。
 
澁谷氏:マスクなど医療防護具の不足が深刻で、正直に言って怖さを感じています。医療用の高性能マスクで
あるN95が足りず、通常の医療現場で使うサージカルマスクで対応しているところもあります。例えば、救急外
来に医師2人、看護師は8人という現場でN95が2個しかなく、非常に困っています。
 
 新型コロナの重症者の対応に当たっている同僚に話を聞くと、そこでも防護具が不足しているそうです。人
工呼吸器を使う前に気管挿管を行いますが、医師や看護師の感染リスクがとても高まるために、その時だけは
全身を覆う防護服を着ます。逆に言えば、防護服の不足から普段はN95マスク、ガウン、アイシールドのみで対
応し、防護服は利用できないとのことです。感染症に対応するガウンも足りず、本来は患者ごとに交換すべき
なのですが、同じ服を使い回さざるを得ないケースもある状況です。
 
 自分が感染する恐れと同時に、同僚や患者さんにうつしてしまう可能性があるため、緊張感がすごくありま
す。多いケースだと1日当たり100人ぐらいの患者さんを診察する医師もいるので、感染リスクは非常に高いと
思います。これは深刻な問題で、院内感染が広がると医療現場の受け入れ能力がなくなり、一気に医療崩壊が
起こりかねません。
 
 
どの病院でも院内感染は起こり得る
 
日本は新型コロナの感染ルートを特定し、無症状も含め濃厚接触者の隔離を進めてきましたが、最近は感染者
が急増し、感染ルートが分からなくなってきています。
 
澁谷氏:はい。その通りで、対策のフェーズが変わりました。感染ルートが追跡できず無症状の感染者が増え
ているため、新型コロナ対策ができていない病院に受診に来た患者さんが新型コロナに感染している可能性が
あります。知らないうちに感染者が病院に紛れ込むリスクが大変高くなっているので、今やどの病院で院内感
染が起きてもおかしくない状況ではないでしょうか。
 
 イタリアやスペイン、ニューヨーク州で医療崩壊が起きたことが連日ニュースになっていますが、これらの
地域では医療技術が劣っていたとは全く思っていません。ベルギーの医師たちに聞いてもそういう認識はあり
ません。
 
 医療従事者や防護具が不足し、一部の病院に新型コロナ患者が集中したために、医療崩壊が起こってしまっ
たのです。日本の準備不足を見ると、イタリアなどの事例から学んでいないと感じざるを得ません。今は日本
の医療現場が海外の医療崩壊の二の舞いになるのではないかとの心配があります。既に都内では医療従事者が
感染し、院内感染が広がり始め、患者さんの受け入れを停止した病院も出てきました。
 
 
ベルギーの大学では精神科病棟を新型コロナ専用に
 
澁谷さんが勤務するルーベン大学病院ではどのような新型コロナ対策を取っていますか。
 
澁谷氏:欧州ではイタリアの医療崩壊の状況を注視しており、ベルギーでも3月くらいから急速に様々な対応を
進めてきました。新型コロナ対策で大事な点は、感染者や感染が強く疑われる患者を、感染していない患者か
ら隔離するゾーニングです。イタリアではこれが不十分で、院内感染が広がってしまいました。それを受け、
ルーベン大学病院は敷地内にある精神科病棟を重症コロナ患者の専用病棟とし、新型コロナ専用の集中治療室
(ICU)も増設しました。
 
 ちなみに、ベルギーは4月14日時点で感染者が3万人に達していますが、ルーベン大学病院のような新型コロ
ナ対応病院が整備されており、救急でたらい回しになったり、病院がパンクしたりするような状況にはなって
いません。ICUの受け入れ能力にもまだ余裕がある状況です。
 
 日本も新型コロナ対応病院を増やそうとしていますが、ベルギーとは事情が異なります。ルーベン大学病院
は2000床のベッドがある大規模病院で敷地に余裕があるのですが、日本で500床を超える大規模病院は全体の5
%ほどしかなく、一般的な病院は規模が小さいため、大胆なゾーニングは難しい状況です。特定の階を新型コ
ロナ専用とし、そこに至る通路なども一般患者用と隔離しなければならず、非常にコストと手間がかかります

 
 私が現在勤務する病院でも、新型コロナ患者を診察する度に換気し、導線をすべて消毒しており、たいへん
手間がかかります。病院側がゾーニングのコストを負担するのは難しいため、政府がこの対策に予算をいち早
く投じ、整備を進める優先順位は高かったように思いますが、整備が遅れてしまっている印象です。
 
 
ベルギーでは患者や医療従事者の精神的サポートも
 
 日本とベルギーでは新型コロナ患者への初期対応も大きく異なります。ベルギーではまず、症状がある患者
はかかりつけ医に報告し、自宅でできる限りのケアを受けるように努めます。呼吸困難などの症状で病院にか
かる必要がある場合は、大学病院の救急部門に相談し、必要な検査を受けます。
 
 当初、新型コロナ患者はルーベン大学関連の付属病院に送られていましたが、その能力を超えそうになった
ので、今は大学病院が新型コロナ患者を直接受け入れるようになりました。それまで大学病院は新型コロナの
「研究施設」としての役割を担い、すべてのサンプルが大学病院内に送られ、多くの知見を積んできました。
状況を見ながら病院の役割を柔軟に変えていったように見えます。
 
日本の医療現場で参考になりそうな取り組みはありますか。
 
澁谷氏:1つは人手不足への対応です。ルーベン大学病院ではビデオや電話相談の専用窓口を開設し、付属大学
の看護学生に常駐してもらっています。ここに現場の医師や看護師のリソースを取られることを防ぐためです

 
 また、特徴的なのは新型コロナに関する心理的なサポートが充実している点です。今回のウイルスとの戦い
において、患者と医療従事者は共に隔離による孤独感や死への恐怖など精神的なストレスを抱えています。
 
 ICUを含むすべての新型コロナ部門には最低1人の精神科スタッフが任命され、患者やその家族向けに必要に
応じて精神面のケアやサポートを行います。さらに、ストレスのかかる医療従事者向けの心理的なサポートも
重視しており、そのための専門部署を作りました。
 
日本でも新型コロナ対応の病院を整備しようとしています。
 
澁谷氏:それは喫緊の課題で、できるだけ早く整備してもらいたいと思います。それと同時に、専門知識や技
術を持つ人材を新型コロナ対応の病院に集中させるべきだと思います。
 
 例えば、重症者の対応で人工呼吸器の不足がニュースになっていますが、医師なら誰もが使える訳ではあり
ません。訓練された医師しか扱えないため、人工呼吸器があっても稼働できない事態はあり得るのです。体外
式膜型人工肺(ECMO)に至っては、存在を知らなかった医師も多くいると思われます。
 
 また、医師だけではなくICU治療に精通した看護師や、人工呼吸器などの医療機器を管理する臨床工学技士な
どの人員確保は急務です。これらは高度な知識と経験を要する専門職のため、付け焼き刃で育成できる人材で
はありません。
 
 そのため、新型コロナ対応病院には限りある専門の医療スタッフを集中させるべきだと思います。私は心臓
外科医なので普段から人工呼吸器やECMOを使う機会が多く、今後重症患者が増えていけばそれらの治療をメイ
ンで担当する可能性があります。
 
 ただ、人工呼吸器やECMOによる治療は確固たる治療法ではありません。新型コロナは重症化してからさらに
悪化するスピードがとても早いため、海外での報告を見るとあくまで体が回復するまでの時間稼ぎにすぎない
といった認識の方が適切なのかもしれません。
 
 治療を始めても元の健康状態に戻らないこともあります。若い人が感染し重症になり亡くなってしまうケー
スもあります。確立された治療法がない現在の状況では、とにかく感染しないことが最も大事なのです。何よ
り今の医療体制では、感染者や感染疑いの人が急増し医療崩壊が起こる危険性があるからです。
 
 
テレビの情報で不安になり病院での診察を望む人が非常に多い
 
新型コロナ関連の診察の中で、気になることはありますか。
 
澁谷氏:患者さんが持っている情報について気になることがあります。過剰に感染を疑い、病院での診察を希
望する方が非常に多く、現場ではその方々の対応に追われています。例えば、通常の風邪でも新型コロナのガ
イドラインでも発熱の基準は37.5度以上と定義していますが、36度台後半で発熱の症状を訴える方がとても多
い状況です。「発熱があったら新型コロナの疑いがあるとテレビで聞いた」と言うのです。
 
 特に一部の中高年の方に顕著なのですが、情報源がテレビだけの人が多く、テレビの情報番組などの断片的
な情報で新型コロナかどうかを判断するケースが散見されます。
 
 若い人はインターネットで様々な情報を調べられる人が多いのかもしれませんが、中高年の一部の方は自分
で情報を調べないため、テレビの情報番組の情報をうのみにしてしまうようです。テレビでは医療の専門家で
ない方が誤解を招くような情報を伝えるケースがあるので、できるだけご自身で情報を調べた方がいいと思い
ます。テレビ側としても、もう少し専門家が正しい知識や情報を発信する機会を増やした方がいいような気が
します。
 
 日常生活においては、密閉・密集・密接の「3密」がいまだに回避されていないのが気になります。ベルギー
では外出制限の中で、他の家族や子供同士で集まることは禁止されています。日本ではスーパーや飲食店に家
族全員で出かけていたり、公園に子供だけでたむろしていたりしています。外出自粛なので強制させることは
難しいのかもしれませんが、感染者を増やさないために行動を見直してもらいたいと思います。
 
 世界各国と比較すると、日本の新型コロナ対策は非常にユニークな方法を取っており、3月ぐらいまでは感染
による死亡者を抑えられてきました。初期の政策や医療現場の努力のたまものではないでしょうか。
 
 ただ、最近は感染者が急増し、感染ルートが分からなくなってきており、医療現場の緊張感は非常に高まっ
ています。無症状の患者さんも増え、医療従事者は感染リスクにさらされながら、全力で目の前の命を救う努
力をしています。患者さんと同じように、私たち医療従事者にも家族や大切な人がいることをご理解いただき
、皆さんにはどうか、人との接触を避けることを徹底してもらいたいというのが切なる願いです。
 
 他国のように活動制限を強制させられず、個人の自主性に任せられた状態で100年に一度と言われるパンデミ
ックを乗り切ることができれば、それこそ世界に誇ることができるのではないでしょうか。
 
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00122/041500016/?P=1



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@


NYで働く、米国人の医師たちの声にも耳を傾けたい。
明日の日本かもしれない。


新型コロナと闘う米医師15人の証言(上)
(Forbes JAPAN) - Yahoo!ニュース    →こちら



PS)

政治家は、医者の言うことを少しは聞いたほうがいい。

命あっての経済。

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この記事へのコメント

以前から詳しい内容を読みたかったので掲載していただきありがとうございます。
私は素人なので専門的なことはわかりませんが
日本でも「軽症と判断される症状でも、かなりひどくしんどい、つらい症状で、絶対2度とかかりたくない」という手記がありました。

症状が出て回復する人と重症化してしまう人との違いは、年齢、体力、基礎疾患、喫煙歴だろうな。と。
あと最近言われているBCG・・・もう一度BCGやる???

無症状の人と症状が出る人の違いは何なのでしょうか。
感染したウイルスの化け具合の違い?
西洋のコロナは怖いという説が信憑性あるみたい。
個人の免疫力?

長尾先生が統括するコロナ診療所が全国にできればいいのに・・・

Posted by 匿名 at 2020年04月17日 02:25 | 返信

この記事、ニューヨークで働く日本人医師からのメッセージを全文を読みました。
現在も闘病中でいらして、お辛い状態の中、日本を心配して伝えて下さっています。
今日、日テレが動画で報じていました。医師として、日本人としての使命感が伝わりました。
このメッセージを日本の隅々まで行き渡らせたい。
今日も呑気に吉祥寺に出掛けていった人が多くいて、混雑が生じていたっていうから情けない。
駅のスクリーンで、このメッセージを流したらどうだろうか。
「自粛」とか「家に居よう」なんて生半可な言葉じゃなかった。
「今、家に閉じこもらなければダメだ!!」と医師が仰っていた。

Posted by もも at 2020年04月20日 12:27 | 返信

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