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いまさら聞けない 介護職に必要な「発熱の知識」

2020年09月02日(水)

月刊ケアマネジメントの9月号の連載は、

「介護職に必要な発熱の知識」で書いた。

あああ、書いてしまった・・・

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月刊ケアマネジメント9月号 

いまさら聞けない  介護職に必要な「発熱の知識」 →こちら

・介護職の発熱コールは家族の10倍以上  

 当院は約500人の在宅患者さんを診ています。その内訳は自宅が7割で施設が3割。しかし時間外の発熱コールのほとんどは介護職員やケアマネからです。自宅で介護しているご家族からの発熱コールはほとんどありません。つまり介護職員からの発熱コールの頻度は介護家族の10倍以上に及びます。なかには36.7度くらいの微熱で午前3時に電話をしてくる介護職もいます。コロナ禍で過敏になっているせいもあるのでしょう。極論すれば私の携帯電話が時間外に鳴るのは介護職員からの発熱コールであり、その都度、介護職員に発熱の話をするために携帯電話を持っているようなものです。これは仕方がないことです。介護職員が発熱についてちゃんとした教育を受けていないからでしょう。今回、「いまさら聞けない介護職に必要な発熱の知識」という題で書きます。これまでいろんな文章を書いてきましたが、このような「発熱に関するそもそも話」は初めてです。 発熱は「微生物への生体反応」  医学の歴史を振り返ると発熱は悪しきもの、超自然的な現象、治療すべき問題だと考えられてきました。医者は発汗や嘔吐や瀉血(血を抜く)などの恐ろしい手段で熱を下げようとした時代もありました。しかし現在は、発熱は病気ではなく生体反応であると考えます。感染症であれば、発熱は病原体が体内の細胞に侵入した結果です。微生物に感染すると警察官のような自然免疫システムが発動して病原体を攻撃します。その際に他の警察官も呼び寄せて病原体を殺そうという物質(インターフェロンなど)が放出されます。その結果が発熱なのです。体温を一度上げるには体の代謝を10~12%上げなくてはいけません。体温が40~41度まで上昇するとウイルスの複製率は200分の1にまで低下します。闘いに勝ったも同然。すなわち発熱は「ウイルスが来たぞ、みんな集まって自然免疫でやっつけろ!」というサイレンのようなものです。生体は体温を上げてウイルスの増殖を阻止して殺そうとするのです。これは人間だけではなく、爬虫類、魚類、昆虫などの冷血動物も同じです。驚くべきことにマメ科の植物の葉も真菌に感染すると温度を上昇させて反応します。実は人間のがんに対する免疫システムも同様です。したがって発熱自体は病気ではなく、微生物やがんなどの異物対する反応と捉えることが大切です。医師は発熱で死なないことを知っているので、発熱の原因はなにかを推定します。しかし介護職はなぜか「発熱=悪」と刷り込まれているようなので、「熱で死にやしないか」と心配して医師や看護師に電話して解熱剤の指示を仰ぐのです。

・ロキソニンやボルタレンは厳禁  

ウイルス感染に解熱剤を使う意味を考えたことがあるでしょうか?「そんなの当たり前」、では全くありません。その真逆で「一番やってはいけないこと」なのです。ウイルス感染ならば、せっかく警察官が敵(ウイルスや細菌やがん細胞)と闘っているのにそれに水を差す行為なのです。解熱剤を使うと感染症からの回復が大幅に遅れます。1日で治る風邪が3日もかかります。あるいは自然治癒するはずだったインフルの死亡率を格段に高めます。小児科領域ではインフルの発熱に「ロキソニン」や「ボルタレン」(これらはNSAIDSと呼ばれます)の使用は厳禁です。もし使用して子供が亡くなり医師が訴えられたら100%負けます。しかし高齢者医療の現場では、なぜか「ロキソニン」や「ボルタレン」などが使われることが時々あります。かくいう私も午前3時に介護職員から「38度の熱発ですが手持ちのロキソニンを飲ませてもいいですか?」と電話がかかってきたら、眠いので「はい!」と答えてしまうことを正直に告白しないといけません。なぜそれが不要なのかを説明するのが、午前3時には面倒くさすぎるからです。しかし翌朝、必ず「ああ、俺はいけないことをした・・」と自己嫌悪に陥ります。ちなみに新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)においては、ロキソニンの使用は死亡率を何十倍も高めることが分かっています。 カロナールは期間限定  それでも発熱が気になって仕方がない人はせめてカロナール(アセトアミノフェン)を使いましょう。ただし、最低でも39度以上の高熱の時に留めましょう。使うとしても1回だけの頓服です。もしも諸般の事情で1日3回飲ませるとしても数日以内に留めましょう。使ってもいいけどあくまで期間限定です。なぜなら厳密にはカロナールも熱を下げることで、病原体との闘いを不利にするからです。カロナールもNSAIDSほどではありませんが、コロナ感染者の死亡率を数倍あげるのです。 「ええ?38度も熱が出ているのに薬も使わないでただ様子を見るの?私にはできなーい」という声が聞こえてきそうです。だいじょうぶ。心配なら薬ではなく、氷袋で額と脇の下を冷やしてください。血流が豊富で体表に近い場所だからです。しかしそもそも冷やさなくても熱は勝手に下がります。上がったものは必ず下がる。たったそれだけですが、発熱の知識が無いと下がるまで「待つ」ことができません。そんな勇気がありません。不安から医師に電話して薬を飲ませることで「ああ仕事をした」と安心できるのです。しかしそれは単なる自己満足であり、患者には明らかな「不利益」をもたらしていることを本稿を読まれた介護職員は知っておかねばなりません。当たり前ですが多くの医者は上記のことを知っています。看護師は知っている人と知らない人がいます。しかし説明が面倒くさいので「○○を飲ませといて」とやってしまうのです。大昔のクセが30~40年経っても残っている医師や看護師もいます。私も大昔、カルテの指示欄に「38.5度以上発熱時はボルタレン座薬50mg」と書いていました。あの頃は無知だったのですね。今、それを思い出したら懺悔の気持ちと穴があったら入りたい恥ずかしい気持ちになります。

・悪寒戦慄を「けいれん」と間違うな  

 インフルエンザウイルスに感染し、36.0度の体温が1時間後に39.0度まで上がるとしましょう。1時間で3度も体温を上がることは生体にとっては代謝を5割あげることで、自動車に喩えるなら時速300kmで暴走するような超緊急事態です。体はガタガタ震えます。医学的には「悪寒戦慄(おかんせんりつ)」と言いますが、多くの介護職員は「けいれん」や「てんかん」と表現して慌てて電話をくれます。私は「1時間後には39度まで上がります。今、寒い寒いと言っているはずなので布団をかけて体温が上がりきるまで待って下さい」と指示します。しかし中には、「今、ロキソニンを飲ませるかボルタレン座薬を入れたらダメですか?」と聞いてくる介護職員がいます。看護師が問う時もあります。もうお分かりですよね。それは「非常にもったいない!」ことなのです。せっかく体中の警察官(自然免疫を担当する細胞)を総動員して体温を上げて微生物を排除しようとしているのに、医療が治癒を遅らせ重症化させてしまう本当はいけない行為なのです。しっかり39度まで上げることで闘いを短期決戦で終わらせたいのに、それを邪魔する行為です。つまり真逆なのです。しかしこれも説明が面倒くさいので「ああ、それでいいよ」と答えて後で一人後悔することがあります。多くの悪行の懺悔のために恥を忍んでこの文章を書いているわけですが。  私は6才くらいの時、高熱にうなされた夜がありました。「寒い、寒い」と泣きわめいた時、祖母は「布団をかぶせて熱が上がりきるまで我慢ね」と言ったことを覚えています。その予言どおり1時間後には熱がピークに達したのか震えは止まり、気が付けば下着は汗でビチョビチョになり着替えをしてくれました。気分が落ち着いたところで冷たいジュースが差し出され、ゴクゴク美味しく飲んだことを覚えています。今風に言うなら「脱水予防のための経口補水療法」ですね。昔の人は偉かった。発熱の意味と対処法は超高齢者のほうが経験で知っています。しかしそんな知恵を介護職員が教わる機会が失われています。

・原因の探索のほうが大切  

ー 

 介護職員は、発熱そのものを病気と捉えます。一方、医療者は発熱を生体反応と捉え、自然解熱が一番有利であることを知っています。同時に、「これはなんの熱やろか?」と考えます。高齢者の場合、肺炎か腎盂炎か胆嚢炎のどれかであることが経験的に多いです。肺炎であれば聴診器やレントゲンで確認します。腎盂炎なら検尿で胆嚢炎なら腹部エコーで確認します。つまり発熱の原因を「診断」し、その診断に基づいて「治療」を考えます。難しく言えば、医学とは診断学と治療学です。肺炎と診断したなら呼吸器に効く抗生剤を、腎盂炎なら尿路系に効く抗生剤を、年齢や体重や腎機能などを考慮しながら選びます。また採血して白血球(正常値4000~8000)とCRP(正常値はゼロ)などの炎症反応を調べます。白血球は発症数時間以内に上昇しますが、CRPの上昇は1日位遅れることを勘案して炎症の程度を推定します。たとえばCRPが20もあったり、白血球が2万もあれば「これは重症感染症やな、入院加療したほうがいいのやろうか」など考えてご家族とよく相談します。  介護職員も発熱に一喜一憂するのではなく、発熱の意味を知りその先にあるものを一緒に推定できたらいいですよね。同じ肺炎でも施設で加療する人がいれば入院する人もいますが、多くは家族との話し合いで決まります。「これは施設でいいな」と思っても家族が「いや、大事を取って」と言われる時は、介護職員の意見も聞きたい時があります。以上、発熱に関する余談でした。くれぐれもここだけの話にしてくださいね。

PS)コロナチャンネル#136

007は二度死ぬが、コロナは二度かかる!

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この記事へのコメント

長いような短いような・・・。
しかし、もう9月。
何だか、必死だった。
今日再び、思考の整理。
そして、やはり『知る事』大事ですね。

先生、今日もありがとうございます。

Posted by 轟 瞳 at 2020年09月02日 11:41 | 返信

いやー先生、大切なロキソニンの大切な話有難うございます。熱が出たらロキソニンロキソニンと大事にしまっていますので
膀胱炎の薬をを飲みだして2日目に38,4度の熱、主治医にロキソニン飲んでもいいですかと電話したらok。。すぐ総合病院に行きなさいと、、腎盂腎炎で10日にゅういんしました。ロキソニンきをつけます。ありがとうございました!

Posted by その他 at 2020年09月02日 06:31 | 返信

あああ、書いてしまった…毎回救われます。病院で解熱剤を処方されるたびに飲みたくないなあと思っていました。先生も人間です、いろいろありますよね(;_;)
ここだけの話にしておきます〜(•ө•)♡

Posted by 匿名 at 2020年09月02日 09:27 | 返信

「発熱の知識」を読んであのお医者さん、このこと知っていたと思うけど・・・
お医者さんの事を愚痴るわけどないけど
風の症状があり、とりあえず病院に行きました
診察を終えて治療で注射と点滴
が、点滴をしている時に何か変!確実に変!
仰向けになっているのが辛く、身体を横向けしよと思っても、腕には点滴の針を刺さっている
とりあえず、腕をそのままにして、身体だけ横に向くしかない
私の様子がおかしいのに気が付いて、一人、また、一人と私の周りに人が増えてきた
当然、ドクターの姿もあった
なんか、紙切れを見ながら「一度、お医者さんに診てもらったほうが良いよ」
ていうか、ここ病院でしょ!!!
私の小心者で心の中で「ちょっと、そこのオッサン、おばさんこの点滴外してよ。体が思うように動かせないんだけど」
けど、私の心の叫びなど届くかづ、最後まで点滴をしていたように記憶します
この時、ドクターが手にしていた紙は尿検査の結果だったと思いますが、こちとら体調不良でそれどころでない
ドクターからは「ポカリやアクエリを飲んで寝ててください。血液検査の結果は一週間後に出ますので、また、来て下さい」
まあ、家で大人しくしていたら症状は落ち着きましたが、余分に1日仕事を休むはめに
一週間後の血液検査の結果は異常なしだったけど、検査の結果を説明している時のドクターは紙きれを見ているだけでした
これは実話です
仕事を休むのに、家で寝ていただけだと良くないと思って、病院に行ったのが運の尽きでした
家でジュースを飲んで、大人しくしていたほうが良かったかもと、今は思います

Posted by ナオミ at 2020年09月02日 10:35 | 返信

私も、父が突然39℃の熱を出して「フーフー」と苦しがったのでお医者さんに電話したら、看護師が「ボルタレン(座薬)を入れて様子を見て下さい。明日9時か、10時には往診します」と言われてボルタレンを使用しました。その後お医者さんと看護師さんが来て「インフルエンザです」と言って、点滴をしてくれました。「明日(土曜日)の朝、熱が下がっていたら9時に電話してください」とお医者さんが言いました。あくる朝熱が36.5℃に下がっていたので「お蔭様で36.5℃の下がりましたありがとうございます」と電話するとお医者さんが「それじゃ、私はもう往診しなくてよいですね?じゃあね」と言って電話を切りました。おかしいなと思いました。10時頃再度計ると38℃以上に上がっているので12時の業務時間の終わるのを待って電話すると「先生はもういませんよ!何ですか!今頃電話してきて!」と看護師さんの怒鳴られました。その晩も熱が下がらないので、電話すると看護師が出て「熱が下がっても、もう一度点滴をするのが当たり前なんだ。そんな事も知らないのか!」と怒鳴られました。「裁判で訴えてもだめだよ。どうせこっちが勝つに決まってるのだ」と言いました。「父は未だ生きてるので訴えるハズがない」と言うと「そうか」と言いました。「どうしたらよいのですか?」と聞くと「救急病院に入院せよ」と言うので救急病院に入院する事になった。父は救急車が来ると「入院したくない」と言って物凄く暴れた。救急病院では誤嚥性肺炎だといわれた、一週刊後に院内感染MRSAに罹患したと言われた。父は苦しみながら20日後死んだ。お医者さんは、子供と一緒にスキーにいっていらっしゃったそうです。

Posted by にゃんにゃん at 2020年09月03日 08:13 | 返信

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