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バイタルばかり測るヘルパー

2020年11月19日(木)

末期がんで余命数日の患者さんの家を、訪問した。

するとヘルパーさんがいて一人でパニクッていた。

いつからヘルパーがバイタル測定職になったのか。

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「2つのパルスオキシメーターの値が違う」

と言いながら、興奮気味で数字を連呼する。


「こちらはsP02が93%だけど、あちらは98%。

これじゃあ、酸素が必要です・・・」と。


答えはブー


在宅酸素の適応は、慢性心不全とCOPDの2つ。

患者さんの呼吸は平穏で食べて笑顔もあるのに。


あまりに「酸素、酸素」としつこいのでそのヘルパーに

「酸素飽和度を測らないでください」と言ってしまった。


すると、僕をキッと睨み返し、こう言われた。

「会社の方針ですから。管理者に今聞きます」


別室で上司に「ヘンな医者が無茶なことを言う」

とコソコソ相談していて、なんかトラブル模様。


家族には酸素は足りていて、酸素吸入の必要が無いことを

説明したけど、遠くの子供さんにもLINEで説明する事態に。


既にヘルパーが酸素騒動を起こしていたので

その火消しをする作業に時間がかかってしまった。


でもご家族は長尾ブログや本を読み頼んできてるので

幸いにも、平穏死をだいたい理解してくれている様だ。


余命数日の患者にバイタルサインを測りまくるヘルパー。

いつから「介護」が、こんな風に変わったのだろうか・・・


介護とは、体をさすったり、拭いたり、快適にさせる仕事では。

ミニ医者のようにバイタルサインだけしか見ないのはオカシイ。


「ああ、月刊ケアマネジメントの連載を読んで欲しいなあ」

「ああ、映画を観て欲しいな、でも絶対観ないだろうなあ」


フツフツと「一人での多くの人に映画を観てもらいたい」

という強い決意が沸き上がってきた。来年は頑張るぞお!


僕の敵は医師であり、看護師であり、市民であり、

メデイアであり、そして介護職員と、要は全部だ。


僕は、聴診器一本で在宅現場を回る人。

血圧計もパルスオキシメーターもない。


昔、「往診カバン」を取材している大物女医さんが

当院に来られて、一緒に在宅を回ったことがあった。


その時、丸腰で回っている僕を見て笑われた。

インチキ医者だと彼女は確信したようだった。


その後、彼女の著書には立派な在宅医は立派な往診カバンを

持っていて中にこんな素晴らしい道具が入っているとあった。


僕のように聴診器一本で回っている医師は医師ではない、と。

せっかく1日取材を受けたけど、無かったものと無視された。


僕が聴診器しか持たない理由は

・バイタルサインは脈診で充分。会話に時間を割きたい。

・機械で測定よりも苦しみを目や体で感じるほうが大切。

・そもそも訪問看護師がバイタルをとってくれているし。

・24時間365日大きな往診カバンを持ち歩けない(昔はしていたが)


バイタルサイン測定に費やす時間があるならば、他に使いたい。

時間は有限なので、一番大切なことにふんだんに使いたいなあ。



昨夜も真夜中にお看取りが、あった。

身寄りの無いおひとりさまの看取り。


仕事帰り、23時に覗くと、ヘルパー会社の社長さんが

「今夜が最後だろう」と判断して泊まり込んでおられた。


やや努力用呼吸であったが、脈はしっかりしていたので

「まあ、今夜は大丈夫でしょう。明日かな」と言い帰宅。


しかし・・その一時間後に息を引き取られた。

その社長ヘルパーさんと、しばし話し込んだ。


「最期の夜くらい、誰かが寄り添ってあげないと可哀そう」

「これは、以前からの約束なので果たさないといけない」

「これから仲間を呼んで湯かんをする、これも約束だ」


一緒に衣服を整えて、手と指を組ませた。

そこには血圧計もパルスオキシメーターも一切ない。


間もなく旅立つ人に、どうしてバイタルサインが必要なんだろう。

求められるのは「管理」という発想ではなく「寄り添う心」では。


看護師がミニ医者になるのはいいとしても、

ヘルパーはヘルパーの仕事を考えて欲しい。


そう思うけども、僕のような町医者が言っても全く理解されない。

看護は医療の悪い所を真似て、介護は看護の悪いところを真似る。


こんな大きなウエーブに逆らうのが「痛くない死に方」という映画。

在宅酸素を付けて家に帰ったら医師がそれを外してしまうシーンも。


2月20日(土)銀座シネスイッチで封切りされるこの映画で

僕は、多くの敵と戦うとともに多くの市民の共感を得たい。


毎日、「コロナ疑い」の患者さんを診ている。

僕にとってコロナは「単なる雑用」にすぎない。


自然から人類へのしっぺ返しなのに、どうして「闘う」のか。

謝りながら通り過ぎ去るのを静かに「待つ」のが正しい態度。


まあ、僕の心に火をつけてくれたバイタルサイン依存症の

ヘルパーさんと全員にそう教育している会社に感謝かもね。



PS)

コロナチャンネル #214


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※本ブログは転載・引用を固くお断りいたします。

この記事へのコメント

先生は患者さんの味方ですもんね。
ヘルパー会社の社長さんの話も泣けました。
(マックで本当に泣いている。)

先生やヘルパー会社の社長さんみたいな医療従事者に
感謝です。

泣けて泣けます。

前の職場の精神疾患のグループホームで
(グループホームと言っても精神疾患の方は1人暮らしを好まれる
ので1人暮らし)亡くなった身寄りのない利用者さんの
お葬式も職員の方が全部しきって見送らせたんですが
本当に感動しました。

身分関係なくどんな人も尊厳を持って扱われ見送られる
べきですよね。

今日のブログも良かったです。マックで1人泣いています。

Posted by うめ&もも at 2020年11月19日 11:56 | 返信

私が旅立つ時には先生のようなまっとうな人に見送られたいです。とてもシンプルな考え方だと思うのですが。ヘンな事を言う人は自分が旅立つ時の事を考えないのでしょうか?想像力があまりにも欠如していると思います。人間はみな必ず死ぬ日が来るのに。それにしても先生はすごい。同じ人間なのにこうも違う事にびっくりしてしまいます。

Posted by 匿名 at 2020年11月19日 12:46 | 返信

そのヘルパー会社良いですね。
死ぬときに傍にいてくれるなんて、凄い贅沢だ。
記事内の人は良い死に方したなあ。羨ましい限り

Posted by 匿名 at 2020年11月19日 12:49 | 返信

ワクチン報道発表後、ファイザーのCEOは自己株の売却でちゃっかり数億円の利益を手に出来た。

効果の程が曖昧でも、オリンピックをどうしてもやりたい人達は無理やりにでもこのワクチンをばら撒くと思う。

Posted by 匿名R at 2020年11月19日 01:14 | 返信

マニュアル頼みで決まり事に忠実なヘルパーさん、お勤めの会社に先生の本を進呈したいくらいです。
機器頼みで数値見て人を診ない女医さん。出来ればお出会いしたくない。
聴診器一本で、五感をフル活用させて人を診て、そして寄り添って下さる長尾先生。
我が家の生活圏内で、先生の同志のようなお医者さんがいて下さればいいなあ。

コロナ対策は「ハンマー&ダンス」と言うけれど、自然界が人間にハンマーを振り下ろしているのかも。
新型コロナウイルスは寒さと乾燥が大好きなら、今日のモアッとした暖かさはちょっとした天のお情けで
コロナ陽性急増で警戒感高まる今、少しの間だけ寒さを緩めてくれたのかもと勝手に解釈してます。
マスコミ報道の緊張感に影響されないよう、落ち着いて一息入れて、我が身の行動を振り返ります。
他人様と喋るならマスク。お店で食べるなら静かに(出来るだけ)。手の清潔、換気と乾燥対策の加湿。
ここまでして罹ればもう「しゃーない」です。

Posted by taco at 2020年11月19日 02:07 | 返信

長尾先生、お忙しい中を毎日の更新ありがとうございます。
聴診器だけを持っての訪問。人に寄り添う、一流の町のお医者様だと尊敬します。
コロナ渦中の両親の遠距離介護は何かと不自由ですが、長尾先生の発信を頼りに両親に寄り添っていけたらと思います。これからもよろしくお願いします。

Posted by 長尾先生のサポーター at 2020年11月19日 02:07 | 返信

今朝のワイドショーで玉川氏が「コロナが感染拡大しているなかで、首相の発言が食事中でも話す時はマスクをしましょうとしか言わないのは情けない」と言っていましたが、その通りだと思いました。

「GoToを使って旅行するかどうかは国民の判断に任せる」と丸投げするなら、キャンセル料くらい国が補填してほしいものです。

Posted by 主婦 at 2020年11月19日 05:13 | 返信

発熱のためにかかりつけ医に診察を断られてしまった高齢の母を、こんなにご多忙な長尾先生がオンライン診療問診から、初診往診(ほんとに聴診器一本で)にかけつけて下さり、翌朝もお電話下さり、後日も再び訪問して下さり、母と私達家族は「寄り添い、人を診る」愛情いっぱいの長尾先生と愛情いっぱいの訪問看護師さん方に支えられ、それはそれはとてもとても穏やかな母の最期を迎え、自宅での看取りを叶える事ができました。長尾先生、敵がたくさんいても、先生に感謝し、先生を尊敬し、先生を支持している人もたくさんいます。
若い時に先生に出会えていたら、叶うなら、看護師を目指し、先生のクリニックで訪問看護師として働いてみたかった私です。

Posted by 尼崎の東の端より感謝を込めて at 2020年11月19日 07:14 | 返信

中島みゆきの「糸」が気に入ってYouTubeで聴いた時の事
気になったのが「人は仕合わせと呼びます」の文字
最初は当て字かなぁ~と思った
でも、気になりネットで調べました
しあわせの漢字→幸せ・仕合わせ
幸せ→幸運 運が良い
仕合わせ→巡り合わせ 
しあわせ→人のつながり

身寄りのないおひとりさまが、ヘルパー会社の社長さんや長尾先生と巡り合った事が「幸せ」
縦糸(あなた)と横糸(私)が巡り合って「幸せ」な最後を送ることが出来て良かったと思いました

私の知り合いで長尾先生の事を知っている人はいません
だから、先生のムック本の「歩くだけ」を紹介しながら、「健康」の事を話すようになりました
人によっては「尊厳死」と「安楽死」、「在宅医療」等を話す機会が出来てました
当然、一人、一人の考え方があるので、ある意味、怖い
私が「右」と言えば、「左」となることもあるので本当に怖い
それでも、「痛くない死に方」の映画を見に行こうと誘ってみたりもしています

Posted by ナオミ at 2020年11月19日 09:42 | 返信

長尾先生。毎日ご苦労さまです!
いつもありがとうございます。
全てにうなづき、読ませて頂きました⭐︎^_^

風邪ひいたらすぐ薬、数値おかしかったらこれ、
はい検査、入院、やっぱりあかんから手術、
ついでに胃瘻、歩いたらあかんで。etc..

死を行き急いでるとしか思えない医療に
もう、私、うんざりしています。笑

長尾先生は医師でありながら、人を診て、それぞれの
人生を見て下さるんだろうなぁと勝手に感じております。

先生が聴診器を持って、アホなこと言うて下さって(失礼…笑)
大笑いしたほうが、どれだけしあわせでしょう!
私はそんな先生に見送って頂きたいです( ˊᵕˋ )/

映画、見たいです。本も読ませて頂きまーす!

Posted by 松岡葉子 at 2020年11月19日 10:41 | 返信

「痛くない死に方」の映画ですが、ぜひケアニンのように市民上映できるような環境にしてくださるとうれしいです
ケアニンのように医療・介護職が大勢見れば、今のバイタルサイン信仰も少しは変わるんじゃないでしょうか?いかがでしょう?

私のところもバイタルサイン信仰がありまして、左右の腕で時には5回以上も一度にはかることがあります。傍から見ていると異常です
起床後に測り、食事時に内服させる
内服後の血圧は測定しないので、過降圧になってもわからないですね
朝ぼーっとしているあの方はもしかしたら過降圧か?なんてね

Posted by 老健職員 at 2020年11月20日 08:31 | 返信

いつからこの国の人は補償補償と乞食のようになったのでしょうか?
Gotoなんかやるから、なじみの店は混んで予約が取れないほどになって通うことができなくなりました
Goto自体の趣旨には賛同しますし、標準予防策を守っていればよほどのことをしなければ感染しないのではとも思います。

国に補償しろって言っている人は、回りまわって自分の財産をさらに税金に食われることを考えた方がよいかと思いますが、いかがでしょうか?

Posted by 匿名 at 2020年11月20日 11:57 | 返信

わたしも数字にとらわれず、あれ?と気づける感性を持ち続けたいです
穏やかだったら それが一番〜

看護師だから看護をやりますよ
ミニドクターではございません

あっ!その前に一人の人間として 最期の大切な時期に出逢えた奇跡を大事にしたいです

Posted by 宮ちゃん at 2020年11月20日 10:31 | 返信

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