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コロナ対応が専門病院に偏りすぎている
2020年12月11日(金)
日本医事新報2020年12月号
発熱外来の実際と地域包括ケアシステムとしての感染対策 長尾和宏
3つのテント
12月7日時点で、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の患者数、重症者数は過去最高になっている。大阪府では高齢者に「外出自粛の要請」がなされている。コロナの検査需要が大きくなっている。行政は発熱外来と簡単に言うが、実際にはまずは相当広い空間が必要である。仮に屋外にテントを張るとしても複数要るはずだ。当院の場合は、待合・問診テント、検査テント、会計・投薬待ちテントと3つのテントをそれぞれ離して設置することになった。敷地内だけでなく敷地外の駐車場を借り上げるなどなかりの投資が必要である。こうした物理的な問題だけでなく人的配置にも相当な工夫が要る。
コロナとインフルの同時流行しはじめたら、同時検査ができる抗原キットを使用することになる。ドライブスルー検査なら3つのテントを必要としないので助かるが、予約、誘導、説明の手間がかかる。公共の場所でドライブスルー検査をすることはできなのでさらに大きなスペースが必要になる。このような事が可能な医療機関が全国に二万五千軒あると発表されているが、手を挙げたものの実際にはほとんど稼働していない医療機関もあるのではないかと想像する。もしそうならばそれらに対する補助金を実際に稼働している医療機関に回すべきであろう。発熱外来は街中あちこちにあるのが理想的だろうが、現実にはよく稼働している医療機関に限られた資本を集中投下するのは当然だろう。今は検査体制を充実する必要がある。
PCR自費検査3000円時代
自費のPCR検査が値下げモードに入ってきた。テレビ報道によると世田谷や新橋では約3千円でPCR検査が受けられるようだ。今後、急速なダンピング合戦が予想される。当院は当初、自費検査は検査センターへの支払いが2万円強なので3万円で行っていたが、現在は原価が約1万円強のラボを見つけたので2万円に値下げした。しかし患者さんからは「高い!」と怒られる始末である。膾炙からの要請など、一定の需要があるし今後も続くと思われる。島津が発売した約200万円の全自動PCR機械を買いたいところであるが、検体数が採算ラインに届かないので無理な話である。しかし行政検査の陽性率が2割で自費検査においても1割なので、やる意義はそれなりにあるかのだろう。もし医師会や行政にこの機械さえあれば検査体制は劇的に変わる。容器や試薬などの消耗品代が3千円ほどするので、やろうと思えば患者負担も3千円のほぼ原価でできるはずなので当院もそこを目指したい。NYのように誰でも何度でも無料検査とはいかないにせよ、国が早急に「日本全国どこでも3千円均一の自費PCR検査体制の整備」を主導すべきだと思う。 大阪では12月4日から高齢者の外出自粛が要請された。ここまでコロナ=死の恐怖、と植え付けられてしまった今できることは、自費PCR検査で死の恐怖から解放することではないか。
ただ医師が介在しない自費の唾液PCR検査の法的根拠を知りたい。東京にはすでに医療スタッフゼロの検査センターが稼働しているが、本当に大丈夫なのだろうか。まずは精度管理の問題がある。ただでさえ3割が偽陰性と言われている中で、検査機関による差異の検討はされるのだろうか。たとえば医療スタッフがいないPCR検査センターで万一、クラスターが発生したらどうなるのか。また誤判定があった時、責任の所在はどうなるのか。医療法の整備が必要である。もしも民間ラボが宝クジ売り場のように街中でどんどんPCR検査をしてもいいのであれば、PCR陽性者の届け出義務はどうなるのだろうか。「個人情報だから公表しない」という誤った解釈が出てこないか。個人的事情で届けない人がいても構わないのか。 すると我々が書いている患者発生届けはなんなのか。数々の疑問がある。 医療機関は有症状者で民間企業は無症状者というすみ分けだろうが、現実にはグレーゾーンがある。
コロナ陽性で入院していたが退院後に出社前に自費PCRを義務づける会社が多い。それが陽性であったという相談が舞い込むが保健所に聞いても明確な答えは得られない。株式会社による自費検査が認可された時点ですでに指定感染症という論理は破綻しているように思う。このようにコロナが二類(相当)指定という大義名分が急速に揺らいでいる。2021年2月以降に五類指定に落とすかどうかに関して早急な議論が必要である。
がん医療と対比してみる
がんは早期発見・早期治療で多くが完治できる。がん検診は開業医でもやっている。一方、コロナは開業医では早期発見はできても早期治療ができない。だから重傷者で感染症病院の医療体制は逼迫する。短期間で急変するコロナもあるが、多くは軽症で2週間程度経過するコロナなので多くは開業医で一次治療などの対応ができないものだろうか。人工呼吸器の話を聞いていると、そこに至る前になんとかできないものかという気になる。がん医療に喩えるとステージ4になってから慌てているケースばかりに映る。はや9ケ月が経過して重症化予測スコアが発表されている。ある点数以下の感染者はまずは開業医など一次医療機関でできるだけ重症化を食い止める対応ができるようなストラテージを練ってはどうだろう。
そのためには、開業医での早期診断のみならず、有症状感染者へのアビガンやフサンなど、エビデンスのある薬剤を炎症性マーカーをモニタリングしながら早期から積極的に使用することを国が推奨すべきではないのか。自宅療養者に対するオンライン診療の推進はもちろんである。感染症病床が逼迫した地域では入院の適応をもう少し絞ったほうがいい。そのためにも診療所という社会資源の有効活用を検討すべきと考える。
地域包括ケアでも対応する
すでに9ケ月が経過した現在でも、コロナ対策が感染症専門病院に偏りすぎている気がしてならない。たとえばリビングウイルを書いている90代の要介護高齢者へのコロナ感染が判明しても「住み慣れた我が家や介護施設にいたい」、「呼吸器は付けたくない。ここで死んでもいい」と言われた場合、どうすべきか。日本ではおそらく答えはない。あるいは介護施設に入所している要介護5の高齢者が感染した場合、具体的にどうすればいいのか、答えはあるのか。コロナ重症化は主に高齢者問題であるので、場合によっては在宅や高齢者施設においてコロナ感染者を看取りまでも視野に入れながら診るケースもあるはずだ。そのためにはケアマネや訪問看護師やヘルパーが不可欠で研修が不可欠である。今、力を入れるべきは介護施設で頻発するクラスターの扱いである。つまり、感染症病床が逼迫した今こそコロナ対策=地域包括ケアという視点が不可欠となる。感染蔓延地区では地域の医療介護スタッフ全員がその理念を共有して、今一度「地域包括ケア」という視点を練るべきステージに来た。
こうした視点は実は3月21日号のこの連載に書いている。ちょっと時期が早すぎたかもしれない。しかし半年以上が経過した今一度、医療崩壊という言葉を口にする前に真剣に地域包括ケアシステムの構築を考え直すべきである。国の専門家会議に感染症やウイルス学やワクチンの専門家だけでなく、在宅医療関係者、介護施設関係者など現場をよく知る地域包括ケアのエキスパートをどんどん投入ことは当然である。
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今日は、全国500人に認知症ケアのWEB講演をした。
熱心に聞いて下さった方々、ありがとうございました!
PS)
コロナチャンネル #236
クラスター発生で、なぜ病院が謝らないといけないのか →こちら
歌は「さらば恋人」です。
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この記事へのコメント
PCR検査結果を自宅で4日も待って重症化して瀕死状態の患者ばかり送られてばかりでは、コロナ病院のスタッフはもたないです。十三のように大量離職するという事態が繰り返されてしまうだけでは?
病院送りにする前にやるべき事があります。早期抗原/PCR検査、早期CT検査、早期ステロイド(デキサメサゾン)+抗ウイルス薬投与。これらをすべて地域急患診療所で外来や訪問診療ですぐ可能な状態にすべき。そうすれば、コロナ病院に重症患者が溢れて疲弊して救急停止という事にはならないはず。
あと病院スタッフにも無症候性コロナキャリアーは大勢いると思われますが、医療スタッフには定期的なPCR検査/抗原検査は全くされていないので、病院スタッフの誰もがクラスター源になりうる状況ですので、高齢者にとっては入院することそのものがコロナ感染死のリスクになります。若いスタッフが多い病院ほどおそらく発症しない無症候キャリアーとの接触が多くリスクが高いと考えるべきでしょう。
Posted by マッドネス at 2020年12月11日 09:46 | 返信
「医療崩壊危機の病院」というタイトルのニュース記事を見ました。
地域の「最後のとりで」として重症患者を受け入れてきた、岡山県北の拠点病院。感染症とは別の病棟でクラスターが発生し、病床が一気にひっ迫。このとき、近隣の病院から重症化した患者の受け入れ依頼を、初めて断らざるをえない状況に。その後患者は死亡したこと、ご家族が「静かにみとります」と死を受け入れていたということを後になって聞かされた、という内容でした。拠点病院の担当医師、患者のご家族、それぞれの思いを想像するに、何ともやるせないです。
負担は「やってくれる人」にのしかかる。本当はもっとちゃんと診たい、救いたい、ケアしたいと思っても、自分の身体は1つしかないし、人もモノもサポートも足りない。それでも現場に踏みとどまっておられるお医者さん看護師さん達に、どうか倒れないでと願います。
新型コロナ、いつになったら5類に出来ますかね。ワクチンの道筋が決まらないと、変わらないのかな。
Posted by taco at 2020年12月13日 10:32 | 返信
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