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文藝春秋の近藤誠氏の記事の間違いー回答編ー

2015年10月19日(月)

月刊文藝春秋11月号に掲載された近藤誠氏による
「川島なお美さんはもっと生きられた」という記事。→こちら
この記事の間違い探しのクイズ、の私の回答について書く。

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すでに何人かの読者が、答えを書きこんで下さった。
さっそく、いろんな指摘を頂き、私も勉強になった。

以下は、あくまで私の見解。
もっとあるかもしれないが、14ケ所を指摘しておきたい。

原文に、以下の間違いの番号を書きこんでいるので → こちら
時間のある方はこれをプリントアウトして、答え合わせをして欲しい。

では、いきまっせ!


間違い1) 患者が亡くなれば、医師の守秘義務が無くなる・・・・

     亡くなった後も医師法に定める医師の守秘義務は継続する。
     また、刑法にも抵触する。
     よって完全な法律違反である。
    
      「第百三十四条  医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、
       公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上
       取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、
       六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。 」

      医師の守秘義務は、医師法、個人情報保護法に定められる。
      刑法では上記の如く生死については記載がない。


間違い2) 主治医は、余命1年と脅した・・・・


      余命1年の話は、もし放置した場合の話ではなかったのか

      最悪の場合、放置したら余命はどれくらい?と聞かれたら
      そのように答えることはあるだろう。
      CT画像では分からない転移がある可能性があるのは当たり前。


間違い3) 独特の意味不明の文章は、ここだけでも論理学の試験に使える。
      文章を分解してみると、

      A)彼女の場合は、腫瘍はあったんですが、
      B)いずれ目に見えない転移巣が
      C)明らかになってくる
      D)可能性が高かった。
      E)そうなるとステージは末期のⅣということで
      F)切除手術自体が無意味ということになってしまう

      ここで、区切ってみよう。

      A)は、事実
      B)は、仮定 
      C)目に見えないものが明らかになる、のも仮定
      D)可能性が高かった、って、どうして分かるの?
        まさに後出しジャンケンの真骨頂。
        仮定、仮定、後だしジャンケンに引き続いて、
      E)そうなると、も仮定
      F)仮定を3つ重ねた結果のステージⅣなら、そもそも手術はしない。
        胆管がんにそんな手術をする外科医はどこにもいないはず。
        しないはずの手術を無意味と言っているが、まさに意味不明。


      すなわち、
      腫瘍が存在した事実→仮定→仮定→仮定→論理の飛躍
      で構成されている文章。
      英語ならどう訳するのだろう。

      さらに
      元気な人がバタバタ亡くなっていく・・・、と続くが
      バタバタってなんのこと??

      川島さんだけの話から、いつしか手術を受ける大勢の人の話に飛んでいる。
      近藤流、論理の飛躍が顕著に表れている場所で、最大の間違い箇所である。



間違い4) メスを入れたところにがん細胞が集まり・・・
      
      集まりません!!
      そんなことを言ったら、世の中の外科手術を受けた人は
      がんが集まってしまい、全員死ぬ(?)ことになるがそんなはずない。
      なんのことかまったく理解不能。


間違い5) もう一つは、初発病巣を切除手術で取り除くと・・・
      
      間違い4の部分とまったく同じことを言っている。(重複)
      同じ文意を繰り返していることに気がついていないのか。


間違い6) 僕はラジオ波焼灼術を提案しました・・・
      
      どうして専門家でもないのに、そんな提案ができるのか?
      また、放置せよ!と言っていたのに、ラジオ波を勧めるのか。

      ラジオ波も手術のひとつである。
      手術を否定しておきながら、手術を勧めている???

      すべて放置療法ではなかったのか?
      やはり理解不能。



間違い7) ラジオ波なら転移巣が大きくなる可能性が低い・・・
   
      どこからそんなことが言えるのか、意味不明。
      そんなエビデンスは無いはず。

      どうやら、ラジオ波治療について良く知らないのか、
      ヘンな思い入れがあるのか。
      低いではなく、高いなら、まだ分からない訳でもないが。


間違い8) ラジオ波では取り残しがあると脅しにかかる・・・・

      脅しではなく主治医は、必要な説明されただけだろう。
      脅したのは近藤先生のほうでは。


間違い9) もし群馬大学事件の後ならば・・・
 
      典型的なタラレバで、論外。
      何の意味も無い文章で意味不明。
      手術されたスタッフにも失礼。
      彼女は手術死していない。

      群馬大学と一緒にしているが、どうしてそんなことが言えるのか。


間違い10) 手術は12時間もかかった・・・

      肝臓の腹腔鏡手術では時間がかかることがある。
      胃や腸においても開腹手術より少し時間がかかる。

      少なくとも胃や腸では腹腔鏡手術が現在は、標準治療だ。
      手術時間だけでは、なんとも言えない。


間違い11) 手術をしなければ、がんが暴れなかった・・・

       タラレバのオンパレード。
       この論理が正しければ、手術した人のがんは全員暴れているはず。
       毎度毎度、論理的に破綻したことを繰り返している。



間違い12) 腹水を抜く処置を繰り返していると・・・・

       川島さんの場合、腹水を抜くことと(抜いたかどうか知らないが)
       寿命は関係無かっただろう。
       緩和ケアまで否定している。
       あるいは、それが緩和ケアであることを知らないのか。
       であれば哀しすぎる。


間違い13) がん患者の栄養失調は、食事療法にある・・・・

       そうではない。
       がん性腹膜炎になれば、食べたくても食べられないのだ。
       食事療法どころではない。
       意味不明。


間違い14) 1回2万円のビタミンC大量点滴は折り紙つきの詐欺療法・・・

       1回3万円のセカンドオピニオン外来こそ折り紙つきでは。(笑)

       その「折り紙」や「詐欺」は、そのまま自分に返ってくる。



以上、アホな私が一読しただけでも、これだけの間違いがある。
賢明な読者は、もっと沢山の間違いを探し出せることだろう。


それにしても、こんな文章を掲載する出版社のリテラシーは?



さらに重大な指摘をしておこう。

川島さんは、2013年8月14,15日の人間ドックで異常を認め
8月21日のMRIで、胆管に2cmの腫瘍を指摘されている。

そして9月29日に近藤誠セカンドオピニオン外来を受診している。
ちなみに、そのセカンドオピニオン外来を受診した方の感想。→こちら


そして、2014年1月に外科手術を受けておられる。


つまり、胆管がんを指摘された半年後に手術を受けておられるが、
その半年間の治療への遅れが、手術後の経過に影響を及ぼした可能性がある。

これは私の勝手な意見ではなく、肝胆膵外科の日本の権威である
静岡県がんセンターの上坂克彦先生の見解である。→こちら

週刊現代10月17日号で、上坂先生も「もう少し早く手術していれば・・・」
と語っている。

もし(タラレバは言いたくないが)、9月に近藤誠外来に行っていなければ
もう少し早く外科手術を受けていた可能性がある。であれば・・・

もう、何を言いたいかはお分かりだろう。


文藝春秋11月号の「川島なお美さんはもっと生きられた」という近藤氏の文章は、
「もし外科手術を受けなければ」・・という意味で書かれたことは明白であろう。

俺の言うことを聞かんから言わんこっちゃない、と。


しかし「もし近藤誠外来を受診していなければ・・・・」
という意味ではないかと、私は思ってしまった。


つまり、このタイトルはブーメランのように自分に返ってくることに
気がついていないようだ。

これ以上は怖くて書けないので、皆さまの想像にお任せする。



だからこの記事は、近藤氏の医師法違反、そして故人の名誉を傷つけるだけではなく、
近藤氏が川島さんの運命を大きく変えてしまった可能性を示唆している文章に見えた。



詳しく知りたい方は
「長尾先生、近藤誠理論のどこが間違っているのですか?」を読んで欲しい。
発売2ケ月で、5刷りになっている。


近藤先生の名誉のために申し添えるならば、私が指摘した明らかな間違い以外
の箇所は合っている、もしくは、だいたい合っている。


わずか数ページにこれだけ間違いがあればば、言論誌としては問題だろう。


この記事による犠牲者がさらに増えないことを、祈るのみだ。



      
      
   
     
      
      
     

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この記事へのコメント

私のような頭の悪い者でも、まあ何となく、分かりました。
長尾先生が、文芸春秋の記事に番号を付けて、赤線を引いていらっしゃるので、その熱の入れように、思わずクスッと笑ってしまいました。
よくわかって面白かったです。

Posted by 匿名 at 2015年10月19日 11:06 | 返信

つい最近見た(流れてきた)SNS投稿で、"癌法治療犠牲者"と断言できる訃報を読みました。
50代とおぼしき故人の息子さんが、父を忍び、その闘病と生き様を書き記し、父を尊敬する
思いと悲しみの胸中を綴っていました。友人である多くの青年らが、その死をお悔やみし、
慰めをコメントし、親思いの優しさに共感して拡散されていく内容でした。
父が選択した、癌放置療法を潔しとして、「けれども多様な民間療法を熱心に行っていたので、
又、酷い痛みにも耐え抜いた生活をしていたので、けして生きる事を放棄していた訳では無い」と
自分を納得させる作業としてのSNS投稿のようにも感じました。
まだ社会性に乏しく、限られた範囲での情報を信じてしまう年齢層、即ち情報の多様性を鑑みて
別の情報を自ら掘り下げて探すことをしない(考えが及ばない)ような若い世代にとって、
近藤誠氏が、癌放置療法を発信し続けることの功罪は図りしれない、と胸が痛んだ出来事でした。

Posted by もも at 2015年10月19日 11:23 | 返信

上のコメント誤字訂正:一行目に変換ミスがあります。

"癌法治療法犠牲者" 誤 ⇒ "癌放置療法犠牲者" 正  『放置』です。
なんのこっちゃ?と思われそう。
法律で取り締まれないのかしら、と嫌悪感が意識にあったので間違えちゃったのかも。

Posted by もも at 2015年10月19日 03:00 | 返信

自分の命.....自分で守れ!

私の 周りにも びっくりするような びっくりなことが多すぎて 泣きたくなります
おかしいでしょ!…と思っても
比較できる立場である私には解るけど
比較できない当事者たちは 解らんです
だから 権威のある方の 言葉を信じ 自分の大事な命を捧げちゃうんです

弱みにつけ込み 脅す…
最期は 見捨てる…
賢くなれ!
すみません 今日も理不尽なことがあり ぼやいてしまいました

Posted by 訪問看護師 宮ちゃん at 2015年10月20日 12:12 | 返信

長尾先生 近藤誠理論に対しての微に入り際に穿つ解説、大変興味深く拝読させて頂ました。仮説と実証が虚実皮膜にごちゃ混ぜになった近藤理論は、一見、医療に騙されないための一般市民の味方に読めるのですが、かようによくよく検証すると、大変危うい領域なのだと実感いたしました次第です。先生のご著書「長尾先生、近藤誠理論のどこが間違っているのですか?」は誰もが知る寓話、「ハーメルンの笛吹男」のパロディといいますか、オマージュの漫画から始まりますね。あの唐突に始まる漫画には意表を衝かれました。
アマゾンの書評を読むと、近藤氏をハーメルンの笛吹男にするのか、という誹謗中傷めいた感想がありましたが、お門違いかと思います。だってあれは、悪いのはハーメルンの笛吹男ではないのですよね? ハーメルンの笛吹男はなぜ生まれたのか? その場その場の利益しか考えなかった市民が悪いのです。そう考えると、私は本当の悪は、近藤誠先生ご自身より、彼の主張を過剰に煽りセンセーショナルな見出しを振りかざした後で、責任の所在をうやむやにする、出版社側にあるような気がいたします。
近藤先生は、一雑誌の見出しのつけ方など、何もご存知ないのではないでしょうか? それが実は天下の文藝春秋だなんて、大変なショックでございます。これがほかの三文雑誌であれば、まだ許されるかもしれませんが、私は幼き頃より父から、「何があっても、、NHK と 朝日新聞 と 文藝春秋 は信じてよろしい、テレビ、新聞、出版の正義はこの三社にあり」(別に左翼主義者ではございません、選挙は自民党に入れておりました)と育てられてしまいましたので、大変戸惑います。長尾先生のブログを拝読するにつけ、この三社は影響力が大きすぎるゆえ罪の重さを一度考えていただきたいと切に願います。

Posted by ゆうえん at 2015年10月20日 12:50 | 返信

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